ムサビの人気授業「スポーツマンガ研究」 美大生が選ぶ研究対象にゴルフマンガはあるか?

近年、マンガに関する調査研究は盛んに行われている

月刊ゴルフ用品界の「北徹朗の若人にゴルフを!産学共同奮戦日記 Vol.7」(2016年10月号)において、【最も子どもに人気の高いスポーツはサッカーであること】、【明治安田生命が2016年6月に公表した調査で、サッカーマンガ好きの2人に1人はマンガがきっかけで「サッカーを始めた」または「応援・観戦するようになった」】、とされていることを紹介した。

2001年には日本マンガ学会という学術団体も創設されているし、論文検索サイトなどを見ても「スポーツマンガ」やその影響について学術的考察を試みた研究は既に多数ある。

多くの一流アスリートもスポーツマンガに影響を受けた

NHKでは2014年8月10日から、『ぼくらはマンガで強くなった〜SPORTS×MANGA〜』を29回に渡り放送している。

また、2018年6月28日放送のクローズアップ現代でも『人生を変えるスポーツ漫画~ドカベンその半世紀が残したもの~』を放送し、スポーツマンガに影響を受け野球を始めたプロ選手や一般愛好者が紹介された。

前述の明治安田生命の調査では「これまでに最も力を入れて取り組んできたスポーツ」として、例えば、50代・60代・70代の女性において1位に挙げられたのが「テニス」であり、集計データからはテニスマンガ「エースをねらえ」の影響が大きいことが読み取れた。

「エースをねらえ」の原作者はムサビ出身

この「エースをねらえ」の原作者・山本鈴美香氏は、1970年に武蔵野美術大学商業デザイン科を卒業している。

通常、本学には厳しい実技試験を突破しなければ入学できないし、在学中、さらに実力をつけて卒業して行くが、作品の対象としてイメージすることのできるものでなければ、当然、表現のしようがない

その点でも、「美大生がゴルフの授業を受ける」意味は、単に、学生自身の健康や生涯スポーツのためのみならず、これからクリエーターになって行く彼らが、将来「ゴルフ」を題材としたモノや作品を作る、という選択肢持つ上でも極めて重要である。

ムサビの人気授業「スポーツマンガ研究」

筆者が所属している、武蔵野美術大学身体運動文化研究室では、「スポーツマンガ研究」(担当:青沼裕之教授)という講義が2005年から開講され、学生からの人気が高い。

この授業では、学生はマンガを1つ選択し、そのマンガについて、自分自身で定めたテーマに沿って考察しプレゼンする。プレゼンでの議論を踏まえレポート課題を作成し、その成果一覧は「スポーツマンガ研究第〇巻」として製本後、研究室内に保管されている。

ムサビ生が研究対象にしたマンガ

本稿では、保管されいる過去14年分の記録を調査し、ムサビ生が題材に選んできたマンガの傾向についてまとめたので紹介したい。調査の結果、学生によりプレゼンされたマンガのタイトル総数は198タイトルであった。

上位5位のマンガのタイトルは下記であった。

1位:スラムダンク(バスケットボール)7.6%
2位:おおきく振りかぶって(野球)3.7%
3位:ピンポン(卓球)3.7%
4位:テニスの王子様(テニス)3.3%
5位:ハイキュー(バスケットボール)2.4%

タイトルを種目別にみると上位5位は下記であった。

1位:バスケットボール 17.0%
2位:野球 15.2%
3位:テニス 5.7%
4位:サッカー 4.1%
5位:ボクシング 3.9%

また、上記上位種目のうち、プレゼンされたマンガタイトル数は下記であった

・バスケットボール 9タイトル
・野球 24タイトル
・テニス 5タイトル
・サッカー 10タイトル
・ボクシング 7タイトル

過去14年のうち「ゴルフマンガ」をプレゼンした学生は1人だけ

ゴルフマンガが取りあげられたのは1回のみ(ライジングインパクト)であった。発表したのは、2008年当時、視覚伝達デザイン学科に所属していた女子学生で、『ジャンプ漫画からみるパワーインフレとその考察』というテーマのもと、この作品を取りあげた。

ゴルフの普及・発展にはマンガを利用した戦略も必要

2018年7月に第1巻が発売された体操マンガ「THE SHOWMAN」は、体操五輪金メダリストの内村航平選手が監修として制作に参加していることで注目を集めた。

作者の菊田洋之氏は体操マンガの「ガンバ!Fly high」の作者でもあり、内村選手はそれを幼少期から愛読し体操にのめり込んでいったという。

この「ガンバ!Fly high」の連載が開始したきっかけは、1990年代前半、競技人口が減っていく事態を危惧した森末慎二氏(ロス五輪金メダリスト)が、自らの漫画原作を企画し、所属事務所の先輩である萩本欽一氏に相談したことによって、「週刊少年サンデー」での連載が決定したとされている。

今日、趣味や余暇の過ごし方が多様化したとは言え、マンガがスポーツの開始・継続にある程度の影響及ぼすと言うことは、ほぼ間違いないだろう。

今回調査した結果、将来クリエーターとなり得る美大生にはゴルフマンガがあまり選ばれていなかった。この事実は、「ゴルフマンガの書き手」を待望する上でも残念ではないか。

ゴルフの普及・発展という観点からは「マンガを通じてゴルフに目を向けてもらう戦略」も必要だろう。

 

参考文献

・北 徹朗(2016)ゴルフ業界の新戦略(案):「ゴルフマンガヒット戦略」、月刊ゴルフ用品界2016年10月号、p.59

 

 

 


※ムサビ=武蔵野美術大学の略称

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

<現職>武蔵野美術大学 身体運動文化准教授・同大学院博士後期課程兼担准教授、サイバー大学 IT総合学部 客員准教授、中央大学保健体育研究所 客員研究員、東京大学教養学部 非常勤講師  <学歴>博士(医学)、経営管理修士(専門職)、最終学歴:国立大学法人東京農工大学大学院工学府博士後期課程  <主な社会活動>ゴルフ市場活性化委員会委員(有識者)、公益社団法人全国大学体育連合常務理事、一般社団法人日本運動・スポーツ科学学会常任理事、日本ゴルフ学会理事・代議員、日本ゴルフ学会関東支部事務局長、一般社団法人大学ゴルフ授業研究会代表理事