ゴルフは「見て楽しむスポーツ」になるのか

ゴルフもプロのすごいプレーを「見て楽しむだけで十分」なスポーツになってしまう危険性がある

日経電子版2017年12月7日配信

ゴルフの2017年国内男子、女子ツアーの全日程が終了した。獲得賞金で男子が宮里優作、女子は鈴木愛とそろって日本人選手がトップの座に着き、まずはひと安心。とはいえ、ファンの関心は米ツアーの松山英樹に集まった1年だった。

その松山が日本で1試合だけ、11月のダンロップフェニックスに出場した。4位に終わったものの、見せ場はつくった。最終日の3番でホールインワンをやってのけたのだ。日米ツアーで自己初の快挙に一瞬ポカーンとした表情をみせたが、周囲が驚いたのはその後だった。

■8番アイアンで180ヤードとは…

なんと、180ヤードを8番アイアン!

クラブやボールの性能は日進月歩。さらにプロはウエートトレーニングなどで普段から体を鍛えているから、ボールの飛距離は飛躍的に向上している。それにしても、180ヤードを8番アイアンで打つとは……。

第2次ゴルフブームといわれた約40年前。180ヤードといえばプロでも5番か6番だった。一方、アマチュアも4番か5番と、それほど極端な差はなかった。しかしその後の用具の進化でプロの飛距離がどんどん伸びていくのに対し、アマは置いていかれている。多くの人が体力や筋力などの問題で、性能を生かしきれないのが原因の一つだとされる。

日本でも米国でも、ゴルフ人口の中心年齢層は今も、第2次世界大戦直後に生まれた「団塊の世代」「ベビーブーマー」たちである。だが、何年か後にはこの世代もクラブを置くことになり、実際に競技人口は減少している。若い人たちにゴルフをやってもらうことが最大の課題であり、ゴルフの危機だともいわれている。

そんな中で、松山の180ヤード・8番アイアンは、行く先に不安を感じる象徴のように思われてならない。

ゴルフは野球やサッカー、テニスなどと違って、スコアはもちろん、使うクラブやボールの飛距離など、数字に表れて比較することが多い。「そんなことは二の次」と悟りを開くのは容易ではない。むしろ、それがあるからこそ、1ヤードでも遠くに飛ばそうと練習場に通い、次のラウンドに思いをはせる。

しかし、180ヤードを8番で打たれては、一般ゴルファーには異次元の話になってしまう。ほとんどの人が、180ヤードならユーティリティーか下手をすればフェアウエーウッドが必要になり、8番アイアンは130~140ヤードが精いっぱい。同じ「ゴルフ」でくくれはするが、もはやプロの選手とは別のスポーツと考える以外にない。

となると、野球やサッカーなどをテレビで見ても「よし、やってみようか」とならないのと同じように、ゴルフもやがてはプロのすごいプレーを「見て楽しむだけで十分」なスポーツになってしまう危険性がある。

それを危惧する声が各方面から上がりつつある。帝王ジャック・ニクラウス(米国)はかねて「このままでは、プロゴルフは飛ばすだけのイベントになってしまう」と警告しているし、復活が現実のものになりつつあるタイガー・ウッズ(同)も「プロの使うボールに何らかの規制を加えることが必要かもしれない」と発言している。

■プロとアマ、ルール変える必要も

今のゴルフは、たとえていえば野球でアマチュアが木製バットと硬式ボールでプレーを強いられているようなもので、ルール上、プロとアマの違いは全くない。

全米ゴルフ協会(USGA)やロイヤル・アンド・エンシェント・クラブ(R&A)の競技団体は、ボールやクラブなどの用具をアマもプロも関係なしに同じ規則で縛っている。米ツアーを統括するPGAツアーなども現状ではこれに従っている。

しかし、そろそろ本気でこれを見直し、プロは飛ばないボールを使うとかしないと、気がついたらゴルフ場から人がいなくなっていた――などということが起こりかねない。

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