「未来系ゴルフショップ」について【2】

<未来系のゴルフショップ>はズバリ、一人一人の顧客に向き合った、カスタマイズ専門店である。ゴルフクラブはゴルフをプレイする道具である。道具はその目的によって仕様が異なるため顧客のゴルフの目的、顧客のスウィング特性、一人一人異なるはずである。誰が使うかわからないものを既成化することは道具としてはそぐわないのである。ゴルフクラブはヘッドとシャフトそしてグリップのわずか3つのパーツの組み合わせでできている。その一つ一つを顧客の要望や目的に合わせて組み合わせ、最適仕様を提案し販売するところが<未来系ゴルフショップ>である。

トーナメントに参加する選手にとって必要不可欠の存在、ツアーサービスが一つの究極の形である。顧客である選手に対し、3つのパーツを素早く組み合わせて、選手の要望に沿う道具を目の前で組み立てる。しかも無料で。このお金は一体どこから出ているのであろうか。このような最高のサービスを受けられず既製品を黙って買っている顧客の支払うお金の一部が集約されているのである。このようなサービスを一人一人のゴルファーにメーカーはどうして還元しないのだろうか。時代は確実に変わり始めているのだから。

私は今現在、EVEN GOLF LABOというフィッティングスタジオのプロデュースを任されているが、この形こそが具体的な<未来系ゴルフショップ>の一つの形だと思う。

最新の測定機器を備えたクラブフィッティングベイとパターフィッティングベイそれに工房の組み合わせで既製品のクラブ在庫は一切なく、あるのは充実した試打クラブである。つまり、ここで行っているのはクラブフィッティングであり、そこから導き出された仕様に合わせたパーツを入手し、組み付けを行い顧客にお渡しするシステムである。

しかし、メーカーは小売店での組み立ては認めていない。カスタムの内容もシャフトは種類が限定され、サービスのレベルは十分なものとは言えない状況となっている。

既製品を取り寄せ、ヘッドを抜いて最適シャフトを装着することは大変な無駄な作業と不必要なコストを強いられる。それでも現状を打破するにはこのような方法で実績を積み重ねてメーカーの意識改革と協力を促すしかないのである。

しかし最近、大手メーカーでもパーツ供給を始めるところが出てきたことは朗報で時代が確実に<未来系ゴルフショップ>の方に変換し始めている。

ただし、<未来系ゴルフショップ>はただ単にフィッティングをしてカスタマイズされたものを組み立てて渡すだけでは不十分でこれでは顧客満足度はさして上がらない。さらにその先の「顧客を熱狂的なファンにする」優れたサービスが必要になってくる。顧客が期待する、さらにその先を行くもので、それは顧客をワクワクさせるようなものでなくてはならない。顧客のニーズを先取りしたものと顧客を楽しませる幾つかの施策であったりイベントなどの提供である。

「熱狂的なファン」になれば競合他店には行かず、いろいろなものを好んで購入してくれるだけでなく、仲間を連れてきたり、時にはお店の協力を率先してやってくれる大切な人となる。

どれだけ「熱狂的なファン」を持つかが<未来系ゴルフショップ>の課題でもある。

昔から20%の顧客が80%の売上を作る、と言われているが「熱狂的なファン(顧客)」を全体の2割作れるかがポイントでもある。

 

その点、ゴルフショップよりもはるかに先にコンポーネントの世界を作り上げた業種にスポーツサイクル市場がある。ゴルフ業界は参考にすべきである。

スポーツサイクルはフレームとホイール、タイヤ、ギヤ、ハンドル、シート、ステムなど多くの部品を顧客の目的、体のサイズ、体力に合わせて仕様を決定し好みのブランドや予算に合わせてパーツを揃え組み立てて顧客に渡すシステムを行っている。完全にカスタマイズされたもので、このパーツを一つひとつ選んでいくプロセスも顧客の楽しみの一つである。スポーツサイクルではフレームメーカーがメインであり、ゴルフで言えばヘッドがこれに当たる。ゴルフメーカーの中にもスポーツサイクルのフレームを作っているところがある。ブリヂストンやヨネックスであり、シャフトメーカーのグラファイトデザインも力を入れ始めている。このようなメーカーはすでに販売のノウハウを持っていることから、これらのメーカーが率先してフィッティングや組み立て技術のある有力小売店にパーツ供給をしていくことが<未来系ゴルフショップ>の存在を後押ししてくれることになる。

