ゴルフは真の「生涯スポーツ」になれるか?

※この原稿は、『月刊ゴルフ用品界2015年5月号』に掲載された記事(北徹朗の学窓から見るゴルフ産業改革案)の内容を再編集したものです※

<注目すべきPGAゴルフアカデミーの取り組み>
2015年3月9日、日本プロゴルフ協会(倉本昌弘会長)は「PGAゴルフアカデミー」設立に際し、『認知症予防・改善プログラムの作成』や『生活習慣病予防・改善プログラムの作成』にも取り組むことを示しました。ゴルフ人口の拡大のみならず、ゴルフが及ぼす社会へのベネフィットをも見据えた挑戦的で有意義な方針であると感じられます。
現在のゴルフ市場を支えているのは主に50代~60代以上の年代ですが、この層に1日でも長くゴルフを続けてもらうためにも、ゴルフ場に“健康づくりの場”という価値を見いだすことは大変重要であり今後が注目されます。

<ゴルフは「生涯スポーツ」ではなかった>
ゴルフはその殆どが歩く運動(ボールを打っている時間は2~3分)であることから、健康づくりのために推奨されてきました。前述のPGAゴルフアカデミーの方針も、この点に注目してのことでしょう。
しかしながら、筆者が2015年1月に発表した[ゴルファーの離反理由に関する調査結果]を年代別に見ると、70代以上においては「健康を害した」という回答率が他の年代に比べ顕著に高い結果となりました(図)。これまでゴルフは生涯スポーツの代表格とよく言われてきましたが、健康を害してやめざるを得なかった人が意外にも多い現状がこの調査により見えてきました。70歳を超えてもゴルフを続けられる環境を整え、真の「生涯スポーツ」になることを目指すことがまずは必要だと思います。
健康を害した(離反図)          図.健康を害してゴルフをやめた人の割合(北,2015)

<高齢者の特徴に配慮したゴルフ環境の整備を>
加齢に伴い細胞や臓器に変化が起こり、骨密度や筋肉量、視力や聴力、脳や神経系など、ゴルフに直接的に関わる機能も衰えます。身体の衰えは個人差があるにせよ避けることはできませんし、病気の心配なども出て来るでしょう。これらを踏まえ、例えば「カートを乗り入れられる範囲の拡大」や、「ボールを見つけやすい環境の整備」、「高齢者向けのボールや用具の開発」という方法も考えられます。高齢者向けの用具を実用化した場合、当然ゴルフ場側のアダプテーション(適応)も必要となりますが、それは同時にビギナー向けの環境になることも期待できると思います。

<プレイ・ファストは勿論大切、しかしスロー・プレーヤーにも温かいゴルフ環境を>
筆者はゴルフが生涯スポーツになり切れていない原因の1つに、ゴルフマナー(ゴルフ規則では「第1章:エチケット」)があると感じています。具体的には「スロープレー」に対する態度です。確かに、ゴルフ規則には「適切なペースでプレーすべき」とあります。経営の観点からは、出来るだけ速くラウンドしてもらうことで顧客の回転率も高まり、スムーズなラウンド環境を提供することで顧客満足度も高まることでしょう。
ゴルフ規則第3章にもスロープレーについて、「プレーヤーは不当に遅れることなく」とされています。前述のように加齢により動作や思考は緩やかになり、視力も衰えボールの認知も遅くなりますので、“不当に”というのは当てはまりません。病気をしたり回復のためのリハビリ中の身の上などであれば、ラウンドスピードが遅くなったとしても無理もないでしょうし、ゴルフ人口のコア層の高齢化が急速に進んでいる今日、今後このような事例も増えて行くのではないでしょうか。
ゴルフ場支配人を対象に2006年から筆者が実施しているマナー違反に関する調査では、よくあるマナー違反の最上位に『スロープレー』が毎回挙がりますが、筆者はゴルフ業界の活性化のためには、一般ゴルファーに対してこの点にこだわりすぎるのは得策ではないと考えています。

