ゴルフと健康-産学の協力で研究成果の量産を-

2017年8月1日に発行されたイギリスの研究誌 British Journal of Sports Medicine に、エジンバラ大学のMurrayらによる論文<An observational study of spectators’ step counts and reasons for attending a professional golf tournament in Scotland>が掲載されている。

2016年8月にスコットランドで開催された、Paul Lawrie Matchplayの観戦者(329名)に歩数計を配布しその計測結果と、観戦に訪れた理由などをまとめた、という内容である。

この報告によれば、観客の平均歩数は11,589歩(標準偏差 4531)であり、観客の82.9%が、健康に推奨される1日の歩数を観戦中に達成したとされている。そして、観戦に訪れた理由は、「新鮮な空気を吸いたいから」、「スター選手のプレーを見たいから」、「運動や身体活動量の確保のため」、「友人や家族との時間を持つため」、「雰囲気を味わうため」など様々であったとされている。

Murrayらは、2017年1月にも同誌に<The relationships between golf and health: a scoping review>と題する総説で、「ゴルフと健康」に関して世界中で報告されてきた約5000件近い研究論文を調査し、絞り込んだ約300件を評価し体系的に整理している。(これについては、当時、本稿著者(北)が月刊ゴルフ用品界2016年12月号の連載記事(北徹朗の若人にゴルフを!産学共同奮戦日記)中で紹介した。)

このたび発表された「観戦者の歩数」について、Murrayらは「この論文がゴルフ観戦の際の身体活動量を評価した最初の研究である」ということを強調している。いかにもありそうなネタのため「初めての研究」というのは一瞬意外に思ったが、調べてみるとやはり同じような試みは日本でも行われている。

例えば、月刊ゴルフ用品界が提供した記事によれば、過去に宮城県で行われた女子トーナメント観戦者(233名)において同様の試みがされ、その平均歩数も今回Murrayらが示した報告とほぼ同じ11,770歩であったとされている。

要するに、「学術論文」としてまとめられていないために、日本でのこうした優れた取り組みは論文データベースに掲載されることなく、学術レベルでは取り上げられない。一般的に、研究誌に発表されたものではない論考は「研究」として成立していないものとして扱われるため、無視せざるを得ない。

だが、いずれにしても、ゴルフ観戦により「健康日本21(第二次)」(厚生労働省)が示す歩数の目標値を性別・世代を問わず大幅に上回る可能性が高く、「ゴルフの観戦は健康づくりに寄与する」、と言うことができそうなのは概ね間違いないだろう。

『ゴルフは健康に貢献する』、『観戦だけでも健康に役立つ』ということを【エビデンス】(論文)として確かな証拠とするためには、産業界と学術界の連携・協力が必要である。ゴルフ場でのフィールド実験やトーナメント現場での研究・調査協力を求める健康・スポーツ科学者は山ほどいるし、今回、Murrayらが示した程度の研究成果なら、業界の協力があればほんの数日でまとめられる。

大学(学術界)とゴルフ業界は「大学ゴルフ授業」という観点から交流が始まっているが、フィールド実験・研究への相互協力など、今後の更なる広がりに期待したい。

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<現職>武蔵野美術大学 身体運動文化准教授・同大学院博士後期課程兼担准教授、サイバー大学 IT総合学部 客員准教授、中央大学保健体育研究所 客員研究員、東京大学教養学部 非常勤講師  <学歴>博士(医学)、経営管理修士(専門職)、最終学歴:国立大学法人東京農工大学大学院工学府博士後期課程  <主な社会活動>ゴルフ市場活性化委員会委員(有識者)、公益社団法人全国大学体育連合常務理事、一般社団法人日本運動・スポーツ科学学会常任理事、日本ゴルフ学会理事・代議員、日本ゴルフ学会関東支部事務局長、一般社団法人大学ゴルフ授業研究会代表理事