2017年11月までに下記29回のGちゃれが行われている。
年度末までに600~700名程度の参加が見込まれているが、本稿では、下記の3点について概観したい。
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(1)Gちゃれの推移
(2)八王子モデルの概要
(3)『連携教育科学』(Science of Educational Bridging )の提案と地方創生の可能性
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(1)Gちゃれの推移
<2015年度>
・第1回(8/10)千葉・イーグルレイクGC(6名)
・第2回(1/28)埼玉・岡部チサンCC(6名)
———————-産学連携協定締結———————-(2016年6月27日)
<2016年度>
・第3回(8/5) 東京・八王子CC(25名)
・第4回(8/17) 東京・八王子CC(21名)
・第5回(11/1) 東京・GMG八王子GC(5名)
・第6回(12/26)兵庫・有馬CC(16名)
・第7回(1/18) 東京・GMG八王子GC(18名)
・第8回(1/19) 東京・GMG八王子GC(15名)
<2017年度>
・第9回(5/28) 東京・GMG八王子GC(9名)
・第10回(6/4) 東京・八王子CC(7名)
・第11回(7/27)神奈川・川崎国際生田緑地GC(41名)
・第12回(7/28)神奈川・川崎国際生田緑地GC(60名)
・第13回(8/3) 東京・八王子CC(11名)
・第14回(8/4) 兵庫・有馬CC(7名)
・第15回(8/4) 東京・八王子CC(11名)
・第16回(8/7) 東京・八王子CC(32名)
・第17回(8/8) 東京・八王子CC(7名)
・第18回(8/17) 東京・GMG八王子GC(8名)
・第19回(8/21) 千葉・東我孫子CC(2名)
・第20回(8/23) 埼玉・高坂CC(4名)
・第21回(8/30) 熊本・くまもと中央CC(2名)
・第22回(9/7) 山梨・上野原CC(3名)
・第23回(9/9) 兵庫・有馬CC(7名)
・第24回(9/11) 兵庫・有馬CC(7名)
・第25回(9/12) 兵庫・有馬CC(7名)
・第26回(9/14) 埼玉・鴻巣CC(23名)
・第27回(9/15) 埼玉・鴻巣CC(23名)
・第28回(10/22)東京・八王子CC(9名)
・第29回(11/19)東京・八王子CC(7名)
11月以降、2017年度内には、第40回までの開催が予定されている。Gちゃれ開始以来、首都圏の大学生を中心に既に約300名が、Gちゃれを利用してゴルフコース(コースデビュー)体験をしている。2017年度末までの参加学生は総計600~700名程度になると見込まれている。なお、Gちゃれの詳細は、大学ゴルフ授業研究会のウェブサイトを参照されたい。
(2)八王子モデルの概要
これまで、大学ゴルフ授業の多くが学内にとどまらざるを得なかった最大の要因は「コスト」と「ゴルフマナー」である。産学連携により、従来の様々な壁が取り去られるにまでには至らないとしても、業界側の努力でかなり低く設定してもらえることとなった。それにより、グラウンドでの授業と、ゴルフ場体験への接続・往還が可能となり、教育の質や学生が得るアウトカムズも多様で、なおかつ深いものになった(図1)。
(図1)
『他大学の学生や教員との交流』、『ゴルフ場や地域の人との交流』、『ゴルフ用品提供者など業界関係者との交流』なども影響していることが、事後アンケートから読み取れた。学生にとって、業界関係者との交流は、インターンシップ的な意味合いもあり、学生・業界関係者双方にとっても有意義な場となっている。このように、「Gちゃれ」は、授業で得た知識やスキルを発揮・確認する場であることは勿論、その他にも「産業」や「地域」、「他大学の学生」、「他大学の教員」など、様々なブリッジングを生んでいる。
