「いたちごっこ」に歯止めをかける時が来た 河北 俊正

SLEルール」は本当にゴルファーのためになるのか!
高反発フェースのドライバーはクラブとして認められないというけれど・・・

クラブフェースの反発係数を0・830以内に抑えるSLEルール(スプリング効果規制)が2008年1月1日から施行される。高反発クラブはゴルフ規則によって正式なゴルフ用具として認められないというもの。しかし、現状では「ルールだからといって素直に受け入れられない」などの意見も多く、一般ゴルファーやゴルフ場も含めて賛否両論が渦巻いている。SLEルールの今後の問題点、一般のアマチュアゴルファーに与える影響などについて識者の意見を集めてみた。


 

「いたちごっこ」に歯止めをかける時が来た

河北 俊正

ついに2008年度改訂のゴルフルールから正式にドライバーの高反発規制(SLE規制)が全面的に発効する。

つまり、これまではプロトーナメントやJGA主催の公式競技だけで禁止されてきた基準を超える高反発フェースのドライバーが、今後はゴルフルールにより正式なゴルフ用具として認められなくなり、競技のみならずプライベートなゲームであっても、ゴルフルールに従って行われる限りは全世界で使用禁止されることになったのだ。

北米(USGA管轄地区)を除く全世界を管轄するR&Aは、傘下のゴルフ団体に対して、このルール発効後のトラブルを防ぐためゴルファーの認識徹底を促しており、国内ではJGAがその機関誌、JGAジャーナル2007年7月号で特集を組み、傘下のゴルフコースを通して徹底を図るなどPRに努めている。

しかし、現実に一般のゴルフ界における認識はどうだろうか。多くのゴルフコースが未だにその徹底方法に逡巡しているようだし、競技に参加する機会がないゴルファーの多くは「そんなの関係ねえ」と、新ルール発効を知識としては知りながらも自分には関わりないことだと、ルール適合クラブに交換する意志さえ持っていない。また、一部のクラブメーカーでは、「高反発クラブはユーザーニーズだ」と新ルール発効後も不適合クラブの生産販売を継続するという話も聞く。

このような状態も、これまでのゴルフ用具規制で不適合となった製品と同様に、いずれメーカーが生産しなくなれば自然淘汰され、時と共に姿を消すのだろうと思われる。しかし筆者が危惧するのは、現代のゴルフ用具規制のあり方がこのままでいいのかということだ。

ゴルフが自分で用具を選ぶことが出来、そしてゴルファーの望みが「遠く、正確に(Far and Sure)」である限り、飛ぶクラブへの欲望は無くなるはずがなく、如何にゴルフ協会など競技団体サイドが競技性を維持するために用具性能を規制しようとしても、ユーザーニーズを追求する用具メーカーとの「いたちごっこ」には終わりが無いのだ。この図式はゴルフの歴史、ゴルフ用具開発の歴史と共に100年以上も続いてきており、今回の一連の規制もその一こまだと言えるのかも知れない。しかし筆者はこの「いたちごっこ」にもそろそろ歯止めをかける時が来ているのではないかと感じるのだ。

そもそも、このSLEルールが初めて論議されだしたのは、今からほぼ10年前、タイガー・ウッズに代表されるアスリートゴルファーが、強靱な肉体とハイテク用具を駆使して超弩級の飛びによる新しいスタイルのゴルフを展開しだした頃からで、競技内容の変化とゴルフコースの陳腐化を危惧したUSGAが、ドライバーフェースの反発係数(COR)制限を提案した時からだった。

つまり、この時からずっとUSGAやR&Aの頭の中にあったのは、世界の全ゴルファーの1%にも満たないエリートゴルファーのパフォーマンスを抑えることにあり、この規制によりマイナスの影響を受ける99%以上の一般ゴルファーは無視されてきている。

一方、ゴルフを取り巻く産業界(ゴルフ場、ゴルフ練習場、ゴルフ用品産業など)は、この99%以上の一般ゴルファーによる膨大な消費によって成り立っているのであり、一般ゴルファーへの不利益は、そのまま需要減退に繋がることにもなりかねない。

実際に、高反発規制が発表されて以後、多くのメーカーは高反発フェースのクラブ生産は止めたが、だからといって以前より飛ばなくなったドライバーを発表したメーカーは一社もない。結局メーカーは「飛び」の新しい技術を開発し、更に飛ぶクラブを発表、そしてエリートプレーヤー達は、それを使い更に飛ばし始めているのだ。皮肉にもゴルフ協会の用具規制は、その目的とは裏腹に更なる高性能用具への進化を触発したことになるわけだ。

ゴルフ協会、プロ協会、ゴルフコース、ゴルフ用品メーカーなどの利害関連団体は、ゴルフの本質を失わず、かつ大多数である一般ゴルファーの楽しみを奪わないようなゴルフ用具標準の策定に論議をつくして欲しい。