Covid-19が教えてくれたゴルフの視点

Covid-19(新型コロナウィルス感染症)の流行は2020年初頭から世界中の日常を非日常に変え始めました。日本では4月7日に発動された緊急事態宣言が5月26日には全ての都道府県で解除されました。しかし、6月2日の時点で東京都は早くも感染者の増加傾向を見て警告(アラート)を出しました。新しいタイプの感染症は有効な薬やワクチンが出来ない限り元の状態に戻ることはないのです。

Covid-19の影響は人々の生活の様々な部分に入り込み、生活様式を一変させています。「新しい日常生活」が始まる、と言われてもこれが一体どのようなものなのかまだ誰もわかってはいないと思います。
ゴルフを日常の中に入れている人(ゴルフが仕事の人、ゴルフが趣味の人)にとってこれからのゴルフスタイルがどのようになっていくのか、今回はそれにフォーカスしてみたいと思います。

目次

*メディアがゴルフを見る目
*なぜ、メディアはゴルフをネガティブな素材として取り上げるのか
*そのような視点を持っている人から見るゴルファーの行動は
*その場でゴルフをしているゴルファーの気持ちは
*練習場の本心
*過去にもあったネガティブな報道
*深いGAPを埋める努力が必要
*どのようにしたら良いのでしょうか?

メディアがゴルフを見る目


Covid-19が拡散して緊急事態宣言が出された後、感染拡大を阻止するために各自治体は休業を自粛してもらいたい施設、店舗などをリストアップして不要不急の外出の自粛を半ば強制的にお願いしました。
地域のリーダーとしての各知事達は県民の命や生活を守るという大義に多くに人が従いました。
<Stay Home><お家にいてね>のキャッチフレーズとほぼ全てのメディアによる集中砲火的な自粛要請の報道、そして著名人が感染から死亡するというニュースも重なって人々の危機感は急速に浸透し始め、大都市では週末の人出が通常の20%以下を超える日もありました。

そのような中で自粛要請を聞き入れず幾つかのパチンコ店が営業を行い、その店舗には開店前から営業を知った人が行列ができるほど集まり、開店と同時に店内に入っていく様子がTVや新聞でニュースとして報道されました。

それと同じニュースの中で全ての打席を埋め尽くし、駐車場も満員状態の屋外のゴルフ練習場の風景を取り上げて「不要不急の外出自粛要請が出ている中でゴルフ練習場はこの通り満員状態で営業している」と報道したのです。

営業自粛要請を独自の判断で拒否した(そこには様々な理由があると思います)パチンコ店の状況と自粛要請外のゴルフ練習場に集まる人たちを同じ視点で取り扱ったことはゴルフ関係者にとってはショックな出来事であり、ゴルフというものが一般的にはどのように認識されているかの一面を見ることができたのです。
ゴルフ界としてこの現実は真摯に受け止め、一般の人たちのゴルフを見る目を変えていくことをしない限り日本のゴルフは世界から取り残されていくように見えるのです。

なぜ、メディアは何かあるとゴルフをネガティブな素材として取り上げるのか?


まず、日本のゴルフ人口はどのくらいあるのかを知ってもらう必要があります。2016年の社会生活基本調査によると890万人とでています。ゴルフ人口とは何を指してゴルファーとしているかといえば、1年間の間に1回以上ゴルフ場でプレイするか練習場で練習をするかという人をゴルファーとしています。実際よりは大きな数字となる可能性が大きいことと、世界の基準とは違うことを頭に入れておいてください。日本の人口が約1億2600万人とすると約7%ほどです。

日本のスポーツ人口
https://www.miniyama.net/entry/2018/10/05/060221

すると日本人の93%の人はゴルフをやらない人たちです。メディアの人も同じ割合だと見ると、彼らがゴルフを見る目はゴルフ関係者が考えるものとは大きな隔たりがあっても不思議ではありません。仮にゴルファーだったとしても始めたばかりや、年に1回ぐらいの方だとゴルフの現状や知識などは乏しいものです。
ゴルフ関係者はゴルフをしない人たちに対して、正しいゴルフの普及や広報活動をする努力をしていても、その方向が違っていたのではないかと思われるのです。ゴルフは他のスポーツと違って2つの側面を持っているところが特異な部分です。一つの側面はスポーツとしてのゴルフであり、もう一つは社交としてのゴルフです。

いずれのゴルフもゴルフ場でプレイし道具も同じものを使うのですが、ゴルフをしない人から見れば両者の区別はつかないものです。むしろ同じに見えていると思います。
ゴルフ場というところはゴルフをする人しか入ることのできない閉鎖された空間で、一部の人たちだけが楽しんでいる特別な遊びの場所、という感覚を持っていると推測できるからです。

そのような視点を持っている人から見たゴルファーの行動は


ほとんどの人たちが外出の自粛を求められ、家の中で我慢している最中に家を出てゴルフの練習とは、何を考えているのか?「お家にいてね」の意味が分かっているのだろうか?