これまでのGちゃれを開催することの多かった八王子市は日本有数の教育都市として知られている。実際「大学コンソーシアム八王子」には25校が加盟し、10万人もの学生が学んでいるとされている。それに加え、八王子市内にはゴルフ場4施設が集まっており、東京都内においてはゴルフ場が多い地域でもある。これまでのGちゃれでは、八王子市内の大学生や教員はもちろん、多摩地域の大学、東京23区内の都心の大学、山梨県の大学等から、「Gちゃれ」に集っている(図2)。ここに、企業からのサポートや、地域のNPOなどからの支援の申し出があり、様々な連携・交流(ブリッジング)が生まれている(図3)。
(図2)
ゴルフ授業をきっかけに構築された線をより太くし、開かれた大学を目指すためのブリッジングの展望として、①サポーター企業との連携(学生のインターンシップ、企業研究に関する情報共有、大学での教育・研究支援)、②ゴルフ場産業との連携(地域ゴルフ教室の開催、体育授業の支援、大学教育・研究の支援)、③地域との連携(運動・スポーツ教室、健康教室、健康指標・体力測定評価、大学の地域開放)、④他大学・大学間の連携(合同練習会や合同授業、大学間交流、学生同士の交流、協同・共同・共働の活動)などが考えられる。特に④は「体育」科目ならではの連携ではないか(図4)。
(図3)
(図4)
(3)『連携教育科学』(Science of Educational Bridging )の提案と地方創生の可能性
今日、私立大学の約4割が定員割れし、いわゆる「2018年問題」が目前に到来しようとしている。大学教養体育授業として「ゴルフ」は多数の大学で行われており、全国にゴルフ場が約2300カ所もある現状から、どの地域においても、大学が地域に出かけて行けば「八王子モデル」のような現象が起きうると思われる。
実際、兵庫県の有馬カンツリー倶楽部には、武庫川女子大、甲南大、追手門学院大など近隣の複数の大学がGちゃれに参加し、八王子と同じような現象が起きている。また、2018年2月には、愛知県の貞宝カントリークラブで初めてGちゃれが開催されるが、愛知学泉大、名古屋産業大、椙山女学園大など、豊田市周辺の多くの大学が参加することになっている。このGちゃれ開催には、地元企業なども支援を表明しており、地域・産業・大学の交流が準備段階から活発になっている。「大学ゴルフ授業」は、現状、産業や地域を結びつける副次的・波及的な力を持っている。
「地域連携」や「産学連携」は、既に多くの事例があるし、用語としても一般的である。ただ、Gちゃれのように、大学の教育・研究と企業や地域との連携や、他大学の学生同士の交流についてはあまり前例がない。現代社会においては、テクノロジーの進歩やサービスの高度化により職能の分化傾向が拡大している。企業や自治体、地域住民など、それぞれにおける多様な特徴や機能は、コーディネートすることでその機能が何倍にも高まることが「八王子モデル」でも証明された。
コラボレーションの事例を蓄積し、「連携」による新たな実践教育の成果を学術的に検証する領域として『連携教育科学』(Science of Educational Bridging)を提案したい。
大学評価基準には『基準10 社会連携』という項目があるし、高等学校以下の学校期における教育実践にも寄与できると考えている。実際、2018年度から移行が開始される、文部科学省の新学習指導要領では、今回の改定により初めて「前文」が置かれた。その中に、「教育課程を通して、これからの時代に求められる教育を実施していくためには、よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念を学校と社会とが共有し、それぞれの学校において、必要な学習内容をどのように学び、どのような資質・能力を身に付けられるようにするのかを教育課程において明確にしながら、社会との連携及び協働によりその実現を図っていくという、社会に開かれた教育課程の実現が重要となる」という一文が出てくる。このように、学校はさらに社会に開かれて行くことや、地域や企業との連携が求められ、連携教育の検証の場が求められて行くと考えられる。
この学問領域に集う研究者が増えて行けば、学生の更なる教育効果の向上とともに、地域の活性化にも寄与することができるのではないか。
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