ゴルファーとゴルフ場支配人のマナー意識の相違

ゴルフマナーに関する調査

ゴルフ規則の第1章の冒頭には「ゴルフの精神」としてエチケットやマナーの大切さが謳われている。また、エチケットの重大な違反に当たると考えられる行為をした場合、規則33−7に基づいて競技失格の罰が課されることも明記されている。

日本では、バブル崩壊以後ゴルフ人口は減少しゴルフ場業界は不振に陥った。その結果、多くのゴルフ場が破綻や経営者の変更を余儀なくされている。こうした背景から、著者は、ゴルファーにおける重要な資質である「マナー遵守の現状」はどうなのかという問題を数量的に明らかにすることを試みてきた。(直近ではジュニアゴルファーのマナーと親の態度について報告)

具体的には、『日本のゴルフ場におけるマナー違反の現状』について、全国のゴルフ場支配人に対するアンケート調査を行い報告した(北ら,2008)。また、外資系企業による日本のゴルフ場運営への参入が相次いだ経緯から、国外のゴルフ場の現状はどうなのかについても調査し、『ゴルフ場のマナー違反の国際比較』について報告している(北ら,2010)。これらの調査対象はゴルフ場支配人であり、実際の顧客(ゴルフ場利用者)の意識を収集したものではなかった。本稿では、一般ゴルファーを対象に同様の調査を実施したのでその概要を紹介したい。調査方法としては、2015年3月に1都3県に在住する、現役アマチュアゴルファー400名(男性342、女性58)に対してインターネット調査を実施した。調査内容は、【調査①】「ゴルフ場でよく見かけるマナー違反」はどのようなことか。【調査②】「ゴルフ場で腹の立つ経験をしたことがあるか」ある場合「その理由は何か」、であった。

なお、 「エチケット」と「マナー」の言葉の意味の違いについて、ゴルフマナー研究家の鈴木康之氏はその著「ピーターたちのゴルフマナー」の中でエチケットとマナーを分類するのは不可能であることに触れ、その総称として「マナー」を用いている。本稿でも、この鈴木氏の記述に従い「マナー違反」と表記することとした。

ゴルファーが「よく見かけるマナー違反」とは?

「ゴルフ場でマナー違反(エチケット違反)を見かけることがあるか」との問いに、「よくある」(23.3%)、「ときどきある」(49.5%)との回答者(291名)に具体的な場面を自由記述で回答を求めた。その結果、386件の記述数があり、テキストマインニングによる分類を行った結果、『喫煙に関する内容』(15.8%)が最も多く挙げられ、次いで『スロープレー』(13.9%)が多かった。過去に発表しているゴルフ場支配人に対する見解とは相違が見られた(表1)。

表1.「ゴルフ場でよく見かけるマナー違反」の回答上位図1※ゴルフ場データ:『ゴルフ場で見られるマナー違反の国際調査』(北ら,2010)体育研究第43号、pp.18-20

また、ゴルフ場で起こるトラブルの発生理由の1つに、ゴルフを取り巻く全ての人における、マナーの共通見解が無いことがあるのではないかと考え、「ゴルフ場で腹の立つ経験をしたことがあるか」について調査した。この問いには58.5%が「ある」と回答した。男女別に「ある」への回答率を見ると、男性61.4%、女性41.4%であり、男性の方がゴルフ場で腹の立つ経験をした割合がやや多くみられる。

 

約6割がゴルフ場で腹の立つ経験有、腹を立てた相手は誰か?

