ゴルフ場の受動喫煙対策と一般ゴルファーの喫煙に対する考え

日本人の喫煙率は過去最低、今後も減少の見通し

『国民健康・栄養調査』(厚生労働省)によれば、日本人の成人喫煙率は19.3%であり、初めて20%を下回ったことが報告されている。男女別にみると、男性32.2%、女性8.2%とされ、男女ともに10年間減少傾向が続いている。タバコの製造販売者であるJTによる『平成26年全国たばこ喫煙者率調査』でも、男性30.3%、女性9.8%とされ同様の傾向である。国の健康政策の基本方針である『健康日本21(第二次)』では、2022年には喫煙率を12%まで減らす目標値を定め、現実的にも「タバコをやめたい」または「減らしたい」人の割合は年々増加(国民健康・栄養調査)している。

メガ・スポーツイベントと受動喫煙防止の動向

2020年東京五輪招致活動当時から、受動喫煙防止法が未整備の日本の遅れが指摘されていた。実際、近年の五輪開催都市では、多くの場合招致活動時には受動喫煙防止法が制定されている(表1)(図1)。

表.五輪立候補都市と受動喫煙防止法の有無

図9 ※日本禁煙学会ウェブサイトから作成

図10図1.東京新聞2012年3月17日記事(日本禁煙学会ウェブサイトより)

また、2010年7月21日にスイスのローザンヌにおいて、世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)は「すべての人々に運動とスポーツを 奨励し、タバコのない五輪を実現し、子どもの肥満を予防するために健康的なライフスタイルを奨励することを共同で行う」ことに合意している。当時 のジャック・ロゲIOC会長は、この合意において「健康的なライフスタイルと草の根のスポーツ運動を広げることはIOCとWHOの共通の目標であり、本日 の合意は、この2機関が行っている様々な先導活動の間に相乗効果を生むことになろう。」と述べている。この合意にも示されるように、オリンピック開催国と してタバコに対する取り組みが望まれている。

さらに、WHO西太平洋事務所からは、2010年に五輪やFIFAワールドカップなどの「メガ・イベントをタバコフリーにするためのガイド(A Guide to Tobacco Free Mega Event)」が示されている(図2)。

図11図2.A Guide to Tobacco-Free Mega Events(WHO WPRO,2010)

このガイドは2008年北京五輪前に出され、実際に北京市ほかオリンピック開催にかかわった中国の数都市はこの方針に則り、罰則付きの受動喫煙防止条例、タバコ広告の禁止法などを制定したとされている。近年、五輪に限らず、スポーツイベントにおける受動喫煙対策に関する研究報告も散見されるようになった。

 

ゴルフ場における喫煙環境と受動喫煙対策についての調査概要

ゴルフはその殆どが歩行であることから、健康運動として推奨されることが多く、生涯スポーツ種目の一つとされている一方で、プレー中における死亡事故は国内外を問わず多く発生している。この背景には、プレー中やプレー間の喫煙や飲酒が概ね許容されている稀有なスポーツであることも考えられる。先行研究では、心臓疾患を主因としてプレー中に死亡事故を引き起こすことが示唆されている。我々は国内外のゴルフ場での死亡事故の実態を調査し、飲酒や喫煙を伴うゴルフの危険性を示し、ゴルフ場における喫煙環境と受動喫煙対策について調査してきた。

ゴルフは2016年リオデジャネイロ五輪から112年ぶりに正式種目に復活したが、他のスポーツに比べてその環境は特異と言わざるを得ない。そこで筆者らは、「ゴルフ場事業者」(ゴルフ場支配人)と「ゴルフ場利用者」(一般ゴルファー)に対して、ゴルフ場における喫煙環境の実態と「健康づくりの場としてのゴルフ場」の実現に向けた基礎資料を得ることを目的としてアンケート調査を実施した。

【ゴルフ場支配人】:全国のゴルフ場1878コースの支配人に質問紙を郵送した。調査期間は2013年5月1日~6月30日であり、有効回収率は20.9%であった。【一般ゴルファー】:ゴルフを愛好している30歳以上の男女400名にインターネット調査を実施した。調査期間は2015年3月26日~3月30日であった。

 

ゴルフ場の喫煙環境と受動喫煙対策に関する支配人の見解

図1図1.ラウンド中にタバコが吸える(灰皿設置)場所

図2図2.クラブハウス内の喫煙環境

図3図3.レストラン内の喫煙環境

図4図4.ゴルフ場としての喫煙対策・方針の有無

図5図5.健康増進法施行以降の受動喫煙対策

図6図6.喫煙規制はビジネスに悪影響を及ぼすと思うか

図7図7.今後の禁煙対策に必要な法規制のレベル

図8図8.今後の喫煙対策を進める上で必要な要素

 

喫煙とゴルフ:東京五輪に向けた一般ゴルファーの意識

調査項目は、①ゴルフ歴、②喫煙の有無、③2008年北京五輪以降、開催された全ての五輪開催都市では国家的な受動喫煙防止法が制定されていることを知っているか、④2020年東京五輪に向けて全国的な受動喫煙防止法が制定されるべきと思うか、⑤多くのゴルフ場では喫煙場所が複数設置されており、ゴルフは他のスポーツと比べて喫煙には寛容であるが、ゴルフ場において禁煙にした方がよいと思う場所はあるか、であった。

図12

図13

図14

 

