2016年のゴルフ業界を省みて

岐路に立つ日本のゴルフ界

2016年という年も終わろうとしています。今年の皆様の景気はどうだったでしょうか。

日本のゴルフ業界は今年もあまり良いとは言えませんでした。しかし、ゴルフ場入場者数はここ数年ほぼ横ばいが続いていて、2015年問題は騒がれているほどでもないのではないかと感じている人もいるのも事実です。小さな変化、減少は想定内という感じで見過ごされやすいもので、昨年と比べてあまり大きな変化がなければ、来年もう少し頑張れば良くなるかもしれない、と言う希望的観測で動いてしまっているのも事実です。

しかし、1993年のバブル崩壊後、毎年わずかな減少を続けてきた結果、出荷ベースで4,268億円(1992年度)あったゴルフ市場は2014年度2,585億円と約40%も下落し、ゴルフ参加人口も1992年は1,480万人だったものが2014年には775万人まで減少しているのです。もうバブル期のような時代は戻ってこないのです。

この先は団塊の世代と呼ばれる今までゴルフ市場を牽引してきた最大のゴルファーの塊が2020年には70歳以上となりそのゴルファーの半数がゴルフからリタイアするという大変な状況がやってきます。それを補うゴルフ人口は団塊の世代の半分くらいしか育っていないのです。

この先はわずかな減少どころではない津波のようなうねりがそこまで来ています。売り上げの約1/3がなくなるという推測値も出ています。それまでになんとかしなければそれぞれのゴルフショップもメーカーもゴルフ場も練習場も、生き残れるかどうかの厳しい状況下にさらされてしまうのです。

岐路とはこのような状況を打破するにはどうしたら良いかという大きな課題に対して2つの方法論があり、どちらに進むべきか、というものです。

一つは、改善論です。今までのやり方の中で、良いものはより良く、不適と思われるものを良き方向に改めていく方法です。もう一つは改革論です。こちらは今までのやり方をやめて、全く新しいやり方でことに当たる方法です。長年やってきて改善ではどうしようもない時に行わなければならない方法です。

この状況下では改革しか生き残る道はないのです。
では一体どうすれば良いのかがわからない、見えないことが問題なのです。
ここで現在大きな課題とされているものを整理してみると

1、ゴルフ人口の減少。総人口の減少率よりも大きな減少率。
2、ゴルフ人口の中核をなすシニアゴルファーのゴルフリタイア
3、ゴルフを始めた人のほぼ半数が3年以内にゴルフをやめるという事実

これらの課題に対してゴルフ業界では“始めよう、続けよう、もっとゴルフを!”というスローガンで活性化を図ってきましたが、いろいろな活動が実施されてきてはいるもののゴルフ人口の減少傾向を止めるところまではまだ至っていないのが現状です。

だからこそもう一度、どこに根本的な問題があるのか、その原因は何か、を深掘りしてみる必要があります。その根本的問題の一つにバブル期、大きな成功体験を経験したシステムややり方を継続して行ってきていることが挙げられます。

最大のポイントはゴルフを始めて(2014年の初心者は170万人)3年以内に止めてしまうゴルファーが半数も存在する事実がありながら、それを放置してきたことです。お店でも顧客数が増えていかなければ将来の発展がないのと同じです。なぜゴルフを止めてしまうのかは、彼らにとってゴルフが面白くない、楽しめないからです。

どこに原因があるのでしょうか。彼らの視点に立たなければその答えは見つからないと思います。なぜなら我々はゴルフが楽しいと思っているし、もっとやりたいと思っている人間で痛みを抱えているゴルファーの本当の苦しみが正しく理解できていないからです。

ゴルフ用品メーカー、小売店、ゴルフ場、ゴルフ練習場が今までやってきたやり方に限界がきていて、今まで以上のスピードでゴルフ人口が減っていくという新たな状況の中で、それこそ「どうすべきか」という問いに対して答えを出さねばならないのです。

