科研費採択課題に見る「ゴルフ研究」の潮流

研究者が獲得を争う「科研費」

2018年3月に国立長寿医療研究センターなどが発表した「認知症の予防にゴルフは役立つ」という研究成果が話題となっている。ゴルフに関する疫学・社会科学的な研究はまだまだ発展途上であり、今後も多くの研究成果が報告されていくことが期待される。

「認知症とゴルフ」に関する発表がされた同じ時期に、2018年度の「科研費」(科学研究費助成事業の略称)の採択課題が発表された。科研費には毎年10万件を超える研究課題がエントリーされ、その採択率は25パーセント前後と狭き門であるが、科研費採択経験の有無は、その研究者自身の研究能力の評価指標として重視されるため、採否の通知に一喜一憂する姿が4月初旬にはどこの大学でも見られる。

科研費採択課題で「ゴルフ」をテーマとする研究は僅か

科研費は研究者の研究を発展させることを目的として、文部科学省およびその外郭団体である(独)日本学術振興会の事業で1939年から開始されているが、「ゴルフ」に特化した研究課題は非常に少ない。

科研費データベースで、研究課題に「ゴルフ」を含む研究を調べたところ、1989年から2018年までの30年間に採択されてきた課題は、僅か20件しかない(2018年4月30日調査,奨励研究を除く)。
ただ、これを10年ごとに区切って見ると、
・1989年~1998年   5件
・1999年~2008年   3件
・2009年~2018年 12件
であり、ここ10年では急激に増加していることがわかった。

採択課題のトレンドは「環境問題研究」→「ギア研究」→「フィジカル&メンタル研究」と推移

研究テーマに「ゴルフ」を含む20件の内訳は以下である(西暦は新規採択年)。

2018年>
「ゴルフパッティングの距離感に関する研究-パフォーマンスを制約する要因の解明-」
(岩手大学 長谷川弓子氏)
「筋発揮の推定および用具挙動にもとづくゴルフクラブの統合評価システムの開発」
(工学院大学 田中克昌氏)
2017年>
「ゴルフスイングにおける全身の力学的エネルギーフロー」
(国立スポーツ科学センター 高木斗希夫氏)
「新たな「人に優しいモノづくり」の実現―ゴルフクラブの快適性推定式の提案―」
(上智大学 竹原昭一郎氏)
「複合的な体幹運動解明のための運動力学的・形態学的研究-ゴルフスイングに着目して-」
(立命館大学 泉本洋香氏)
2015年>
「ゴルフ・パッティング能力を改良するためのランダム性トレーニングシステムの開発」
(信州大学 PATAKY TODD氏)
「ゴルフ場の半自然草原を活用した生物多様性の保全」
(甲南女子大学 松村俊和氏)
2014年>
「ゴルファーにみられる心理的距離生成のダイナミクス」
(岩手大学 長谷川弓子氏)
<2013年>
「経済不況下のゴルフ場経営戦略:行動経済学やゲーム理論・経済実験の手法を用いた研究」
(鹿屋体育大学 竹下俊一氏)
2012年>
「ゴルフスイングを取り入れた衝突解析モデルによるクラブ性能評価法の開発」
(工学院大学 田中克昌氏)
2010年>
「ハイビジョンカメラによるゴルフボ-ルの3次元位置計測用追尾システムの研究」
(福岡工業大学 溝田武人氏)
2009年>
「有限要素解析によるスウィング特性を考慮したゴルフクラブの性能評価法の確立」
(東京工業大学 田中克昌氏)
2006年>
「ゴルフ・クラブとボールとの反発特性に着目した衝突メカニズムの解明に関する研究」
(東京工業大学 田中克昌氏)
2002年>
「ゴルフボール周りの大規剥離流における低抗軽減メカニズム解明の研究」
(東北大学 加藤琢真氏)
2001年>
「ゴルフボールの衝突特性評価に関する研究」
(富山工業高等専門学校 本江哲行氏)
1996年>
「ゴルフ場開発に伴う水文環境影響の診断と予測に関する基礎的研究」
(新潟大学 杉山博信氏)
1992年>
「バイオ農薬によるゴルフ場芝草病原菌の防除
(静岡大学 中崎清彦氏)
1991年>
「ゴルフ場の造成が土砂流出、河川流量および水質に及ぼす影響について」
(北海道大学 藤田陸博氏)
1990年>
「ゴルフ場の造成をめぐる環境アセスメントの実態とその効果の研究」
(三重大学 市川貴之氏)
1989年>
「ゴルフ場で散布される農薬の運命予測と水源水質および健康に与える影響の評価」
(大阪大学 盛岡通氏)

 

1987年制定のリゾート法以降、ゴルフ場開発が激しかった1990年前後には「環境問題研究」、2000年代はクラブやボールなどの「ギア研究」が採択されている。近年では、パフォーマンスや心理面など「フィジカル&メンタル研究」が採択される傾向にある。

筆者が専任職を得る前の2009年頃、当時非常勤講師をしていた玉川大学で初めて科研費にエントリーできる権利を与えられた(大半の大学では非常勤職者は科研費には応募できない)。ゴルフを含むテーマで申請してみたがやはりこの時は採択はされなかった。

その後、テーマをゴルフには絞らないが、研究の中ではゴルフを扱う様な広範なスタンスで申請し採択されてきた。ゴルフは学校体育などで扱われることが少ない種目であることや、メーカーや業界のリサーチ力がある程度確立していることなども応募・採択が少ない要因かもしれないが、近年は採択件数が増えてきている。

海外では「ヘルスツーリズムとゴルフ」など、有益な研究が報告され出している。今回日本で報告された「認知症とゴルフ」のような、疫学や社会科学的な部分ではまだまだ未開拓領域が広がっている。今後の研究成果に期待したい。

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ABOUTこの記事をかいた人

北 徹朗

<現職>武蔵野美術大学 身体運動文化准教授・同大学院博士後期課程兼担准教授、サイバー大学 IT総合学部 客員准教授、中央大学保健体育研究所 客員研究員  <学歴>博士(医学)、経営管理修士(専門職)、最終学歴:国立大学法人東京農工大学大学院工学府博士後期課程  <主な社会活動>ゴルフ市場活性化委員会委員(有識者)、公益社団法人全国大学体育連合常務理事、一般社団法人日本運動・スポーツ科学学会常任理事、日本ゴルフ学会理事・代議員、日本ゴルフ学会関東支部事務局長、一般社団法人大学ゴルフ授業研究会代表理事