優れた技術、上手な教え方だけがプロではない。″ゴルフの心″や″感動″をいかに伝えるか― ~ 浜 伸吾~

From member’s Voice
21世紀を目前に控え、ゴルフ業界は未だ低迷状態が続いている。来年は日本にゴルフが伝わって100年という節目を迎える。ご存知のとおり、ゴルフ業界では一丸となって「ゴルフ100年祭」を開催することで、明るさを取り戻そうとしている。
そこで今回のフロムメンバーズボイスでは「日本ゴルフ界をさらに発展させていくには」を主たるテーマとして、会員4名に代表して助言、提言などの意見を寄せてもらった。

 

最近、あるゴルフ雑誌で日本のプロゴルフの技術史を含めた伝統技術の原稿を書き、金井清一プロとの対談をした。私は報知新聞の記者時代、1960年(昭和35年)から、「陳清波の近代ゴルフ」をはじめ、「グリーンから百ヤード」(宮本留吉)、「パンチショット」(戸田藤一郎)その他、日本のプロゴルファーによる技術書を20冊ほど書き、それまで外国人プロの技術書しかなかったので、戦後、日本のプロの本を開発してきた。
そのような関係で、一昔前のことをいろいろ思い出し、楽しい仕事だった。もともとゴルフは輸入品だから、その品種改良は米国に追いつけ、追い越せの歴史で、日本のプロ技術の発展過程は手に取るようにわかる。現在も世界で通用する選手、つまりスーパースターの出現を待望しているのが実状だ。ゴルフが活気づく一つの要素として、凄いプロが求められるからだ。
だが、私は《本当のプロは、優れた技術や教え方が上手いという単純なものでなく、″ゴルフの心″を人に伝えられるかどうかだ》といつも思っている。優れた技術で夢を与えるのもいいが、それよりもっと原点である″ゴルフの心″によって、人を感動させること、つまり米国でいうなら、フェアープレーに贈られるボビー・ジョーンズ賞みたいな出来事だ。

日本の先輩プロの中にも、その好例がある。宮本留吉さんとは、仕事の関係でよくゴルフをしたが、ラウンド中に、私のパットのアドレスが遅いと、「そんなぐずぐずしていたら、入るものも入りゃせん!」と怒鳴るし、タバコでも吸おうものなら、「吸わなきゃゴルフが出来ないなら、ゴルフなんて辞めなはれ!」と言われるし、とにかく遠慮なく叱られる。だから宮本さんとやるときは、気を使った。それより私が強調したいのは、《日本のプロの中で相手を怒鳴ってまで、エチケット、マナーを教えられる愛情豊かなプロがいるか》ということだ。私の経験では宮本さんだけだ。
宮本さんとは対照的に陳清波さんは、プレー中にあの静かな物腰、話し方で、ゴルフというスポーツが持つスマートな雰囲気に、こちらを引き込み、態度でマナーを教えてくれた。私の長いゴルフ記者生活で、この二人のようなプロと親しくなれたのは、大変幸福であり、これこそ本当のプロだ、と信じている。
私は、この話を機会があるたびにするし、書く。最近のプロは、ちょっと有名になるとミスをしたときに、クラブを折ったり、汚い言葉を吐く。いわゆる賞金稼ぎに過ぎないのだ。現在、各関係団体がジュニア教育に力を入れているし、結構なことだが、プロ競技は毎週テレビで放映されるだけに、生きたお手本を示して欲しい。
いまゴルフ業界は長引く不況にあえいでいるが、ゴルフ界そのものが戦後あまりにも日本的発想で原点を見失った発展の仕方をしたので、そのつけがくるのは当然。この機会に原点に戻り、しっかり考え直せば、必ず活路はある。ゴルフというスポーツはそれだけ魅力的なのだから……。

浜 伸吾(はま しんご)
報知新聞社編集局ゴルフ部長、ゴルフマガジン社編集局長を経て現在フリーとして活動。プロのレッスン書を20冊以上執筆し、著者も多数ある。日本ゴルフジャーナリスト協会副会長