小売店にとってもゴルフを始めて、続けてくれる人がいなければ用具や用品の販売はできません。そして、彼らが夢中になればなるほど用具に対する出費も大きく伸びてくるのです。

改革はここからです。今までやり方でなく、新しい発想、顧客の視点を持ってゴルフを楽しめる仕掛けをショップ自ら企画して実行することです。もちろんゴルフ場、練習場、プロなどとできれば連携して、これから始める人、始めたばかりの人、ゴルフを楽しめない人を「ゴルフに夢中」にさせる必要があるからです。

お店の中で始める小さな改革

「嬉しさの創造」という視点で行う<始めよう、続けよう、もっとゴルフを!>
辞めた人に対するアンケート結果は、ショップに猛省を促すものです。初心者は情報もないので実はネットでなくショップをすごく頼りにしているのです。しかし、大型量販店は店員が少なく相手にしてもらえず、声をかけるにも何を聞いたら良いかもわからず途方にくれているのです。専門店は初心者には入りにくい空気があり、しかも初心者に適した用具も少ないこともあり、彼らは大きな疎外感を持っているのです。

いずれも視点がショップからのもので初心者の気持ちになっての受け入れ態勢が出来ていない点であり、ゴルフ場も、練習場も業界は初心者に冷たかったから半分もやめてしまったと考えたら、大きな損失を自分たちで生み出していたことになります。

お店の活性化は何も特別なことをやることではなく、視点を変えて初心者にとっても優しさ、楽しさを感じてもらえるものを提供する事なのです。以前にも書きましたが「効率と便利さ」がこのような状況を生み出しているとしたら「嬉しさの創造」への転換が求められています。誰かがやってくれるのではなく、個々のお店やお店の関係者が自らの仕事のやり方を「嬉しさの創造」に方向転換することで、自分たちの周りが変わって来ます。

改革は今まで慣れ親しんできたやり方を変えるわけなので、かなりのエネルギーと忍耐が必要です。すぐに結果は出ません。しかし、続けることで少しずつ変わってきます。
接客の方法、声がけ、POP,WEB,SNSいろいろなところで視点を変えたやり方があります。何も初心者だけに対してではなく、今お店を支えてくれる人に対してにもです。

特に初心者が喜び、満足するようなことであれば必ずそれは大きな波紋に変化してくるでしょう。不安を解消するような接客、声がけ、そして時にはコースに連れ出し、感動を与え、独り立ちできるようにすることでゴルフの楽しさを感じ、お店が輝きを取り戻す原動力になってくれるはずです。

一見だった顧客を、もうゴルフをやめようと思っていたゴルファーをロイヤルカスタマーに変身させることが改革なのです。
例えば改革のスローガン別にこんな事はどうでしょうか?

<始めようゴルフ>

お店にきていただいているお客様の家族をゴルファーにすることは決して難しいことではありません。初めての人はきっかけが欲しいのです。家族や友人からの勧めでゴルフを始める人が44.4%(じゃらんリサーチセンター調査)もいる事実は家族でゴルフをするような企画を立ててみることです。

夫婦でゴルフ、親子でゴルフ、孫とゴルフ、それこそ練習場、ゴルフ場、インストラクターと連携して「楽しさを創造する」ものです。アンケート調査の結果では初めて3年以内に115というスコアをクリアするとゴルフを継続し110を切るとプレイする回数が大きく増加します。

さらに平均スコアが101になると年間のプレイ回数は10~29回となり、平均スコアが98になると年間プレイ回数が30回以上になるという事実。「嬉しさの創造」は100をいかに早く切らせるかであり、3年以内により多くの初心者が体感できる仕組みを作り実行することです。

<続けようゴルフ>

これはまさにシニアのゴルフリタイア対策です。シニアのリタイアの理由は①仲間がいなくなる、②飛距離が出なくなり楽しめない、の2つが圧倒的なものです。この2つの課題をクリアすればある程度はリタイアを食い止めることができます。やはりここでも「嬉しさの創造」となります。

