Covid-19が変える日本のゴルフ  Part2

<Part-1>では日本のゴルフ場のことについて書かせていただきました。
<Part-2>ではCovid-19がもたらしたものを具体的に書いてみます。
それは日本のゴルフを大きく変えるものだと信じるからです。
何が新しくなり、何が始まるのだろうか?
今こそ、ゴルフ場の大転換の時が来たのです。ゴルフはゴルフ場という場所で行われるゲームなのですが、そのゴルフ場そのものが変わることで新たなビジネスの世界が開けると思っています。

感染症拡大防止のためにゴルフ場は大きなシステムチェンジを求められています。これをポジティブなものとして捉え、各ゴルフ場がそれぞれの特色を見出し、新たなやり方転換することでゴルフも含めた楽しさを存分に味わえる場所として存在感を出してもらいたいのです。
それが日本のゴルフの発展に次につながるからです。

何が新しくなり、何が始まるのだろうか?

目次
1、18ホールスループレイの定着化
2、プレイスタイルの選択肢の拡大
*競技者中心のプレイスタイルからの脱皮
*担ぎ、手引きカートの使用可
*飲食の持込み可
3、プレイ料金の平均化
4、クラブハウスの利用の仕方
5、ゴルフ場の新しい利用法

18ホールスループレイの定着化

実は18ホールをスルーでプレイするというのはゴルフというゲームでは当たり前のことなのです。そうしなかったところが日本のゴルフの特異な部分です。
なぜ、そうなったのかですが、ゴルフ場経営も一つの立派なビジネスで顧客を一人でも多く入れ、売上げと利益を出すのは当然のことです。一方、一つのホールでプレイできる人数は2組とされています。18ホールに2組ずつが入ると18x4名x2組=144名です。これ以上になるとどこかで渋滞が起こります。
待ち時間が1時間以上となればレストランで食事でも、となります。社交としてのゴルフや接待など仕事やお客様を集めて行うコンペでは良い時間となりました。当然、レストランの売り上げはしっかりと確保できます。

以前から18ホールのスルーでプレイを希望される方もいたのですが、そうすることで食事を取らずに帰られる方もいることからレストランの売り上げも落ちてきます。ゴルフ場にとっては難しい選択です。顧客の要望も分かるし、売り上げも確保したい。

この難問の答えを、有無を言わせずCovid-19が出したのです。
まず、18ホールのスループレイはゴルフをゲームとするならば当たり前の標準規格です。9ホールだけのプレイでも良いと思います。
米国のジュニアの試合は授業が終わってからの競技となるので9ホールが普通です。売り上げが減ってしまうと経営が持たない、というゴルフ場もあるでしょう。でもそれはやり方次第でクリアできるのです。

単純計算ですが午前の部と午後の部に分けて18ホールスループレイを考えると先ほどの計算式で18ホールでは最大144名がプレイ可能です。2回できるとその2倍288名がこの方式でプレイできます。そんな人数は机上の空論と思われますが100名ずつ、200名を超えることは十分できるのではないかと見ています。北海道や沖縄ではこのシステムは標準化しているのでやるかやらないかの問題なのです。

そうなるとレストランの売り上げはどうするかが大きな問題ですが、これについてはあとで述べることにします。コンペの開催や社交のゴルフが難しいなら、18ホールのスループレイの定着化をすべきだと思います。

プレイスタイルの選択肢の拡大


*競技者主体のプレイスタイルからの脱皮

まず、日本のゴルファーのうち競技ゴルファーはどのくらい存在するかですが、ゴルファーのおよそ5%です。ゴルフ場が主催する競技会に参加する会員の割合から見たものです。実はこの人たちの数はマイノリティですが発言力は超メジャー級なのです。
会員制のゴルフ場では理事会というものがあり、この構成メンバーはほとんどが競技ゴルファーだからで、彼らはよくゴルフをするのでゴルフ場とすればロイヤルカスタマーです。彼らの意見を少数だからといって無視できないのです。ゴルフ場としての決め事も理事会の承認を取らなければならず、自分たちのプレイ枠の確保(研修会と称して)、倶楽部としての決め事・エチケット・マナー厳守の徹底化、競技会や対外試合に関する経費の負担など経営にかかわることにも影響力があるのでゴルフ場は新しいことにチャレンジしにくい現状があるのです。同じ年会費を払っているのに民主的ではないですよね。

日本だけかもしれませんがゴルフは上手な人の発言権が強く、上手でない人を常に上から目線で見る傾向があります。自分たちがゴルフの楽しみの中心にいる、下手な人は迷惑をかけるのだから「プレイファースト:速くプレイしろ」と言って急がせたり、ティーイングエリアの使用を制限したり、楽しめる空気を奪う権利はないはずですが、実態はどうでしょうか?