ゴルフショップ関係者、ゴルフクラブメーカーの関係者は是非評判の良いスポーツサイクルショップを視察に行って欲しい。そこを訪れる顧客の満足している顔は今のゴルフショップにはないものである。

 

スポーツサイクルショップのもう一つの顔は<顧客のコミュニティスポット>となっている部分である。道具を販売するだけでなく、それを使った楽しみ方を顧客のレベルに合わせて提案しているのである。アスリートにはいろいろなレースを紹介し参加するように促し、カジュアルなライダーには手短なツーリングや、美味しいお店をツーリングしながら回るグルメツーリング。旅と自転車などお店のスタッフが企画して顧客を楽しませるものを実施していく。当然、満足した顧客はいろいろな楽しみ方にトライしてその目的にあった製品を次々と購入していく。その店で、ずっと。ゴルフショップからなくなってしまったものが、今スポーツサイクルショップには当たり前に存在している。

 

市場が縮小していく中、新しい顧客を増やすことは難しい。今来ていただいている顧客を「熱狂的なファン」にすることの方がはるかにやりやすくコストもかからない。

誰もがどのようにしてこの厳しい時代を乗り越えていこうかと悩み、努力していると思う。新しいことに挑戦することはそれだけリスクも伴いエネルギーも必要だ。そんな中でイトーヨーカドーの創設者、鈴木敏文氏の右腕と言われた現ライトスタッフ代表の岩本浩治氏は自身の講演の中で、辿り着いた小売業の結論として①商品を変えない限り売り上げは変わらない ②店の関心はコロコロ変わるが、お客様の関心は一貫して商品に集中している ③売り手は商品を集団で考えたがるが、買い手にとって単品の魅力がすべてである ④黙っていても売れる商品、手に入れられる商品は利益が取れない、と4つのポイントを上げている。そして店として<必死で追いかけるべきもの>として、どんなビジネスでも、その世界で成功するには「必死になって追いかけなければならない何かが一つだけある」片時もそれから目をそらさなかったものが勝ち、わき見をしたものが負ける。つまり、成功したかったらあらゆる部分で秀でることよりか、一番大切な部分で負けないこと、と力説している。どんな店舗にも必ず<強み>があるはずである。それを生かしていくことが生き残れるゴルフショップのあり方を表現していると思う。

 

ゴルフショップの「仕事」とは、ご来店いただく顧客に満足してもらう、できれば感動してもらうことである。新しい時代になっても、根本は同じである。

「熱狂的なファン」のいるお店は顧客の代理人としてのショップであり、顧客のゴルフ人生を一生ケアできるところで、彼らのために仕事ができるところである。自分自身が入ってみたい、ずーとそこに居たくなるような場所、それが<本物のゴルフショップ>なのである。<未来系のゴルフショップ>はあなたの手の中にあるもので、あなたの大切な顧客の<ゴルフの楽しみ方>に対して、「何ができるのか」を提供できるところである。

さあ、あなたを信じて店を支えてくれる顧客の満足と未来のためにリセットボタンを押しましょう。

ユニバーサルゴルフ

PCM17号掲載(September, 2015)記事より

ABOUTこの記事をかいた人

松尾俊介

1949年12月23日生れ  神奈川県出身
東海大学工学部航空宇宙学科卒、在学中は体育会ゴルフ部副将および関東学生ゴルフ連盟の連盟委員を兼務。パイロット志望から一転してゴルフ用品販売業務に携わる。ゴルフ工房を主宰しながら1988年からフリーランスゴルフライターとしても活動。国内外合わせて25のゴルフクラブメーカを取材し、記事として各誌に掲載する。「良いゴルフクラブとは何か」をテーマに取材活動を続ける。1989年米国キャロウェイゴルフの取材と掲載記事をきっかけに親交を深める。
その後1994年キャロウェイゴルフからのオファーを受け日本人初の正社員として契約。日本法人では広報担当責任者として6年間担当し、その後2014年までCorporate Relationsの担当責任者として勤務。主に対外的な渉外活動を行う。2015年からフリーとなる。
「日本のゴルフを面白くする」が新たな活動テーマ
キャロウェイゴルフ在職中はゴルフの普及や活性化のために幅広く活動。
◎ゴルフ市場活性化委員会広報責任者
◎一般社団法人日本ゴルフ用品協会 活性化委員、ジュニア委員
◎NPO日本障害者ゴルフ協会理事
◎北海道ゴルフ観光協会顧問
主な活動・著書
*著書:クラブが分かれば上手くなる!(スキージャーナル社)  
*取材編集:ゴルフの楽しみ方(講談社)