新たなゴルフ仲間を作ってあげるようなコミュニティの構築で「ゴルフと旅」「ゴルフと健康」など切り口は新たなビジネスにもつながる可能性も出てきます。ゴルフをするシニアは時間とお金を有効に使いたいのです。

<もっとゴルフを>

これは競技ゴルフへの誘い、ともいうべきもので競技ゴルファーのプレイ回数はその腕前に応じて比例して多くなっています。競技志向のゴルファーのコミュニティを作りラインでネットワークを作ることもありです。その中心にお店が存在することで、彼らが勝手に参加したい競技会を、見つけて仲間を募って参加し始めます。

そして、その結果をみんなで共有することで参加しなかった人も楽しめて、仲間意識が高まりいろいろな大会にチャレンジし始めていきます。そういうコミュニティこそがここでは「嬉しさを創造する」仕組みとなるのです。彼らが夢中になればなるほどお店は活性化していくのです。

小さな改革はお店によってやり方も異なってきますが、自分たちの顧客にどうやったら「嬉しさを創造できる」のかを考えて、考えて実行に移すことです。

正直、時間はもうありません。しかし、今ならまだ改革というツールを使って将来に向けた新たな道を見つけられます。改革は今までと違うことを行うわけですから大きなエネルギーと忍耐が必要です。しかし、それを躊躇している時間がもうないわけで、生き残るためにも今できる小さな改革から始めなくてはなりません。

もう一度、顧客リストをじっくりと見てください。何かがわかります。どうすれば良いかのアイデアが浮かんでくるはずです。「効率と便利さ」から「嬉しさを創造する」アイデアです。

最後にこのような統計的な数字を紹介します。

「良い」と思ったことを実行に移す人は3割、それを最後まで続ける人は1割です。
2017年、改革の年です。最後まで続けましょう。

(ユニバーサルゴルフのPCM24号(12月25日発行)に掲載された原稿です)

9 件のコメント

  • 現在、海外に住んでおります。
    日本のゴルフ会員権は、1人一つの会員しかプレイがメンバーとしてできません。
    海外では一つの会員権で夫婦、子供も会員となり、プレイすることができます。
    プレイしやすい環境作りが必要ですね。

    • ご連絡が遅くなったことお詫び申し上げます。投稿ありがとうございました。
      ご指摘のとおりだと思います。
      生活の中のゴルフ、コミュニティとしてのゴルフ場と言う基本的な考えがあるからだと思います。
      日本はビジネスの対象としてのゴルフ場、会員権ですのでその差は大きいです。
      もっと手軽にできるパブリックゴルフ場が必要で、その中から、ゴルフに対する同じようなコンセプトを持つ人たちが
      メンバーシップ制のコースを運営していくことが本来の姿だと思っています。

  • ゴルフ場に行くと、いつも思います。特に女性は可愛いそうだなぁと、何故なら白ティーも赤ティーも差ほど変わらない、変わったとしても距離が長い、2打目アイアンで打てないよね。ウッドで打っても届かない、パ―が取れない、何年たってもスコアは変わらないよね。これまで面白くないよね。もっとティーを前にだすべきでは、パ―やバ―ディ―が簡単に取れる距離にね。

    • 投稿ありがとうございます。
      基本的にティグランドの位置は一緒にプレイする人のティショットがナイスショットとしてセカンドショットを同じ番手で打てる距離差を持つティグランドから打っていくことがフェアだと思います。もっとティグランドが必要です。
      ゴルフはパーを取ることを基本としてゲームが成立するようになっていので、レベルに関係なくパーが取れる可能性が十分にあることを考慮に入れたものにすべきだと考えます。そういった意味ではゴルフ場は女性や飛距離の出ない人たちそして初心者には十分配慮がなされていない気がします。上手な方の意見が通りやすくゴルフ弱者が対等に意見を言ったり改革に口を出すことができない空気が満ちているからです。プレーヤーはもっと声をあげても良いと思います。同じお金を払っているわけですから、同じように楽しめる権利を主張しても良いのではないでしょうか。