腹の立つ経験が「ある」との回答者に、具体的にどのような状況だったかを自由記述で回答を求めた。テキストマイニングによる分析の結果、腹を立てた原因・対象として、『ビジネス(ゴルフ場)側』、『同じ組の同伴者』、『他のグループの客』、『自分自身』、『その他』の4つに大別された。図1に示したように、腹を立てた原因・対象として『他のグループの客』が最も多く挙げられ(51.7%)、その内訳として「スロープレー」、「打ち込み」に関する記述が約半数であった。次いで『同じ組の同伴者』が多く(30.2%)、その内訳は「話し声」、「暴言、つば吐き」、「スコア誤申告」等に関する記述が多く挙げられた。『ビジネス(ゴルフ場)側』が原因・対象となった内容は比較的少なく(7.4%)、「キャディや従業員の態度」と「フェアウェイ・バンカー等の未整備」で腹が立った経験があるとされた。また、分類不能な『その他』(8.7%)の内容として、「盗難」、「タバコ」等が挙げられた。『自分自身へ(のプレー)』という内容も2.1%見られた。

図2図1.ゴルフ場で腹を立てた対象

「マナー」や「エチケット」をキーワードとした学術研究は少ない。ゴルフに限らず、こうした観点の学術先行研究を調べても、エチケット、礼儀、作法といった類似した用語との異同を構造的な関連性からの定義づけを試みているが、人々の行動様式も変化することから、 何が正しいマナーかということも時代とともに変化するため、マナーやエチケットにおける現代的な定義が難しいことを示唆されてきた。

 

業界が今やるべき最も重要なサービスは「楽しい場の提供」

著者の調査では、現在のゴルファーの多くは「一緒にラウンドした人から」マナーを学ぶ機会が多いことがわかっているが、「正しいゴルフマナー」について、具体的な指標が無いため、見解の相違によるトラブルも起こり得ると思われる。「ゴルフマナーの指標がない」、「ゴルフマナーを学ぶ場が無い」、「エチケット、マナーの具体例が何かが曖昧な点が多い(明文化されていない)」などの課題をクリアするために、業界団体などが主導して、明確なガイドラインを示す努力が必要ではないか。

また、本稿で紹介した調査では、約6割ものゴルファーがゴルフ場で腹の立つ経験をしており、その多くは他のグループの客が原因・対象となったものだった。自由記述の内容から、特に「スロープレー」に対する思いが強すぎることが、腹を立てる要因の1つになっていると推測された。これは「スロープレーは絶対悪」というゴルフ場や業界全体の風潮にもやや問題があるのかもしれない。

一生懸命頑張っても初心者や高齢者はラウンドにやや時間がかかって当然であり、腹を立てた側も、腹を立てられた側も、ゴルフ市場にとって決してプラスにはならない。スロープレーを肯定するつもりは全く無いが、今後のゴルフ市場を考えた際、ゴルファーはさらに高齢化し、「Gちゃれ」などをきっかけに若いビギナーが増えて行くのは間違いない。

ゴルフ市場が盛り上がるためには「ゴルフ場は楽しい場所」であることが必須であろう。しかしながら、現在はそれを実現できないことがしばしば起こるようだ。本稿の結論としては、ゴルフ場が今やるべき最も重要なサービスは『客同士が互いに楽しく過ごせる場の提供』であり、それを実現するための方略が練られるべきであろう。

 

 

参考文献

・北 徹朗(2015)学窓からみるゴルフ産業改革案7:月刊ゴルフ用品界10月号,pp.70-71

・北 徹朗(2016)ゴルファーとゴルフ場支配人のマナー意識の相違:ゴルフの科学Vol.29, No.1,pp.56-57

・鈴木康之(1999)PETER’S GOLF MANNERS-ピーターたちのゴルフマナー-:ゴルフダイジェスト社

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    北 徹朗

    <現職>武蔵野美術大学 身体運動文化准教授・同大学院博士後期課程兼担准教授、サイバー大学 IT総合学部 客員准教授、中央大学保健体育研究所 客員研究員、東京大学教養学部 非常勤講師  <学歴>博士(医学)、経営管理修士(専門職)、最終学歴:国立大学法人東京農工大学大学院工学府博士後期課程  <主な社会活動>ゴルフ市場活性化委員会委員(有識者)、公益社団法人全国大学体育連合常務理事、一般社団法人日本運動・スポーツ科学学会常任理事、日本ゴルフ学会理事・代議員、日本ゴルフ学会関東支部事務局長、一般社団法人大学ゴルフ授業研究会代表理事