「〝軽の時代〟に合ったゴルフの普及を」 ―クラブ5本でもゴルフはできる ~高梨 保~

いま、時代は〝軽〟である。クルマの国内販売は年々落ちているのに軽自動車だけは右肩上がりに売り上げを伸ばし、100円ショップでの買い物が当たり前の時代。「首都圏―那須・塩原間無料送迎・1泊2食付き4800円」なんてツアーももう驚きではなくなった。

携帯電話にいたっては1円、いやタダでも買える。ゴルファーはコースの食堂で朝食・コーヒーが定番だったが、今は途中のコンビニで120円のおにぎりを食べて行く。

むろん一方ではセレブの層も健在で、こちらはますますセレブ化している。銀座にはまるごとグッチなんてビルがオープンし、トヨタのフラッグシップカー、レクサスは、普通グレードより超高級グレード車にバックオーダーが集中しているとか。

つまり格差の拡大。そういう中で日本のゴルフ界はいま、ゴルフ界の2007年問題を迎えようとしている。

700万人と言われる団塊世代が定年になって、はたして何割がゴルフを続けてくれるのだろうか。だがその危ぐにおびえながらも、ゴルフ業界、ないし関連団体は何の対策も講じていない。口ではゴルフの普及、大衆化を叫びながら、やっていることは裏腹でバブル時代のままだ。

粗大ゴミを売るクラブ・メーカー

 例えばクラブである。各メーカーが「飛距離が10ヤード~20ヤード伸びます」なんてクラブを年々競って売り出しているが、そのほとんどは心底飛距離を欲している非力な人や年配者にはあまり役立っていない。

それどころか、何とか目先を変えて新しいクラブを売りつけようと、シャフトを年々長く伸ばしていき、それが行き渡ってもう売れる余地がなくなったと見るや、今度はシャフトを短くし、こっちの方が実は飛ぶんですと詐欺まがいの売り方をしている。

高反発デカヘッドのドライバーもしかり。「うん、ほんと、これ飛ぶかも」と、珍しくゴルファーに喜ばれるクラブが普及したと思ったら、2008年の高反発規制が発表された。するとどうだ。すかさずメーカーはこれに便乗し「違反クラブはどうぞ新製品の適合クラブにお買い換えを」と宣伝合戦だ。

高反発クラブは公式競技やクラブ競技で使用が禁止され、同クラブで出したスコアでは公認ハンディが取れないというだけのもの。一般ゴルファーが遊びでやるゴルフには何の問題もないのにだ。

かくして新しく買わされたクラブはたちまち型遅れとなり、我慢して使い続ける人は自分のクラブにひけめと不満をもって使うことになる。メーカーが鳴り物入りで売り出した〝先進テクノロジー〟のクラブを、メーカー自身がわずか1~2年で粗大ゴミ化してしまうような売り方をしているのである。

もしゴルフを真に大衆のスポーツにと願うなら、こんな使用者を欺くような物の売り方はすべきでない。ゴルフのクラブというのは、車やデジカメ、携帯電話などと違い使用者の技術と関連して性能を発揮するものだけに、性能の良し悪しが一般のアマチュアには分かりにくい。だからこそメーカーは素人をだまくらかすような売り方をしてはいけないのだ。

小さなパイを奪い合っている時ではない

これまでゴルフ界がやってきたことは、バブルの崩壊以後激減したゴルファーという小さなパイを、業界内で奪い合いしているようなことでしかなかった。競争する相手を間違えている。ゴルフ界が競争する相手は、もっと他のスポーツやレジャーのはずではないのか。

旅行や山歩き、スキー、テニスも素晴らしいでしょうが、ゴルフはもっと素敵ですよと、胸を張って呼びかけられるようなゴルフ環境を整えることではないのか。

団塊世代よどこへ行く、といま各業界は獲得合戦に血眼になっている。年金生活でも可能な田舎暮らしや海外移住がテレビの人気番組になり、スキー場などはもうとっくの昔からリフト券のシニア大幅割引きをして誘致に力を入れている。安上がりのスポーツの代表としてテニスや水泳の人気も復活気配。いやさらに、ウオーキングならタダでできるからと亭主族は奥様連に尻をたたかれているなんて話も聞く。

それらに対抗するにはゴルフにかかる費用はいかにも高すぎる。プレー費は都会からの遠隔地では安くなったが、そこまで行く交通費が高い。電車で行けば割安だが、その分宅急便代がかかる。練習代も高い。クラブも高い。ボールも高い。

安いクラブやボールも売られてはいるのだが、前述のとおり素人には良し悪しが分からないから、安いものは悪いんじゃないかと、買っても不安や不満を抱えたまま使うことになる。

と考えてくると、ゴルフの今以上の普及は到底困難と思える。だが、活路は一つだけある。それはゴルフをもっと手軽に、〝軽の時代〟に合ったスポーツにすることだ。クラブが14本なくたってゴルフはできる。10本に減らせば4本分のクラブ購入費が節約できる。昔やったようにハーフセットなら、小型車のトランクでもキャディバッグが4個積める。

宅急便代を浮かすための実験にと先日、クラブ5本を練習場に通うケースに入れてプレーしてきたが、楽しさは14本でやるのと変わらなかった。調子が良かったせいかスコアはむしろ良かった。

いや、コースに出るだけがゴルフではない。練習場でボールを打つだけでも十分楽しいし、真剣にスイングを考えるなら庭での素振りやじゅうたんパットでも長時間熱中できる。電車のつり革につかまってスイングを考えるのだって立派なゴルフだし、飛ばしのために足腰を鍛えるジョギングだって、広い意味ではゴルフの楽しみにつながるものだ。

そう考えればゴルフは決して高い遊びではない。そんなゴルフなら団塊世代が定年になってもやり続けることができる。これだとゴルファー一人あたりの使うお金が減るのでメーカーやゴルフ場の収益は一時的には減るが、それによって他のレジャーからの流入人口が増えれば総収益は上がる。ゴルファー、業界が共に喜び合える真のゴルフ大衆化が可能になると思うのだ。