松下健
特別な日々
私は勤務地が千葉県の房総エリアのゴルフ場である。普段なら打ち合わせや営業活動で週の三分の一程度は都内に出ていたが、この騒ぎで都内に出る仕事は全てリモート。県外への外出自粛もあってほぼゴルフ場で過ごす日々が続いた。
コースの対応はレストラン、お風呂、ロッカーをクローズし、スループレー限定の特別営業。クラブの積み下ろし、カートへの積込も全てセルフ。
フロントでの記帳もスタッフと離れた場所で行って貰うなど、極力他人との接触を避ける対策を取り、7時台には初めて一人でのプレー枠を設定、連日この枠から埋まっていくほどの人気となった。
客層もシニア層が激減、コンペも皆無だから社用族も居ない。変わって訪れていたのは若年のアスリート層と家族ゴルファー。大学ゴルフ部らしきグループや親子連れなどが特に目立っていた。
ここ数カ月、ゴルフプレーには後ろめたさを感じていた人が多かったと思うが、自分のゴルフに対して「遊び」という感覚が少ない競技志向のシリアスゴルファー、「家族とだけならまだ安全」と考えたファミリー層など、「後ろめたさ」を感じにくいゴルファー、メンバーでの来場が多かったのではないだろうか。
実際、スループレーで食事もロッカーでの着替えも無いからゴルフ場での滞在時間はかなり短い。一人プレーだと9ホール1時間強で上がってくるからプレー時間は3時間以下で済むことも。
緊急事態宣言下の首都圏は高速道路の渋滞はほぼゼロ。コースまでの移動ストレスも激減し、この時期にプレーしていたゴルファーは禁断の果実を味わってしまったようだ。
6月からはほぼ通常営業となったコースも多いが、こうした「時短ゴルフ」、新しいスタンダートとして、これからはより多様化していくニーズにも対応していきたい。
青空から世界の環境問題に思いを馳せる
こうした2カ月余りの特別な日々。特に心に強く残っているのは、空の青さ。とにかく空気が澄んでいて、見慣れた房総の山々なのに新緑と青空の鮮やかなコントラストにしばし目を奪われることも度々。
普段ならひっきり無しに上空を通過する航空機もめっきり減り、なんとも穏やかな大空を毎日味わうことが出来た。
これは明らかに工場の操業停止や移動制限による運輸燃料の削減など、人間の経済活動縮小の影響であろう。
世界的にも温室効果ガスの排出はかなり低減しているという。
中国では大気汚染が激減し、インドでも30年ぶりにヒマラヤ山脈が見えた、ハワイのビーチはウミガメで溢れかえった、など、世界各地で人間の活動変化による自然環境の回帰とも言える現象が相次いで報告されている。
こんな事態でも起こらなければ見られなかった美しい「地球」を世界中の人々が見てしまったのだ。
しかしこの現象は恐らく一時的。世界規模でウイルスからの復興が求められる中、地球への
環境負荷はまた増加に転じてしまうことは容易に予想出来る。
ただカナダやEUなど、一部の国ではコロナ以前の状態を目指すのではなく、環境負荷や社会の持続可能性に重点を置いた復興計画「グリーン・リカバリー」を標榜してところもある。
日本では間もなく台風のシーズンを迎える。昨秋の甚大な被害を始め、ここ数年の異常気象
による災害を思い起こせば温室効果ガスの削減にも目を向けなければならない。
この7月からはレジ袋の有料化も本格化する。コースでも風呂場のビニール袋を撤廃するなど、そうした流れに沿った対応も進めている。我々ゴルファーは、より自然の近くにいる人種。出来ることは少ないかも知れないが、2020年「特別な春」に目にした抜けるような青空。それだけは忘れずにしっかりと目に焼き付けておこうと思う。
禁断の果実、というタイトルと文章が上手く絡み合って素晴らしい構成ですね。名文です。