日経電子版2016年2月9日配信
初めて訪れるゴルフ場。受付を済ませ、ロッカールームで着替えをしてクラブハウス内を見回すと必ず目に入るものがある。そのクラブの役員一覧、クラブ選手権など歴代のクラブ競技の優勝者を記したもの。そして、いちばん大きいのが、会員のハンディキャップボードである。
「ここのコースのハンディ頭は誰だろう」「ほおーっ、0(ゼロ)か……」など、見ていても、なかなか面白いものだ。コースによっては、ハンディキャップがプラスの人がいたりする。
われわれ一般ゴルファーのハンディキャップは、ラウンドしたスコアから引いてもらうありがたいものだが、プラスハンディはその逆で、スコアに足されてしまう。地区選手権や日本アマチュア選手権に出場する、ごく一握りのトップアマの人たちがその対象となる。日本銀行が導入を決めた、預金なのに預けた民間銀行側が金利を支払う「マイナス金利」のような、まか不思議な世界であるともいえる。
■「インデックス」の本格採用が進む
シングルハンディの人たちは、メンバーの中でも一目置かれる。そのステータスシンボルのようなハンディキャップボードが将来、ハウス内から姿を消すかもしれない。いや、すでにハンディキャップの数字がなくなり、50音順などで会員の名前だけにしたコースも出てきている。
その理由は、日本ゴルフ協会(JGA)が2014年から導入した「ハンディキャップインデックス」を各ゴルフクラブが本格的に採用するようになってきたからである。
JGAや日本パブリックゴルフ協会などに加盟しているクラブの会員になり、どのコースのどのティーから回ったかを記入したスコアカードを5枚出すと、JGAからハンディキャップの数字が送られてくる。カードは最大20枚まで採用され、新しいカードを出すと、いちばん古いものが削除され、常に最新のものを基準にハンディが決められる。
ハンディキャップを決める際に大きな要素になるのが、どのコースのどのティーで回ったか。つまりラウンドしたコースの難易度で、それを示すのが長く採用されてきたバックティーは71.2、レギュラーティーは69.9とかいう「コースレート」だ。このコースレートを査定する際に基準にされてきたのはそのホール、そのコースの長さ・距離だった。
しかし実際のゴルフコースは、長さ以外に高低差やドッグレッグ、池やバンカーなどの障害物など、いろんな要素がからんでくる。そういった要素を加味して米国で考え出されたのが「スロープレート」である。コースレートがスクラッチプレーヤーら上級者を基準に数字を弾き出しているのに対し、スロープレートはアベレージプレーヤーを中心にしている。
■腕前違ってもより公平な競技可能
標準的なコースを113(スコアではない)として、最低難易度は55、最高難易度が155とされている。男女でも違うし、もちろんティーの位置によっても細かく数字が示されている。
例えば、標準の113のコースを100ぐらいで回る人のハンディキャップは28程度になるが、その人が最もやさしい55のコースでは15前後、逆に最難度155のところでは40近くになるといわれる。
この差(スロープ=坂)は、上級者ほど小さく、レベルの低い人ほど大きく設定されているので、スロープレートを使ってハンディキャップを出すと、上手な人と下手な人の数字の差が大きくなり、結果としてより公平な競技ができるとされる。
ハンディキャップインデックスは毎月1日、小数点以下1桁までの数字で出てくる。とすれば、ハンディキャップボードにある何百人ものメンバーの名札を毎月、コンマ1桁で並べ替えるのはほぼ不可能になる。
クラブのハンディキャップ委員会で決める8とか15とかの整数による「クラブハンディ」を出しているコースもあるが、それもやがてはJGAのハンディキャップインデックスで統一されるといわれる。
そのときには、クラブハウスの名物看板も姿を消すことになるだろう。