<「プレイ・ファスト」から『ゴー・アヘッド』への発想の転換を>
ゴルフ規則には、『もし前の組との間隔が完全に1ホール空き、後続の組をも待たせているときは、後続の組が何人組であろうと、その組に先にプレーして行くように声を掛けるべきである』そして、『後続の組の方が早くプレーできることが明らかな場合はその早い組に先にプレーして行くように声を掛けるべきである』とされています。今日、多くのゴルフ場ではリモコン式の電動カートが導入されており、この規則に従うことが困難となっています。まずは、ラウンド中に組の順番を入れ替えることが可能にできるシステムにする(戻す)ことが必要であると思います。既にそれが可能なゴルフ場では「プレイ・ファスト」(速く回ろう)ではなく「ゴー・アヘッド」(お先にどうぞ)を推奨するべきではないでしょうか。
筆者の調査では、全国のゴルフ場の82.2%(推計)がゴルフ場来場者に対するマナー教育やマナー啓発を「実施している」と回答しています。具体的な内容を尋ねたところ、そのほぼ全てが「ポスターやビラの掲示」との回答でした。つまり、ゴルフ場でよく見かける【ハーフ2時間15分でお願いします】とか【上手いより速いがカッコいい】などの掲示物による呼びかけのことです。
プレイ・ファストをあまりに厳しく言いすぎると、高齢者やビギナーはゴルフ場へ行き難くなることが懸念されます。「それがゴルフだ」と言われればそれまでですが、「ゴルフはこうあるべき」という固定概念を少しだけ考え直す時期に来ていると思います。これまで述べてきたように「適切なペース」とは年齢やスキルによって変わって当然なのです。

<スキー場マネジメントに学ぼう>
ゴルフと同様に1993年をピークに人口が減少し続けてきたスキー人口が回復傾向にあることが最近報じられています。その理由の1つに、子ども時代に家族に連れられてスキーをした世代が親になり、子どもを連れてスキー場回帰していることが挙げられています。
ゴルフの場合、現状では家族ぐるみで楽しむことは考え難いと思います。スキーに学び、「ゴルフは家族ぐるみで行えるスポーツ」というスタイルがあってもよいのではないでしょうか。
スキー場には、スキー(アルペン)だけでなく、スノーボード、ショートスキー、テレマーク、スノーバイク、ソリなど、同じフィールドで色々な楽しみ方がされています。ゴルフ場の場合、今のところスキー場の様な楽しみ方はできません。(最近、フットゴルフという新たなスポーツのブームも報じられていますが)
思い切り発想を変えるとすれば、カップを大きくするとか、高齢者や初心者用に大きめのボールや扱いやすい用具を開発するなど、ゴルフにも色々な楽しみ方があってもよいのではないでしょうか。

 

<引用文献>
〇北 徹朗:月刊ゴルフ用品界連載『北徹朗の学窓からみるゴルフ産業改革案 第2回:ゴルフ産業の短期的改革案』、2015年5月号、pp.72-73

<参考文献・参考資料>
〇PGAホームページ:http://pga.or.jp/2015/03/post_1546.html
〇北 徹朗(2011)8.ゴルフ,メタボリックシンドロームに効果的な運動・スポーツ、ナップ
〇北 徹朗(2015)ゴルフ離れに関する調査、http://www.i-research.jp/report/?p=1629
〇(公財)日本ゴルフ協会(2015)JGAゴルフ規則2015年度版
〇北 徹朗ら(2013)日本のゴルフ場におけるマナー違反の現状-関東・近畿のゴルフ場支配人に対する調査―、体育研究(中央大学)第47号

 

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<現職>武蔵野美術大学 身体運動文化准教授・同大学院博士後期課程兼担准教授、サイバー大学 IT総合学部 客員准教授、中央大学保健体育研究所 客員研究員、東京大学教養学部 非常勤講師  <学歴>博士(医学)、経営管理修士(専門職)、最終学歴:国立大学法人東京農工大学大学院工学府博士後期課程  <主な社会活動>ゴルフ市場活性化委員会委員(有識者)、公益社団法人全国大学体育連合常務理事、一般社団法人日本運動・スポーツ科学学会常任理事、日本ゴルフ学会理事・代議員、日本ゴルフ学会関東支部事務局長、一般社団法人大学ゴルフ授業研究会代表理事