こんな時だからこそ、すべての人々にゴルフの素晴らしさを再認識していただきたい。
そんな思いから、日本ゴルフジャーナリスト協会の会員に「新型コロナウイルスとどう向き合うか」をテーマにしたリレー特集を呼びかけました。それぞれの思いが1本の原稿に詰まっています。順次公開しますので、ぜひお読みください。
日本ゴルフジャーナリスト協会会長
小川 朗
5月1日。ワイドショーがゴルフを悪者にし、「自粛警察」が練習場を臨時休業に追い込んだ日として、長く記憶にとどめておくつもりだ。
自粛ドミノ、同調圧力、ステイホーム、自粛警察、アベノマスク、ソーシャルディスタンス、たったおひとり様セルフ、ウィズコロナ…。
新型コロナウイルスが猛威を振るうようになってから、原稿作成の際に新規登録された語句を羅列してみた。それはそのまま、ネットメディアや紙媒体から「このテーマで書いて欲しい」と依頼されたものでもある。
自粛要請が解除されて、押さえておかねばならないポイントが2つ見えてきた。自粛警察をミスリードしたワイドショーの体質と、それを防げなかった原因だ。
この2つのテーマは一見違うものに見えるが、根っこの所でつながっている。それを象徴する出来事が起きた、5月1日まで時計を戻そう。
この日、日本ゴルフ協会と全日本ゴルフ練習場連盟は民放連(日本民間放送連盟)に対し、ゴルフを過剰にウイルス感染と結び付けた報道をしないよう、申し入れを行った。
元々屋外のゴルフ練習場は自粛対象外であり、当初は好意的に扱われていた。しかし「ステイホーム」の言葉が独り歩きし始めると状況は一変した。
ググると4月29日の「グッとラック」(TBS系)が出てくるが、ゴルフ関係者の話を総合するとこうなる。「フジテレビがパチンコ店の行列と、練習場が満席となっている様子を結び付けて放送するようになり、続いてテレビ朝日も空撮などを使ってゴルフ練習場の様子を映し出した」(練習場関係者)。
この報道が何を生んだか。自粛警察と呼ばれる人々による露骨な営業妨害だ。河川敷の練習場を土手の上から撮ってSNSに「満席です」と上げる。「うちの孫が感染したらどうするんだ!」と猛抗議してきた女性もいたという。このままでは従業員にも危険が及ぶと判断した練習場は、2日から6日間、休場する羽目に陥った。
この頃パチンコ店は自粛要請の対象だったが、ゴルフ場や屋外のゴルフ練習場はそのカテゴリーには含まれていない。にもかかわらず批判の対象となったのは、「ステイホーム」のみが善とされ、家の外に1歩でも出ることが悪とされる同調圧力が原因だった。
連日、映像を垂れ流すことでそれを増幅させたのがテレビのワイドショーだった。ゴルフ練習場はそのターゲットとなり悪者にされた。テレビ局によるミスリードが自粛警察の活動に火をつけたのだ。
民放連へ抗議した翌日から、練習場が休業に追い込まれた事実は動かない。昨年秋に台風で甚大な被害を受けたゴルフ練習場にとって、GWはその損害を補填する数少ないチャンスだった。それすら握りつぶしたテレビ局と自粛警察の責任は重い。
そこで明らかに意図的な報道を行なったフジテレビとテレビ朝日に質問状を送った。いずれも『自粛要請対象ではないゴルフ施設を、自粛要請対象のパチンコ店と同列に扱った意図と編集意図は?』という内容だ。
これに対して、フジテレビ広報からは、こんな答えが返ってきた。「不要不急の外出の自粛が求められている中、ゴルフ練習場に多くの人が集まって密の状態になっている事実を放送いたしました」。
密ではないものを、あたかも密の状態であるかのように撮影したスタンスを反省する気はさらさらない。
テレビ朝日からの回答にも、問題意識は見られない。「日本ゴルフ協会と全日本ゴルフ場連盟から民放連に届いた要望書については承知しています。今後も丁寧な報道に努めてまいります」。今後も、という表現を使うからには、これまでの報道に問題はないと言いたいのであろう。
少なくとも、ゴルフを悪者にし、ゴルフ練習場をトップシーズンに営業できなくしたという自覚はまったく伝わってこなかった。こうなると、繰り返されるテレビ局の偏向報道を他山の石とするしかない。JGJAは本質を見据えた正しい報道に徹するべきだと、一連の騒動は教えてくれている。
言葉に映像が加わることで、良くも悪くも効果は何倍にもふくらむ。1億総発信時代となった今、それを悪い意味で実感させられる展開になった。言葉を扱う仕事である我々も、肝に銘じなければならない一件だった。
反省すべき点がもう一つある。
「言葉のチカラ」は正しいタイミングで、しかも広く知られる形で発信されなければ、効果は薄い。ゴルフ業界は3月、4月と言葉の持つ力を発揮仕切れなかった。民放連への抗議に至る5月1日以前に、ゴルフが「3密」から最も遠いところにあるという、ゴルフの持つ最大の強みを世間にアピールして先手を打つチャンスは、今となればあったと思う。
例えば無観客イベントやオンラインでのトークイベント。そうした積極策に打って出て、前述したゴルフの長所を、世間に強くアピールする。そのタイミングを逸してしまった。
多くの教訓を、今回のコロナ禍で我々は得た。早急な決断と実行を後押しする報道が、JGJAの使命だと痛感している。会員の総力を結集し「言葉のチカラ」を発揮していく体制にシフトしたい。
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