ゴルフを始めて3年以内にやめてしまう人がいる原因は、楽しめないからという意見が多いのは初心者やビギナーに冷たいと感じさせる、空気がゴルフという場所に蔓延しているからではないかと見ています。上手な人ほど初心者をエスコートして楽しませてあげる努力をするのが本物のゴルファーの姿と思います。ごく一部の頂点の人たちに合わせていくのではなく、底辺にいる多くのゴルフを楽しみたい人たちに向けた施策がゴルフ場という場に強く求められるからです。
理事会には競技ゴルファーを10%程度とし中心的な理事は会員数が多いアベレージや初心者の代表が自分たちが心から楽しめるゴルフ場を作り上げていくのが民主的なやり方です。競技はその中の一部で良く、むしろ家族がゴルフ場に来て楽しめる、仲間が来て楽しめるそのようなことができるなら日本のゴルフはガラリと変わるのです。これもCovid-19が気づ付かせてくれた大きなことです。

*担ぎ、手引きカートの使用可
ゴルフの楽しみ方には人によって異なります。自分のバッグを自らが担いでプレイすることは最も自然なプレイスタイルです。打たれたボールの状況によって次に打つべきショットをイメージしそれに適するクラブを選択できるのは常にバッグがそばにあるからです。担ぐ体力に自信がなければ手引きのカートでも良いかと思います。
以前訪問したデンマークでは乗用カートを利用できる人は病院が発行する許可書を持っていないと使用できないもので、体力のない人には電動アシストカートが用意されています。
なぜかと聞いたら、健康のために歩いてもらうことが一番で、ゴルフはそれに最も適しているからという答えでした。ゴルフというものに対する捉え方、取り組み方が全く違うことに驚いたものです。どうしてもカートを使いたい人はプレイ料金の2倍を支払う設定なので、使う方は旅行者が多いそうです。

何が言いたいかはお分かりだと思いますが、日本でもゴルフを健康のためにと考えている人やゴルフそのものを楽しみたい人など様々です。乗用カートの使用を強制するやり方は少し違うのではないかと思います。選択肢があるべきと思うからです。
全てのゴルフ場でこのようにすべきといいうことではなく選択できるところが分かるようにしてもらうだけでも利用者には助かります。ゴルフ場はこのような要望を持ったゴルファーが存在する、しかもこのようなゴルファーはゴルフを本当に好きな人たちだ、という認識を持ってもらいたいのです。
担いでもカートに乗ってもプレイ料金が同じ金額にするとどのくらいの人が希望しているのか分かるはずです。まずはそこから始めてみてもらいたいですね。せっかくCovod-19がセルフプレイの楽しみ方と意義を教えてくれたのですから。

*飲食の持ち込み可
これはゴルフ場にとって由々しきことかもしれません。レストランの売り上げに直結するからです。でもCovid-19はそうさせたのです。今の現状を見れば明らかで真のゴルファーは純粋にゴルフをしたいのです。1回でも多く。
そのためにはレストランで食事をするよりも弁当を持参してコストをセーブしたい人もいます。
また、ビーガンやアレルギー持ちの人は食事にとても敏感で自分たちが選んだものしか食べられないのです。

現在は、サービスの一環として昼食付きでプレイ料金を設定しているところが多く見られますが、どれだけの方が喜んでそれを受け入れているかはわかりません。食事は食べる事と書く事から食べるは生きるに通じる事です。

1食でも大切です。食材はどこから、有機栽培のものなのか、塩分は、油は何を使って調理しているのか、という事を気にし始めた人がどんどん増えています。
Covid-19は食に注意を向ける人たちを確実に増やしています。感染症や病気に負けない強い体を作りたい、健康でありたいと考える人たちです。
ゴルフ場のレストランの付加価値を高めるにもむしろ健康を前面に出した食を付加価値としてアピールしたらどうでしょうか?
有機栽培の野菜や適切な環境で育成された肉など近隣の農家でそれらを実践しているところと契約を結び、その素材を元にレストランで食事を提供したり、それらの素材をゴルファーに定期的に購入できるようにするだけでも付加価値が高まり、それを目当てに来てくれるゴルファーもいる、いや開拓すべきではないでしょうか? 病院や薬代にお金を払うくらいならゴルフ場に支払った方がどれだけ気持ちが良いものか誰もがわかるはずですよね。
料金の内訳がわかれば少し高くても納得できます。安くしなければやっていけないと言って安い食材で調理したものを提供するなら、飲食は自由にしてもらいたいのです。