  • 女性ゴルファーです。メンバーになって月例に出たいと考えておりやす。しかし、平日会員は出れない為正会員になろとしても女性→女性の会員権は男性の3倍から5倍のプレミアがつきます。ゴルフ場に相談しても冷たいです。まだまだ女性がゴルフをするにはハードルが高いです。

  • 女性ゴルファーです。メンバーになって月例に出たいと考えております。しかし、平日会員は出れない為正会員になろとしても女性→女性の会員権は男性の3倍から5倍のプレミアがつきます。ゴルフ場に相談しても冷たいです。まだまだ女性がゴルフをするにはハードルが高いです。

    • 投稿ありがとうございます。
      このような問題がまだまだあること自体日本のゴルフは…と言われてしまう部分でもあります。
      まずはパブリックコースの友の会の会員になって月例を始めとする各種の競技会に参加されたらどうでしょうか。
      そのような競技会に参加されるゴルファーはメンバーコースの会員であったりして、女性が気軽に参加できるコースを紹介してくれたり有益な情報もお持ちです。
      どのコースも女性の競技参加者が少なくて苦慮しているようです。女性の競技者が多いところはそれなりに女性に好評な施策を考えているところが多いはずです。トライしてみてください。

      • 松尾様、返信ありがとうございました。友の会など別な方法で競技を楽しむこともできるんですね!トライしてみます。

        もう一つゴルフバックの男女差について。男性よりもウッド数が多い女性のゴルフバックは8.5型が殆どです。男性用は9型や9.5型しかも軽量が沢山あります。私自身も1w、3w、5w、7w、ハイブリッドと5本のウッドを使っておりますので男性用の9型を購入しました。しかしデザインはシンプル。パターのヘッドも大きい昨今、女性用の9型や9.5型の軽量ゴルフバックが沢山出ることを願います。

  • なんとはなしに拝読して、やや大袈裟にいいますと衝撃を受けました。へっぽこですが、ゴルファーを自覚する者として改革の和に参加したいです。一番危険なことは、皆が無関心なことではないかと考えます。

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    ABOUTこの記事をかいた人

    1949年12月23日生れ  神奈川県出身
    東海大学工学部航空宇宙学科卒、在学中は体育会ゴルフ部副将および関東学生ゴルフ連盟の連盟委員を兼務。パイロット志望から一転してゴルフ用品販売業務に携わる。ゴルフ工房を主宰しながら1988年からフリーランスゴルフライターとしても活動。国内外合わせて25のゴルフクラブメーカを取材し、記事として各誌に掲載する。「良いゴルフクラブとは何か」をテーマに取材活動を続ける。1989年米国キャロウェイゴルフの取材と掲載記事をきっかけに親交を深める。
    その後1994年キャロウェイゴルフからのオファーを受け日本人初の正社員として契約。日本法人では広報担当責任者として6年間担当し、その後2014年までCorporate Relationsの担当責任者として勤務。主に対外的な渉外活動を行う。2015年からフリーとなる。
    「日本のゴルフを面白くする」が新たな活動テーマ
    キャロウェイゴルフ在職中はゴルフの普及や活性化のために幅広く活動。
    ◎ゴルフ市場活性化委員会広報責任者
    ◎一般社団法人日本ゴルフ用品協会 活性化委員、ジュニア委員
    ◎NPO日本障害者ゴルフ協会理事
    ◎北海道ゴルフ観光協会顧問
    主な活動・著書
    *著書:クラブが分かれば上手くなる!(スキージャーナル社)  
    *取材編集:ゴルフの楽しみ方(講談社)