日本におけるタバコに対する主な法令や政策の現状

2003年の健康増進法、2007年の世界保健機関の勧告、2009年の厚生労働省からの公共的空間について「原則禁煙」とすることを強く勧奨する報告書、2010年に神奈川県の受動喫煙防止条例の制定、2011年のタクシーの全面禁煙化、など年々防煙対策が高まってきているが、受動喫煙対策に関する法律である「健康増進法」は努力義務にとどまっている。

近年の国家的な取り組みでは、『21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)』が挙げられる。健康増進法に基づき、生活習慣病の予防を目的とし、その大きな原因である生活習慣を改善する運動である。早期発見、早期治療という二次予防でなく、疾病の発生を防ぐ一次予防に重点対策を置き、「タバコ」をはじめ9つの分野について、具体的な数値目標を設定している。

 

2020 TOKYOに向けて今こそ業界を挙げた受動喫煙防止ガイドラインの策定を

ゴルフ場支配人に対する喫煙環境と受動喫煙対策の調査結果からは、

・殆どのゴルフ場でラウンド中に喫煙可能である。
・約半数のゴルフ場で喫煙対策の基本方針が決められていない。
・喫煙規制がビジネスに悪影響を及ぼすと考えるのは23.3%に過ぎない。
・受動喫煙を禁止する条例や法的規制が望まれている。

ことなどが主に明らかとなった。過去に著者らが報告した、九州や首都圏のゴルフ場に対する分析結果と比較しても、地域差などは認められなかった。今回の調査では、喫煙に関する法規制のレベルとして「諸外国のような全国レベルの禁煙法」(34.5%)への回答率が最も高かった。その一方で、『ゴルフ場内の喫煙規制はビジネスに悪影響を及ぼすと思うか』について、42.1%が「影響しない」と回答した(影響する23.2%)。喫煙に寛容であるゴルフ場の現状から見ると、意外にも「影響しない」への回答率が高い結果であった。

これらの結果はつまり「業界を挙げた喫煙対策が掲げられるのであれば従う」といったスタンスだと思われる。この事実からも、ゴルフが五輪種目に復活する今こそ、業界を挙げた取り組みやガイドラインを作成し、対策に乗り出すべき絶好のタイミングだと思われる。

2016年のリオデジャネイロ五輪からゴルフは正式種目に復活し、2020年には東京での五輪開催が開催される。一般ゴルファーの約7割も全国的な受動喫煙禁止法の制定を望み、4割弱がティーグラウンドなどは禁煙にした方が良いと考えている。近年の五輪開催都市では、多くの場合招致活動時には受動喫煙防止法が制定されており、日本におけるゴルフ場およびゴルファーにおいても、五輪正式種目に恥じないスタイルを示すことが早急に求められている。

 

 


 

【参考文献、参考資料】

・北 徹朗(2015)学窓からみるゴルフ産業改革案9『喫煙規制はゴルフ場ビジネスに悪影響を及ぼすか?』、2015年12月号

・北 徹朗ほか(2016)2020東京オリンピック・パラリンピックと受動喫煙防止に関する法的整備と市民の意識、中央大学 保健体育研究所紀要   (34) 57-66

・北 徹朗ほか(2016)日本のゴルフ場における喫煙環境と受動喫煙対策の現状と課題、体育研究   (50) 13-16

・北 徹朗ほか(2015)高等教育機関における喫煙防止教育の実践 -大学保健体育系講義における事例報告-、中央大学保健体育研究所紀要   (第33号) 81-89

・北 徹朗ほか(2014)ゴルフ場における喫煙環境と受動喫煙対策 -九州地方のゴルフ場に対する調査-、日本禁煙学会雑誌   Vol.9(No.1) 16-18

・KitaT, et al(2013)Current Situation of Smoking Environment and Measure against Passive Smoking in Golf Course in the Kyushu Distinct、The 10th APACT Conference Program and Abstract Book、p.206

・北 徹朗ほか(2014)首都圏近郊ゴルフ場における喫煙環境と受動喫煙対策、日本健康医療学会第7回総会・学術総会プログラム抄録集、p.109

・東京新聞2012年3月17日記事「五輪は受動喫煙防止の流れ  条例化せねば招致ムリ」,日本禁煙学会ホームページより

・World Health Organization Western Pacific Region(2010)A Guide to Tobacco-Free Mega Events,pp.1-34,

・たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(外務省訳)

・厚生労働省:受動喫煙防止対策のあり方に対する検討会報告書

・神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例

・(社)全国乗用自動車連合会:禁煙タクシーに関わる各県協会の取組みについて

・公益財団法人健康・体力づくり事業財団:健康日本21

・日本禁煙学会ウェブサイト:オリンピックと禁煙

ABOUTこの記事をかいた人

北 徹朗

<現職>武蔵野美術大学 身体運動文化准教授・同大学院博士後期課程兼担准教授、サイバー大学 IT総合学部 客員准教授、中央大学保健体育研究所 客員研究員  <学歴>博士(医学)、経営管理修士(専門職)、最終学歴:国立大学法人東京農工大学大学院工学府博士後期課程  <主な社会活動>ゴルフ市場活性化委員会委員(有識者)、公益社団法人全国大学体育連合常務理事、一般社団法人日本運動・スポーツ科学学会常任理事、日本ゴルフ学会理事・代議員、日本ゴルフ学会関東支部事務局長、一般社団法人大学ゴルフ授業研究会代表理事