3、プレイ料金の平均化
Covid-19はゴルフ場の料金体系も変えてしまいました。
今までのゴルフ場の料金体系は平日が安く、土日祝日が高い設定になっています。需要と供給の関係からそうなりました。サービスの質がどうしても落ちてしまうのに料金が高いのは不合理だと感じている人も多いのです。
しかし、テレワーキングが定着化してくると曜日の感覚より、より効率よく仕事ができる時間、場所に変化が起こっています。自分で働く時間や曜日をコントロールできれば余暇の時間を上手に作る事も可能です。
平日の午前や午後にスループレイができるなら仕事をうまく調整して平日にプレイも可能です。ゴルフ場のコンペルームを仕事場として利用することだってありです。競技会もパスの優先権を持たせるものでなくスループレイにすれば何の問題もなくプレイできます。

週末より平日の予約が多くなるのであれば、むしろ平均化している方が安定して顧客を確保できるなら、料金格差は必要なく同じサービスを提供できれば顧客はいつでも同じ価格でプレイできるので助かります。もし週末に台風が直撃する予報が出るだけでキャンセルが殺到して予定した売り上げは飛んでしまいダメージは大きいですよね。

テレワーキングの定着化は都会から地方へと言う流れも作り出しています。仕事がどこでもできるなら人々はより暮らしやすい場所を求めてリスクの高い都会から離れたいと思っているのです。
地方にある魅力あるゴルフ場はある意味チャンスと見ても良いのではないでしょうか? 自分たちの強みを前面に出してそれを付加価値として提供する事が地方でも十分生き残っていける大きな要因となるからです。
自分が住んでみたいと思う地域に付加価値の高いゴルフ場があるなら、嬉しいじゃないですか。

4、倶楽部ハウスの利用法
現在のゴルフ場の多くはゴルフをする場所としてのスペースと宴会場の機能を持った倶楽部ハウスの2つの施設を合わせてゴルフ場としています。
Covid-19は宴会場部分を閉鎖させたのです。それでもゴルファーは従来とは違うプレイスタイルに戸惑う事なく楽しんでプレイしているように見えます。倶楽部ハウスがなくてもゴルフには何の支障もないのです。
しかし、ゴルフ場にとってはもう一つの収益の柱が存亡の危機になりビジネスモデルを早急に改革しなければならない立場に追い込まれたのです。
ピンチです。

私としてはこのようにしたらどうでしょうかという提案をしたいのです。あくまで考え方としてですが…
倶楽部ハウスとコースとを完全に切り離した経営形態を作り上げるというものです。ゴルフコースだけの運営であれば施設として受付と事務所的な施設があればよく、コース管理部門はそのままであっても維持管理費は倶楽部ハウスを含めたものよりかは相当少人数で回せます。プレイ費を安くしても利益は出せるものです。
倶楽部ハウスは宴会場機能に浴場、ロッカールームまで兼ね備えたもので、地域の特徴を活かす何か付加価値をつけた形でビジネス展開ができないかを考えるべきだと思います。

例えばレストラン機能は地域の有力な素材を使った創作料理を地域の自治体と共同でアピールしてはどうでしょうか? 将来、独立して店を持ちたい人や都会でやっていた人が地域に戻ってやりたい人など公募してレストランを核とした施設にします。もちろん腕が確かで人を呼べる実力がないとダメですが、探せば必ず見つかります。探す熱意の問題だからです。

地方にはそんなに顧客がいない、遠くだと人が集まらない、と思いますがどこにあっても一度は行ってみたい、という付加価値を付ければどうでしょうか? 評判がたてば日本だけでなく海外からも噂を聞きつけて人は来るものです。ツーリズムの一環として評判の良い食事処はなくてはならないものだけに私は可能性はあると見ています。食事につられてゴルフもするかもしれません。自治体とタッグを組む理由がここにあるのです。

今までコンペルームとしていた部屋はオフサイトミーティングの会議室として利用できるし、サテライトオフィスとしてもまた、セミナーや各種教室としても使えます。夜は個室で食事を楽しむ場所としての利用も考えられます。
倶楽部ハウスというスペースをどう使うか、どのようにアピールするか、どんな人に利用してもらいたいかです。浴室もリラクシングする場所の一環としてアロマセラピーやマッサージとセットとして利用できるので簡単な宿泊施設があればより利用頻度は高まります。

新しい魅力ある施設は新たな雇用も発生します。腕のよいシェフがいればそれを学びたい人たちが必ずいます。評価の高いところにはよい人たちが自然に集まるのです。流れが変わりつつある今、新しい生き方を踏み出す大きなチャンスとしたいです。ゴルフ場は斜陽ではなく、可能性がある魅力ある場所としてです。

