第98回全米プロゴルフ選手権観戦記 その2 の続きです。
初日からトップを守り続けた、ジミー・ウォーカー(37歳)が世界ランク1位のジェイソン・デイを1打差でかわして優勝しました。2013年に米ツアー出場188試合目の34歳の時に初優勝をしています。遅咲きのウォカーは、大会前までの世界ランク48位で、今回はダークホースの存在でした。
最終ラウンドでは、前半の9ホールを連続パーでしのぎ、10番のバンカーからのチップインバーディー11番の10メートルのバーディーパットを決めて13アンダーとし、抜け出しました。17番でバーディーとし14アンダーとしましたが、その直後、デイが18番でイーグルパットを決めて、13アンダーと肉薄しました。バルタスロールGCの最終ホールは、ドラマが生まれるセッティングになっています。554ヤードPAR5と、ほとんどのプレーヤーにとって2オン可能な距離です。しかしフェアウエイ左サイドには大きなウォーターハザード、右サイドには4つのバンカーが横たわっており、ティーショットの正確性が要求されます。
「リスクを犯せばリワードが得られる」という見事な最終ホールです。初日から、ダスティン・ジョンソンをはじめ多くの選手が18番の池にティーショットを打ち込んでいます。その反面、4日間で18個のイーグルが18番で出ているのも事実です。世界ランク1位でディフェンディングチャンピオンのジェイソン・デイが72ホール目に勝負にでました。ティーショットを果敢に攻めてフェアウエイをキープし、セカンドショットでピン真っすぐに飛んだボールは、見事カップから4メートルのイーグルチャンスにピタリと止まりました。その時、18番グリーンサイドの歓声は、半端なものではありませんでした。
そしてドラマが待っていたのです。観客からの大歓声で18番グリーンに迎えられたデイ。そして静まりかえった観客が一点に集中する中、下りのスライスライン、4メートルのイーグルパットを見事にカップインさせたのです。その時の歓声は、イーグルチャンスに2オンしたときの半端ない歓声の何倍もの物でした。「割れんばかりの歓声」いや、それ以上のものでしょう。またしても鳥肌が立ちました。世界ナンバー1は、何かをやってくれます。そしてその場に立ち会えてたことに幸福を感じました。
「ドラマをありがとう」と1人の観客が呟くように言いました。ゴルフゲーム以上に、彼らは筋書きのないドラマを見に来ているのでしょう。それに対して見事に選手が答えているのです。これこそが、世界最高峰、米ツアーの本領なのでしょう。だからこそ、ゴルフをしない多くの人々が1日100ドルもの入場券を買い求め、毎年売り切れとなるのでしょう。あらためて選手と観客が一体となってなしえる舞台の素晴らしさを、現地で感じることができました。
そして、そのドラマには、続きが有りました。デイのイーグルパットを決めたのを、セカンド地点で見ていたウォーカーが、グリーンを狙うショットを右手前のギャラ入りーの中に打ち込むアクシデントがおこったのです。10メートル以上あがっている砲台グリーンに、前日からの豪雨で水を含んだ深いラフからの難しいショットが残ってしまいました。観客はざわつきます。メジャー初優勝の半端ないプレッシャーが掛かっているジミー・ウォーカーに観客一人一人がなりきっているのです。まさにドラマの主人公に自分自身を感情移入しているようなものです。そこから10メートルに寄せ、2パットのパーとしてメジャー初優勝を手にしました。最後まで「手に汗握る」展開でした。ウォーカーにとってのハッピーエンドに、18番グリーンを取り囲むギャラリーから暖かい、そして惜しみない拍手が長い長い間続いていました。それは、今回は助演男優となったデイに対してのものでもありました。
「自信を持ってプレーしました。自分自身に。そして自分自身がやるべきことに。そして自分のゴルフスイングにも自信を持ち続けました。スタッフ一同を信じ、今までやってきたことをやり通しました」とジミー・ウォーカーはコメントしています。37歳、円熟味を帯びたウォーカーの「自信を持つことと信じること」が今回の勝利のキーワードと言えるでしょう。
日本プロゴルフ協会A級ティーチングプロ大東将啓