笹生選手のメンタルがタイトルを引き寄せた!

202166日、全米女子オープンで笹生優花選手が凄いことをやってのけた。最終日一時2位とは5打差の独走態勢にあったレクシー・トンプソン選手が後半のハーフで失速。勝負はまさかの日本人同士のプレーオフに。結局畑岡奈紗選手との3ホールのプレーオフで勝負に決着をつけた。

優勝後のインタビューで笹生選手はこう語っている。

「(世界ランク1位や賞金1位は)もちろんなれたら、すごくうれしいです。でも、それだけを見て、もしそうなったとしてうれしいのかなって思います。だって、自分がうれしい気持ちで練習して、幸せな気持ちでトレーニングして、試合に出て勝つから、そういううれしい気持ちが出てくると思う。つらい、大変だなっていう気持ちを持ちながら試合に出て勝ったとしても、うれしいのかなって思います。もっと軽い気持ちというか、楽しんで、自分が幸せになるようにしていきたいです」(GDOニュース20210610)

一流アスリートの共通点は強固な持論を貫き通すということ。彼らには何事にも強いこだわりがあり、それを安易に変えることは絶対にない。笹生選手も例外ではない。それだけでなく、徹底したポジティブ志向が笹生選手の武器である。

 人間の行動を支配する3種類のモチベーション

人間の行動を支配するモチベーション(動機付け)は、主に3種類存在する。緊張系モチベーション、希望系モチベーション、そして持論系モチベーションである。

緊張系モチベーションは、期限内に行わなければならない時に発揮される動機付けである。私は「仕事人のモチベーション」と呼んでいる。テスト前の一夜漬けはその典型例であり、これは無視できない欲求である。

たとえば、あまりやりたくないパットの練習をやり続けるためには、「パットが上手くならないとスコアアップできない!」という切実感、つまり、緊張系モチベーションを持つことが求められる。

2番目は希望系モチベーション。これは「夢を実現したい!」という淡い動議付けである。私は「子供のモチベーション」と呼んでいる。

プロゴルファーが発する「優勝したい!」というメッセージはその典型例。しかし、これは弱過ぎる。子供が抱くには良いが、行動に結び付けるにはかえってマイナスになることも多いのだ。私の経験からも、スランプになって立ち直れないアスリートはこの神頼みのモチベーションを好むタイプである。少なくとも、笹生選手はその範疇にはない。

そして、3番目のモチベーションが、持論系モチベーション。これこそ、最強のモチベーション。私は「一流人のモチベーション」と呼んでいる。このモチベーションを持つゴルファーは、行動は自分が納得したものしか行わず、結果はすべて自分が責任を持つ。もちろん、良い結果も悪い結果もすべて同じように冷静に受け止めることができる。間違いなく笹生選手にとってこのモチベーションが彼女を一流のツアープロに仕立てている。

 辛い練習を快感に感じられるのが一流のアスリートの共通点

巷には、「結果がすべて」という言葉が一人歩きしている。確かにそれは事実であるが、結果なんて過去の遺物であり、もっと言えば、それは自分以外の人たちが評価するものであり、そんなものに一喜一憂しているようでは、決して一流にはなれない。

正解は「行動がすべて」である。どんな結果になろうとも、それを冷静に受け止め、その状況下で「自分流」を貫き、最善の行動を取り続けること。こんな楽しい、面白いことはない。前述した笹生選手のコメントがそのことを象徴している。

  アメリカを代表する哲学者、ジョシュア・ハルバースダム博士は自著でこう語っている。

「仕事における最大の報酬は、目の前の仕事をする行為そのものにある」

   これをゴルフに置き換えたらどうなるだろう。

「ゴルフにおける最大の報酬は、ショットをする行為そのものにある」

  そうだとしたら、「ショットの結果に一喜一憂するのは、とても低い精神レベルである」と言わざるを得ない。どうせなら、ショットすることそのものに快感を求め、そこから成長を敏感に感じ取る。この姿勢を持ち続けたから、神は笹生選手に全米女子オープン優勝というプレゼントをしたと、言えなくない。

多分笹生選手はアメリカに舞台を移して戦っていくと思うが、彼女が自分の幸せを求めながら、目の前のショットや辛い練習の行為そのものに快感を求め続ける限り、彼女の快進撃はこれからも続くだろう。これからの笹生選手の活躍から目を離せない。

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ABOUTこの記事をかいた人

1947年兵庫県生まれ。京都大学工学部卒業。UCLA大学院卒業。修士号取得。82年米国オリンピック委員会にて客員研究員としてバイオメカニクス、メンタルトレーニングの研究に従事。94年より井戸木プロを皮切りに、これまで30人以上にプロゴルファーのメンタカンセリングを務め、現在も数人のプロゴルファーのメンタル面のバックアップをしている。現在追手門学院大学客員教授。日本スポーツ心理学会会員、日本ゴルフ学会会員。スポーツに関する著作も多くゴルフ関連の著作を含めて150册の著書がある。年間7~10回のペースでトーナメント会場を訪れ積極的に取材活動を行っている。今後メンタルトレーニングの分野を中心に積極的にゴルフ関連の執筆を進めて行く。
主な活動・著書
『一日5分!ゴルフメンタルでもっと上手くなる』日東書院
『「一日5分でシングルになる!ゴルフメンタル』池田書店
『なぜゴルフが練習しても上手くならないのか』東邦出版
『「なぜゴルフはナイスショットが「絶対」に再現できないのか』東邦出版