ゴルフは不要不急のものなのに、我慢ができないゴルファーという人たちは自己中心的な輩が多い、という他の多くの店は営業を自粛して売り上げもなく、今後の支払いや従業員の生活、会社自体の存続の危機が迫り不安が拡大していく中で、優雅にゴルフをしている、生活に困ることのない人はいいよな、という視線。
我々とは別世界の人たち、という冷めた空気も漂っている。

このような人たちの思いを代弁するような形での報道だったと見ます。
ゴルフをしない人たち、現状に苦しんでいる、大変な思いをしている人たちからすれば理解出来るものかもしれません。

その場所でゴルフをしているゴルファーの気持ちは


いつもの仕事場でなく家でのテレワーク、リモート会議に追われ、しかも家族がいる中での仕事はストレスが想像以上にきつく、体を動かさないと心身ともに参ってしまう。

スポーツジムやプールは閉鎖が続き、近くの公園はいつもより人が多くとてもストレス解消にはならないだけでなく感染も心配だ。せめてゴルフ練習場が空いているなら体を動かしリフレッシュしたい。

ゴルフ練習場やゴルフ場は屋外であること、ソーシャルディスタンスも配慮されているし3密でもない。ウォーキングやジョギングそして自転車などは運動不足を解消できるし精神的にもリラックスできるので推奨している。
ゴルフもそれと同じものだ、だから練習場に行こう。

ゴルファーなら十分理解出来る部分でもあるのです。

ゴルフ練習場の本心


練習場も休業自粛要請の対象から外れているからといって積極的には営業しようとは思っていないのです。むしろこのような状況の中、通常営業をすることは難しく、練習場協会などが作成した独自のガイドラインに沿って営業するものの、顧客や従業員から感染者が出た場合、即休業となり、その後の営業にも大きなリスクがある。しかも、従業員の健康を考えると色々な場所から人が集まるだけに絶えず不安の中で業務を遂行するストレスも相当高いのでできれば休業したい。

室内のゴルフ練習場が休業を余儀なくされている中、ストレスや運動不足を抱えるゴルファーの受け皿として営業すべきという顧客からの強いリクエストもあり、一方で練習場で仕事に従事している人の多くはパートやフリーランスのプロゴルファーがほとんどという現状があります。彼らの生活を考えると休業は彼らの生活まで奪ってしまうというジレンマもあるのです。

過去にもあったネガティブな報道


それは2001年2月、愛媛県の海洋高校実習船「えひめ丸」がハワイ沖で米国海軍の潜水艦に衝突されて多くの若い命が失われた事故がありました。
当時首相であった森さんがゴルフをしている最中に事故の一方を受けた時のことです。忙しい職務の中僅かな寸暇を見つけゴルフをしていたのですが、秘書官から現在詳細を確認をしているので少しゴルフ場で待っていてください、と連絡を受けたのですが、報道では「このような大きな事故が起こった中でゴルフをしていた。何をやっているのか」と強い口調での報道されたのでした。ゴルフ関係者には事故も大きなショックでしたが、このネガティブな報道にもショックが走ったのです。どうしていつもゴルフはこのようにネガティブに捉えられなければならないのか。森首相がラグビーやサッカーなど他のスポーツをやっているならこのような報道にはならなかったはずと。

深いGAPを埋める努力が必要


ゴルフをする人としない人との間には大きな溝(GAP)が存在することが今回の報道で再認識されたのです。この両者の間に存在する深く大きなGAPは今後のゴルフの普及を考えればどうしてもクリアしなければならない大きな課題であり、できれば早急に対処しなければならない部分なのです。

まず、ゴルフが特別な人たちが行うものという感覚を打破しなければなりません。確かに用具やプレイするにもお金がかかる部分があります。しかし、他のスポーツなどでもお金が必要なものはありますが、ゴルフはどうもまだ偏見の目で見られている部分があるのです。

ではどのようにしたらよいのでしょうか? 

ゴルフ界に突きつけられている大きな課題です。今回は問題提起とさせていただき、次回はどうしたらゴルフは正しく理解されるようになるか、特異とされている日本のゴルフをどうしたら普通になっていくのか、そうすれば何が起こるのか、など自分なりの考えを書いてみます。お待ちください。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

1949年生れ  神奈川県出身
東海大学工学部航空宇宙学科卒、在学中は体育会ゴルフ部副将および関東学生ゴルフ連盟の連盟委員を兼務。パイロット志望から一転してゴルフ用品販売業務に携わる。ゴルフ工房を主宰しながら1988年からフリーランスゴルフライターとしても活動。国内外合わせて25のゴルフクラブメーカを取材し、記事として各誌に掲載する。「良いゴルフクラブとは何か」をテーマに取材活動を続ける。1989年米国キャロウェイゴルフの取材と掲載記事をきっかけに親交を深める。
その後1994年キャロウェイゴルフからのオファーを受け日本人初の正社員として契約。日本法人では広報担当責任者として6年間担当し、その後2014年までCorporate Relationsの担当責任者として勤務。主に対外的な渉外活動を行う。2015年からフリーとなる。
「日本のゴルフを面白くする」が新たな活動テーマ
キャロウェイゴルフ在職中はゴルフの普及や活性化のために幅広く活動。
◎ゴルフ市場活性化委員会広報責任者
◎一般社団法人日本ゴルフ用品協会 活性化委員、ジュニア委員
◎NPO日本障害者ゴルフ協会理事
◎北海道ゴルフ観光協会顧問
主な活動・著書
*著書:クラブが分かれば上手くなる!(スキージャーナル社)  
*取材編集:ゴルフの楽しみ方(講談社)