なぜ松山選手は単調なパットの練習を延々とやり続けることができるのか?
2021年4月12日(日本時間)、この日、日本のゴルフの歴史が一つ書き換えられた。ついに松山英樹選手が日本人として初めてグリーンジャケットに袖を通したのだ。日本人がマスターズに初めて挑戦したのが1936年であるから、実に85年ぶりの悲願達成である。
ここで、臨床スポーツ心理学者の観点から、松山選手がマスターズ制覇を成し遂げた理由について考察してみたい。私が彼について興味深いのは、彼のラウンドにおける素晴らしいパフォーマンスよりも、むしろ「なぜ松山選手はあれほど単調で面白くないパットの練習を延々と長時間飽きることなく持続できるのか?」という命題である。
これは本人に直接聞いてみたい気がするのだが、私は「松山英樹選手の脳裏にはマスターズを制覇してグリーンジャケットを着ている自分の姿が鮮明に彼の脳裏に刻まれていた。その夢にたどり着きたいために彼を面白くない単調な練習に駆り立て、それがマスターズ制覇の夢を叶えさせてくれた」と、考えている。
人間と他のすべての動物との決定的な違いは、「人間だけが未来の自分の姿を画像として描くことができる」ということ。前頭葉と前頭皮質がその役割を担っている。この脳領域のおかげでわたしたち人間だけが時間や場所の制限を超えた「想像力」というスキルを手に入れた。
鮮明に「未来の自分」を描くことの大切さ
つまり、人間という動物は、「未来の自分」を記憶する前頭葉が異常に発達した奇形動物なのだ。しかし、残念ながらその凄いパワーを活用している人間はほんの一握りの成功者に限られている。しかし、その気になれば、その一握りの成功者の思考・行動パターンを手に入れることができるのだ。
オットセイや猿はエサを与え続ければ、人間より忠実に見事な芸を獲得するための練習を手抜きすることなく実行してくれる。しかし、人間は松山選手のような強烈な夢を実現したいというイメージを持たない限り、面白くない作業では、ズルや手抜きをしてしまう、ある意味狡猾な動物なのだ。
ただボールをたくさん打つだけの作業は飽き飽きする面白くない作業である。あるいは、入れごろ、外しごろの2mのパット練習を1時間持続する作業も辛い作業である。
しかし、実現したらワクワクする近未来の自分を鮮明にイメージとして脳内に記憶させ、それを実現したいという強い思いを持ち続けて練習に打ち込んだとしたら、今私が述べた面白くもない作業にも身が入るはず。
長時間黙々と毎日3時間のパット練習を続ける作業は、ご褒美なくしては苦痛以外の何物でもない。それを自発的に、しかも終始没頭してその作業をこなせるのは、夢に異常なほど執着する松山のような一握りのトッププロだけである。ここから始めない限り、いくら猛練習を積み重ねても、夢の実現は、夢のまた夢でしかない。
努力する前に自己イメージを書き換えよう
私は「未来の自分に成り切るトレーニング」が松山選手のように、夢の実現に大きく貢献してくれると考えている。もしも私たちが、たとえば平均スコアよりも10%少ないスコアでラウンドできる「平均スコア○○のゴルファーになった自分」という強烈なイメージを鮮明に描くことができれば、松山選手と同じように辛い練習も意欲的になれる。
残念ながら、日本においては、この理論はビジネス界や科学の世界でもそれほど浸透していないし、ましてゴルフ界ではほとんど議論にもなっていない。
しかし、松山選手だけでなく、多くの成功者たちはこの理論によって夢を手に入れたのである。数多くの成功者の共通点を分析した韓国のベストセラー作家イ・ジソンは以下のように語っている。
「平凡な人たちは『一生懸命死ぬほど働くこと』が成功の第一の秘訣だと思っている。だが、成功した人たちは『成功した自分の姿を生き生きと描く能力』を成功の一番の秘訣だと考えている」
これをゴルファーのために翻訳すると、こうなる。
「並のゴルファーは『猛練習すること』が上達する唯一の秘訣だと考えている。だが、松山選手のような一流のツアープロは『小さい頃から一流のツアープロになっている自分の姿を生き生きと描く能力』を成功の一番の秘訣だと考えている」
松山選手のこの快挙は、日本の有能な若手ゴルファーたちが、「自分たちもその気になればマスターズ制覇を成し遂げることができる」という好ましい自己イメージに書き換えることに大きく貢献したと、私は考えている。
それだけでなく、松山選手のこの偉業は、近い将来まだゴルフクラブを握ったことのない子どもたちがゴルフを始めるきっかけになることは間違いない。
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