5、ゴルフ場の新しい利用方法
ゴルフ場はゴルフだけで営業している実態はゴルファーが減少している中ではジリ貧状態に陥っていくことは目に見えています。
しかし、少し何ができるかを俯瞰して見るとその可能性はかなり高いものがあります。
例えば、緑の芝生を敷き詰めた広大な敷地の場所とすると、災害の緊急避難場所としても利用可能です。テントを張れば仮設の簡易住居や病院機能もありです。倶楽部ハウスはなんでも揃っています。緊急時に必要な物資を備蓄しておくこともできます。そうなれば地域にはなくてはならない場所となります。避難訓練など年に1回ほど行えばゴルフ場というものがどのようなものなのか理解も進み、ゴルフに対する見方も変化しゴルフを始める人も出てきます。

野外の総合施設としても大いに可能性があります。ゴルフ場という場所を見てもらい様々な観点からどのような利用方法が可能性があるのか、それはビジネスとしての可能性もあるものなのかを調査しても良いものです。意外な利用方法があるかもしれません。

私がゴルフトライアスロンという競技をゴルフ場で行うことを決めたのもそこがポイントでした。ゴルフ場の持つ機能をゴルフ場や関係者に知ってもらう意味もありました。ゴルフ場が隔離されているだけに交通面での道路使用や安全管理に負担がないからです。選手も緑の空間を車や信号などのストレスから解放されて思いっきりプレイができるのです。

ゴルフ場は18ホールの総距離はおよそ9km、9ホールだと4.5kmでランニングには適度なアップダウンもあり、周回すれば距離別のレースも開催できます。スポーツバイクもカート道を走るだけでもギアシフトやハンドル操作の技術と脚力を競うレースも可能です。
ゴルフだけの収容人数は多くて1日200名前後で、一人1万円の支払いであれば200万円が売り上げとなります。ランニングレースでは一人3000円で500人参加者がいた場合150万円の売り上げです。1000人なら300万円でゴルフの収益をはるかに超えることとなります。

企業に運動会みたいなイベントとして1日300万円で貸し出すこともありです。このようなイベントを陸上競技場という施設を同じような金額で借りているのであれば、ゴルフ場の魅力は陸上競技場の数倍はあります。アイデア次第ですが色々な仕掛けができるからで福利厚生費とすれば企業にとってはありがたい施設と映るのではないでしょうか。

健康をキーワードに考えれば、病院と提携して予防医学の観点からゴルフを推奨し楽しみながら歩いてもらうのです。
地方自治体も補助を出して健康である方が健康保険を通じた医療費を支払うよりかは安くつくはずです。健康寿命と実際の寿命の期間が短ければ自治体の負担も減るからです。

ゴルフ場の経営を考えるなら年間に10日と20日ほどはゴルフ以外の営業をすることで新たな収益を作り出す何かを見つけ出して欲しいと思います。
そのようなこと会員制のシステムではできないよ、と言われるかもしれません。しかし、経営難になって倒産するより自分たちのゴルフ場が生き生きしている方がどんなに誇らしいことでしょうか?
今、世の中は多様性があり持続可能なことが求められています。
私はゴルフ場こそ潜在的には大きな可能性があると信じます。都市にあっても、地方にあってもそれぞれの場所で必要な存在となれば、ゴルフに対する見方、考え方が変わるからです。
Covid-19の影響で生活は大きく変化を求められるなら、ゴルフもしかりです。誰もが楽しめるゴルフ場、これが次世代のキーワードですね。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

1949年12月23日生れ  神奈川県出身
東海大学工学部航空宇宙学科卒、在学中は体育会ゴルフ部副将および関東学生ゴルフ連盟の連盟委員を兼務。パイロット志望から一転してゴルフ用品販売業務に携わる。ゴルフ工房を主宰しながら1988年からフリーランスゴルフライターとしても活動。国内外合わせて25のゴルフクラブメーカを取材し、記事として各誌に掲載する。「良いゴルフクラブとは何か」をテーマに取材活動を続ける。1989年米国キャロウェイゴルフの取材と掲載記事をきっかけに親交を深める。
その後1994年キャロウェイゴルフからのオファーを受け日本人初の正社員として契約。日本法人では広報担当責任者として6年間担当し、その後2014年までCorporate Relationsの担当責任者として勤務。主に対外的な渉外活動を行う。2015年からフリーとなる。
「日本のゴルフを面白くする」が新たな活動テーマ
キャロウェイゴルフ在職中はゴルフの普及や活性化のために幅広く活動。
◎ゴルフ市場活性化委員会広報責任者
◎一般社団法人日本ゴルフ用品協会 活性化委員、ジュニア委員
◎NPO日本障害者ゴルフ協会理事
◎北海道ゴルフ観光協会顧問
主な活動・著書
*著書:クラブが分かれば上手くなる!(スキージャーナル社)  
*取材編集:ゴルフの楽しみ方(講談社)