スポーツに番狂わせはつきものとはいえ、ラグビーのワールドカップで、日本代表があの南アフリカを破ったのは、世界中を驚かせるビッグニュースだった。
チームの大金星とともに、一躍有名人になったのがフルバックの五郎丸歩(ヤマハ発動機)だ。ゴールキックをする前に見せた「五郎丸ポーズ」と称される、拝むようなあのしぐさが、流行語になるほど大きな話題になっている。
イングランドの元トップ選手がやっていたものをまねたそうで、蹴る方向、高さ、ボールの飛ぶ軌道などをイメージし、集中力を高めるためのルーティン動作の中のひとつである。
■ルーティン確立、より機械に近づく
とすると、五郎丸が蹴るつま先をクラブヘッドに、楕円のラグビーボールを直径4センチほどの小さいボールに変えたら、そのまま、球を打つ前のゴルフの「プレショット・ルーティン」に通じるのではないだろうか。
究極のゴルファーとは、常に同じスイングができるという意味でスイングマシン(スイングロボット)だろう。悲しいかな、人間は機械に勝てない。感情、心という厄介なやつが邪魔をする。「真っすぐに打ちたい」「遠くまで飛ばしたい」「このパットはなんとしてでも入れたい」などという気持ちが、体の動きを狂わせ、スイングを、ストロークを、おかしくしてしまう。
それらの邪念を振り払って、ひたすらボールをヒットすることに集中するために行うのが、その人なりの一連の動作であるプレショット・ルーティンだ。つまり、「ゾーンに入るための準備」である。いつも同じスイングをしたいという思いを込め、そのためにいつも同じ順序でショットに入ろうとする。
スイングのイメージ、飛球線のイメージなどを思い浮かべながら飛球線方向の反対に立ってフェアウエーを見る。グリップをするときの右手、左手、指などの順序を確認する。アドレスに入るときの体の動かし方、クラブヘッドをボールに対した後のワッグル……。数え上げたらきりがないほどの要素の中から、自分にあったものをつくり上げていく。
ショットに臨むたびに違った動作をする人より、自分なりのプレショット・ルーティンを確立させたゴルファーのほうが強いとされる。より機械に近づいた、とでもいえる。ゴルフだけではなく、野球のイチローが打席に入った後、ユニホームの袖をつまんだりして行う動作もそうだし、大相撲の力士たちが個性的なポーズをするのも、集中力を高めるためだ。
■プロは余計なこと考えず一打に集中
正しいプレショット・ルーティンを身につけるのがゴルフ上達のための近道だが、プロゴルファーたちはどうしているのかというと、意外や意外、実にシンプルである。
「少なければ少ないほどいい」というプロがほとんど。具体的には「ボールの飛びざまをイメージするだけ」とか、「狙った所にボールを飛ばそうと、ひたすら気持ちを集中させるだけ」といった声が多い。そして、あるプロはこうも言う。
「アマチュアの人は、アドレスはどうだ、テークバックはどうだなんて、本来、練習場でチェックしなきゃいけないことを、ゴルフ場でやろうとする。そんなこと無理。だからミスショットする。余計なことは考えずにショットに集中する。自分の打つ順番が来てから打つまでの時間は短いほうがいい」
さらにこう続けた。
「ボールのある所に行ってから素振りをする人いるでしょ。あれ、最悪。あれをやると、集中力が途切れてしまう」
そういわれてみれば、プロなどトッププレーヤーがボールを前にして素振りをするシーンはほとんど見かけない。
自分独自のプレショット・ルーティン。しかし、いくら話題になっているとはいえ、やはり、ゴルフに「五郎丸ポーズ」は不向きなようだ。
日経電子版2015年11月26日配信