プロ10年目、28歳の道産子が、8試合続いていた海外勢の連続優勝を止めました。女子ツアー開幕3戦目、初日から首位を守って突っ走った菊地絵理香が、大会最多アンダータイの通算14アンダーまでスコアを伸ばした完全優勝。一昨年の初優勝から3年間、毎年勝利を挙げて通算3勝目。2位には5打差をつける強さをみせましたが、なにごとにも遅咲きの″エリカ様”が、今シーズンはようやく本領を発揮しそうな滑り出しです。
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昨年10月のマスターズGCレディスで全美貞(韓)が勝って以来、申ジエ(韓)、イ・ボミ(韓)、テレサ・ルー(台)キム・ハヌル(韓)・・ら海外の強豪連に優勝をさらわれ続けた女子ツアー。今季も開幕からアン・ソンジュ(ダイキンオーキッド)、全美貞(ヨコハマタイヤPRGR)と韓国パワーの炸裂で、日本勢の″連敗〝は「8」まで続いていました。その勢いをだれが食い止めるのか。開幕第3戦でストッパーになったのが小柄な道産子・菊地絵理香でした。
鼻高々のコメントをするかと思いきや、試合後の菊地は彼女の淡々としたプレーぶりと同じようでした。
「私は(同世代の)イ・ボミさんやアン・ソンジュさん、申ジエさんにはまだ足元にも及ばない。彼女たちはいろんな状況で、当たり前のようにさまざまな技術を出してきます。私は今回勝ったとしてもまだまだ技術不足。私は挑戦する身で、対等に戦うにはもっとレベルアップしないとダメ。メジャーなどには通用しないと思う」
満足感に浸るところもなく、足元を踏みしめるように話したのは、これまで長年苦労してきた菊地らしい一面でもありました。
北海道・苫小牧出身。ティーチングプロを父に持ち、中3で日本女子アマの4強に入るほどの腕前でした。プロを目指して1学年上に有村智恵、原江里菜らがいた宮城・東北高に進学。東北ジュニア優勝、全国高校選手権夏季大会で個人・団体2冠など、トップアマを経験しました。しかし、07年、初挑戦したプロテストに不合格。QT(出場予選会)も3次敗退。08年、2度目のプロテストに合格したものの、プロになってからも順風満帆とはいかず、初シードを取るまでに5年を要しました。
絵理香の″不運”はプロになってもまだ続きます。13年、日本女子オープン、最終日途中で単独トップに立ちながら、16、17番の大詰で連続3パットして崩れ、1打差の2位に泣きました。14年はNEC軽井沢72、富士通レディスで2度のプレーオフ負けで悔しい思いは続きました。プロ8年目の15年4月、KKT杯バンテリンでやっと初優勝。16年4月、スタジオアリスで大会新記録の通算14アンダーの爆発をみせて通算2勝目。ようやくツアーを戦えるプロにのし上がってきました。この年、予選落ちは1回だけという安定したシーズンを送って賞金ランキングも10位をキープしました。
万年2位、悔しい思いの数々を経験し、″シルバーコレクター”絵理香です。ツアー3勝は、4月2勝、3月1勝といずれも桜咲く″春”に挙げました。しかも5打差完全で初優勝した15年からは、毎年1勝は勝ち星を挙げる実力を発揮し始めました。今回も2位以下に5打差をつけたパーフェクトVの爆発は、絵理香の開花を告げるものでしょうか。
毎年のようにオフは「アプローチとパット」を磨き続け、パットに悩んだときはパッティングの名手とされる男子プロの谷口徹に教えを請い、「ハンドファーストのインパクト」を徹底して習得したこともありました。
今回も「今週で一番自信になったプレーは?」と問われ「最終日の17番(パー3)でグリーン手前のスロープ下に外したとき、やさしくないアプローチをイメージ通りに寄せてパーセーブできたのが、今週で一番だと思います」と、練習を重ねてきたショートゲームの成果を自画自賛しました。
一つ一つのプレーに一喜一憂せず、淡々とプレーする絵里香のゴルフスタイルは安定感があります。「過去2回とも逃げ切りだったし、今週も淡々と無駄なボギーを打つことなくやれば逃げ切れるかなと思っていた。2、3回のミスやピンチは絶対あると思っていたし、今回は焦ることなく18ホール落ち着いてやれました。手が動かなくなるみたいな感覚も一度もなかった」と絵理香。さらに「ここで勝ったからといって、安心してはいけないと思います。韓国選手はどんどん調子を上げてくると思うし、いい意味で危機感をもって来週以降もできればいいと思います」と、勝っておごらず、優勝コメントも最後まで地に足をつけたものでした。
将来はメジャーに勝ち「日本中の人から応援されるような選手になりたい」と、夢を語る28歳。外国パワーに立ちはだかったこのストッパーは、遅咲きながら度胸の据わったたくましいヤマトナデシコの一人といえそうです。
【この記事は2017-3-21 ゴルフ会員権売買の老舗 (株)桜ゴルフ『児島宏のグリーン見聞記』に掲載したものを転載しております】
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