日本ゴルフ学会とは
1987年11月28日、「日本ゴルフ学会」の設立総会が開催され学会がスタートした。この総会では、河村龍馬氏(東京大学名誉教授)による記念講演や今後学会が進めて行くべき研究分野などの確認がされている。翌1988年9月30日には東京・日本青年館にて「第1回日本ゴルフ学会大会」が開催され、およそ30年が経過している。最近では、2018年11月23日からの3日間、阿蘇リゾートグランヴィリオホテル(熊本県)において第31回大会が開催されている。
研究論文誌「ゴルフの科学」には111編の学術論文が掲載
日本ゴルフ学会の研究論文誌「ゴルフの科学Vol.1,No.1」は、設立総会同日(1987年11月28日)に創刊された。毎年1~3冊の発行がされ、現在Vol.31, No.1までが発行されている。本稿では「ゴルフの科学」に掲載されてきた論文の特徴について紹介する。
ゴルフの科学に掲載される原稿には、学会大会の報告原稿や随想(依頼による原稿)など「査読を経ない原稿」と、数名の査読者とのやりとりを経て掲載が許可された「査読付き学術論文」の2つのパターンがある。学会設立以降、これまでに111編の査読付き学術論文が掲載されてきた。図1は、年別の掲載論文数の推移を示しているが、近年は査読付き論文の掲載が少ない年が続いている。
図1.「ゴルフの科学」に掲載された査読付き学術論文数の推移
掲載論文の分野と筆頭著者
「ゴルフの科学」には、Vol.1,No.1(1987年)に川島一明氏(日本大学)の原著論文「ゴルフスイングのバイオメカニクス的研究―足圧中心移動軌跡からみたゴルフスイングの検討-」が初めて掲載されて以降、現在までに合計111編の学術論文が掲載されているが、掲載論文の約3割をバイオメカニクス的研究が占めている。
要するに実験室等でスイング動作などを分析した研究が35編で最も多い。次いで、マネジメントや法律に関する研究(19編)、歴史学的研究(10編)、心理学的研究(8編)、ゴルフ場や練習場における事故実態や安全対策に関する研究(7編)が多かった。その他、一般ゴルファーのゴルフ実践の実態や健康関連の調査(6編)、ラウンド中の歩数や運動強度などのフィールドテスト(5編)、実験室等で測定された呼吸や心拍数などの生理学的研究(5編)、哲学・倫理学的研究(3編)、聴覚や眼球運動に関する研究(3編)、文献データベース作成の試みに関する研究(2編)、用具開発やクラブに関する研究(2編)、傷害・障害に関する研究(2編)に分類された。分類不能な内容(各1編)としては、一流学生アスリートに対するアンケート調査、キャディーの運動量と骨密度・栄養摂取量に関する研究、自然教育におけるゴルフ実技プログラムに関する研究、ゴルフマナーに関する実態調査、などであった(図2)。
図2.「ゴルフの科学」に掲載された査読付き学術論文の分野
また、掲載論文数上位のファーストオーサーは下図であった。これらの上位者には現役を引退したり故人も含まれている(図3)。
図3.「ゴルフの科学」掲載査読付き論文数上位のファーストオーサー
いま期待され求められるのはアクションリサーチ
「ゴルフの科学」に掲載された論文の約3割がバイオメカニクス的研究であることからも、合理的なスイングやコーチングの面では一定の貢献や議論の素材を示してきたものと思われる。ゴルフの科学掲載論文に限らず、多くの先行研究からは「ゴルフは心身の健康の保持・増進に寄与する適度な運動」であることは明らかであるし、「ゴルフをやってみたい」と考えている層も一定数存在するが、定着せず離反者も多いのはなぜなのか。この点からも、一般ゴルファーのメンタリティ調査やゴルフ環境、マーケティングに関連した研究がさらに深化し、既存の各種データを利用した応用分析とそれにより導かれた提言、またその提言に基づく実例(ファクト)が多く出されていくことが期待される。
この観点から過去のゴルフ分野を俯瞰すると、研究ではなくコンサル的な提言が多く、それらは目を惹く内容ではあるものの、社会や企業で取り入れられたり、定着することが難しかった印象は否めない。こうした反省からも、誌面上のみの提言ではなく、『研究→実践→研究→実践』を繰り返す、アクションリサーチが極めて重要であろう。要するに、権威ある立場から、お題目的に提言を「言いっ放し」することではなく、それを地道な活動によって根付かせる研究実践家(アクションリサーチャー)が待望される。
参考文献
北 徹朗(2018)「ゴルフの科学」掲載論文の特徴―日本ゴルフ学会はこの30年で何を明らかにしてきたのか?―、ゴルフの科学Vol.31 No.1、pp.33-34
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