「米国のゴルフ振興活動〝Golf20/20〟」 河北 俊正

現在推進されている「Golf 20/20」と名付けられた米国のゴルフ振興活動は、1994年に創立された、世界ゴルフ財団(World Golf Foundation=WGF)が、1999年にスタートした活動だ。このWGFは、ゴルフ関連産業を連合するために創立された非営利団体で、その活動目的はゴルフ振興のため、ゴルファーの育成とプレー頻度増進、同時にゴルフの伝統を守り伝えることにあった。

「Golf 20/20」が活動を開始するきっかけとなったのは、ゴルフコースやゴルフ用品メーカーなど米国ゴルフ産業の企業が出資し、長年ゴルフ産業全体の調査や統計活動を担当してきた「米国ゴルフ財団(NGF)」が、調査会社マッキンゼーと協力し、米国市場の現状調査を行い、その結果をまとめ、1999年1月に発表した「ゴルフの将来に対する戦略的展望(A Strategic Perspective on the Future of Golf)」と題するレポートにあった。

このレポートでは、米国ゴルフの現状を分析、タイガー・ウッズ出現によるゴルフブーム以来、毎年、大量に開設され続けるゴルフコースの数が、近い将来、供給過剰をきたし、このまま手を打たなければゴルフ産業全体が不況になるだろうとデータで示し、如何にして米国ゴルフ産業市場を安定成長させるべきかの示唆が網羅されていた。

この警告に立ち上がったのがWGFを母体とする「Golf 20/20」プロジェクトで、このメンバーにはゴルフに関連する多くの組織、ゴルフ関連協会、ゴルフ用品メーカー、コースの所有者、経営者、そしてゴルフ関連メディアが参画、ゴルフの将来を見据えて「如何に大衆をゴルフに誘い、ゴルフ人口を増やすか」のテーマで活動を推進している。

ちなみに、この活動に参画している団体は次の通り。

米国ジュニアゴルフ協会(AJGJ)、米国ゴルフ設計者協会(ASGCA)、オーガスタナショナルGC、米国クラブ管理者協会(CMAA)、米国ゴルフコース建設者協会(GCBAA)、米国ゴルフコース管理者協会(GCSAA)、米国ゴルフライター協会(GWAA)、国際ゴルフ管理者協会(IAGA)、LPGA、全米ゴルフコース所有者協会(NGCOA)、米国ゴルフ財団(NGF)、PGAツアー、カナダゴルフ協会(RCGA)、PGA・オブ・アメリカ、米国ゴルフ協会(USGA)。

米国ゴルフ振興策の主な内容

「プレイゴルフアメリカ」は、全米のコースに所属するレッスンプロやコース及び街のゴルフショップを経営する男女のプロの組織、PGA・オブ・アメリカが主催するゴルフ振興キャンペーン。Golf 20/20会議による最初のゴルフ業界活動として始められたもので、新規ゴルファー及び頻度の低いゴルファーをゴルフに誘い込む為の活動。その内容には次の施策が含まれている。

・PGAプロによる、毎年一ヶ月のワンポイント無料レッスン月間の実施=Free Lesson month

・リンクアップ2ゴルフ=ゴルフ未経験者にゴルフの実技、ルール、エチケットの導入を行う施設
「青少年ゴルフ教育の強化」は、選手強化ではなく、教育の過程を通してゴルフに対する理解を深めようとするもので、次の施策が実施されている。

・大学に於けるゴルフ教育促進=前述のNGFレポートの統計によると、米国ゴルファーの平均ゴルフ開始年齢は三十一歳で、これを若返らせる意図。ゴルフをビジネスと人生の一環として取り組んでいる。

・ファーストティー・プログラム=2001年に発足した世界に広く知られるジュニア育成プログラムで、子供にゴルフを教えると共に、それを通じて人格形成に重要な正直、誠実、スポーツマンシップも教えていくためのゴルフ教育施設。

・全米ゴルフ学校教育プログラム=全米の小学校体育教育にゴルフを取り込み、ゴルフの楽しさを教えるため2003年に始められた活動で、2004年、ファーストティー・プログラムに統合されている。

この他にもPGAオブ・アメリカが実施している施策には「娘をコースに連れて行こう週間(Take Your Daughter to the Course week)」とか、「無料フィッティングとクラブ下取り月間(PGA Free Fitting & Trade Up Month)」もあり、全米の多くのPGAプロ、施設がボランティアで参画、前記に列記したゴルフ関連団体の協力を受けて実施、それぞれが毎年前年を上回る参加者及び参加施設の拡大を続けており多大な効果を上げている。

またこれらの施策は、それぞれ独自のウェブサイトを有しており、興味をもった誰もが最寄りの施設やPGAプロにコンタクト出来る仕組みもしっかり出来ている。
(詳細はGolf 20/20、First Tee、PGA of Americaなどのウェブサイト参照)

日本のゴルフ振興策への示唆

 日本に於けるゴルフ振興策も、長引くゴルフ産業不況、それに追い打ちをかける2007年問題などで、一部の有識者から示唆されている「日本のゴルフ界の将来危機」に対応し、数年前からは国内ゴルフ団体連合による討議も行われ、一部のゴルフ団体では積極的な施策も実行されているが、未だにその具体的成果は見えてきていないようだ。

ゴルフ市場の現状分析、ゴルフ施設やゴルフ関連団体など、いずれも米国と同じような体制を持ちながら、施策の成果が見られないのは何故だろうか。私は施策そのものの優劣や予算の有無よりも、その実行力やゴルフ団体横断的な協力体制に差があるように思えてならない。

これまでにも、いろいろなゴルファー振興施策がそれぞれの団体や企業で企画され実行されてきたが、その多くは個別団体内部での事業促進策に留まり、ゴルフ業界団体の横断的な協力がないまま企画倒れに終わっているように思われる。

最近、高まるゴルフ市場衰退の危機感に対応し「ゴルフ市場活性化委員会(GMAC)」などの活動も日増しに活発化しているようだが、その成否は、米国ゴルフ団体が実施してきたような、ゴルフ関連各団体の私利を度外視して行う横断的な連携と協力体制にあるように思えてならない。