日経電子版2016年3月22日配信
日本ゴルフツアー機構(JGTO)の新会長に、プロゴルファーの青木功(73)が就任した。ついに登場の感がする。
といっても、このJGTOという団体がどのような活動をしているのかを、はっきりとわかっている人は少ないだろう。簡単にいえば、国内男子プロゴルフトーナメントの管理、運営である。
よく似た組織に、日本プロゴルフ協会(PGA)がある。こちらは約5000人のプロゴルファーを会員に持つ組織で、主にトーナメントプレーヤー部門とティーチングプロ部門で活動しているが、日本プロ選手権を主催するとともに、男子シニアツアーも管理、運営している。JGTOとかぶる部分があって、ちょっとややこしい。
かつてはプロゴルファー部門もトーナメント部門も両方をPGAが管理していたが、1999年にツアートーナメント部門がJGTOとして独立したという経緯があり、兄弟のようで、ライバルのような、微妙な関係といえる。
■青木会長に託されたツアー立て直し
そのJGTOのトップに青木が推された。理事でプロゴルファーの横田真一は「以前から青木さんにお願いしていて、今回、やっと引き受けてもらえてうれしい」と口にした。
なぜ今、青木会長なのか? その最大の理由は、男子ツアーの立て直しである。
国内女子ツアーはすでに3月3日からのダイキン・オーキッド・レディースで開幕。11月末までの39週中たった1週を除いて38試合が行われる超過密スケジュールなのに対し、男子ツアーは4月14日からの東建ホームメイト・カップが事実上の開幕戦で、年間わずか24試合(海外の試合を含まず)。青木、尾崎将司、中嶋常幸らがギャラリーを呼び寄せ、今の女子ツアーと同じ状況だったかつての隆盛ぶりとは雲泥の差であり、まさに危機的な状況である。
会長就任の席で、青木はこう語っている。
「今の選手たちは、『自分がやらなきゃ』という気持ちはあっても、それが口に出ないし、行動につながっていないように思う。そこを変えたい。きついことを言うかもしれないけれど、『自分たちのためなんだよ』と言い続けたい。自分が経験してきたことを若い人たちに伝えていけば、意識が変わると思う。それにかけてみたい。ゴルフ界へのお礼のつもりで、精いっぱいの恩返しをしたい」
今回、JGTOは、新たな理念「人を育む」を作成し、「プレーヤーである前に、人として人の模範となるべし」を掲げた。つまり、人間形成、人格形成が必要なことを口にしたことになる。逆にいえば、それができていなかったということだろう。
■芳しくない話も出ている男子ツアー
男子ツアー、男子プロに関しては、芳しくない話や意見が出ているのは確かだ。それが、試合数減少の一因になっているかもしれない。その一つを、青木会長は「ファンサービス不足」と言い切った。
以前にこのコーナーで少し触れたが、米国では男子ツアーも女子ツアーもファンを大切にする。その一つがギャラリーへのサインサービスだが、ほとんどの選手たちはサインをして手渡す際に「サンキュー」の言葉を添える。サインをしたほうが、してもらったほうに「ありがとう」というのだ。
国内でも女子ツアーでは、プロアマ戦に出場したアマチュアプレーヤーに、トーナメント後、同じ組で回った女子プロが「ありがとうございました」の言葉とともに、サンキューレターを送る習慣がある。
ファンサービスといえば、プロ野球・横浜DeNAベイスターズが話題になる。選手たちに「年俸は結局、お客さんの入場券から出ている」と説いた結果、サインはもちろん、握手やハイタッチなど、12球団の中でファンとの交流が最も盛んである。これも「ありがとうございます」の気持ちがあってこそだ。
その結果、昨年のホームゲームの年間入場者数が約181万人と、2011年に比べて65%もアップし、球団の赤字も減っているという。
青木新会長のいう「口に出ない、行動につながらない」のは「ありがとうございます」の言葉と、それに伴うファンサービスではないだろうか。男子ツアー復活はそこにかかっているように思う。