2007年を迎えてゴルフ界最大の焦点は「団塊リタイア」問題  ~宮崎 紘一~

2007年を迎えてゴルフ界最大の焦点は「団塊リタイア」問題である。なにしろこの世代の動向がこれからのゴルフ業界の浮沈を左右するとまで言われているからだ。団塊世代がなぜそこまで命運を握るのか、様々な角度から検証してみよう。

「団塊世代」とは第2次世界大戦終戦後の昭和22年から24年に生まれたいわゆる「ベビーブーマー世代」をいう。その最初の年代が、2007年に60歳の定年退職を迎えてリタイアする。これが日本の経済その他に大きな影響を与えるため「2007年問題」と称して、様々な論議を呼び起こしてきた。そして07年を皮切りに3年に渡り、次々と団塊世代の放出が続くことになる。その数およそ680万人といわれている。

この年代はいわば企業戦士とも呼ばれ、日本経済発展の中核をなしてきた。日本が世界に冠たる「接待ゴルフ」の代名詞もまたこの世代だ。

彼らはゴルフをスポーツやレジャーというより、いわば仕事の一部として取り入れてきた経緯がある。だからこそ、この世代のリタイアが、日本のゴルフの浮沈を握っている理由でもある。
仕事がらみで、用具を買い、会社の経費でゴルフ場に金を落とす。会社内でのコンペも仕事のうちだ。

時には日曜も祝日もない。上司や、取引先相手にゴルフをするのも大事な仕事。「ゴルフウィドー」などという言葉が生まれたのもこの世代からである。これが今になって様々な歪みを生み出す結果になろうとは。

  不景気の昨今とはいえ、この「団塊世代」に支払われる退職金は50兆円ともいわれる膨大な金額だ。ゴルフ業界ではこの退職金が、リタイア後のゴルフに回されるという期待感がある。だが彼らが辿ってきたゴルフスタイルを見るとそんな楽観視は、ただの幻想にすぎないことがわかる。

仮に680万人のうち、ゴルフをするのは60%として、約400万人である。このうちどれだけが、会社にいたときのようにゴルフをするだろうか。余生をのんびりゴルフにといえない背景がある。

前にも言ったように団塊世代は「会社人間」でもある。

ゴルフはほとんど会社の人間や取引相手だ。それがリタイアしたらどうなるか。仲間がいなくなる。つまりゴルフを共に楽しむ相手がいなくなる。

筆者の周囲にもこういう人が大勢いる。「今までは、会社のコンペや、同僚達とでいつでもゴルフができた。それが当たり前と思っていた。でもいざリタイアすると周りには誰もいない。遊ぶ相手がいなければ自然にゴルフから遠ざかる。競う相手がいなければ、練習する気も起こらない」

会社人間であったがゆえに、仲間はごく狭い範囲に特定されていた。会社人間はまた、自分の住む地域とのコミュニケーションが苦手。そんなことで、あれだけ夢中になっていたゴルフから遠ざかる人間が多い。

会社人間であったために、家族との接触も希薄な人が多い。

「亭主元気で留守がいい」で奥さんはダンナと無関係に自分の趣味を楽しむ。今更一緒にゴルフはすでに手遅れ。もちろん子供と一緒にゴルフを楽しむほどの豊かさはなく、日本のゴルフはファミリーで楽しむような土壌を作ってこなかった。

仕事第一で、家庭を顧みなかったツケもあって、退職金を自由に使うわけにもいかず、ましてやわずかな年金で自分だけゴルフを楽しむわけにもいかない。ゴルフをするにはまだフィーも高く、道具だって簡単に買えるほど安くはない。こんな背景に追い討ちをかけるようなニュースが流れた。

暮れも近づいた06年の11月中旬、内閣府の発表である。それによると06年7~9月期の国内総生産(GDP)は前期比0.5%増、年率換算で2.0%増となった。景気の底堅めのムードだ。ところがその反面個人消費が前期比0.7%減と2四半期ぶりにマイナスに転じている。個人の消費が落ち込んでいるときに真っ先に切り捨てられるのはレジャー産業である。欲しいものを我慢して、自分だけゴルフというわけにもいかなくなる。もっとも日本経団連の御手洗冨士夫会長は「雇用情勢は良く、消費もいずれ好転するはず。閉塞感は確実に打破される」と、明るい見通しを語っているのが救い。

とここまで悲観論ばかり煽ってきたように思われるが、これはあくまで現状分析。これをプラスに転じるには、マイナス要素を改善すればいいのだ。60歳といえばまだ元気盛り。企業で管理職にいた人はそのリーダーシップを生かして地元での同じような境遇の人を集めて同好会のようなものを作る。更に積極的に奥さんをゴルフに誘いこむ。それに仕事人間の亭主にお構いなく奥さん達は女性同士のゴルフに興じているケースも多い。ここは奥さんのサポート役に徹して、ゴルフ場のスタートや運転手に徹する。

ゴルフ場はファミリーや夫婦の優遇策を積極的に考える。今のゴルフは「女性」がキーワードである。会員募集だって欧米のように、主人が入れば、奥さんや子供はファミリー会員として格安でプレーできるシステムにすればいい。もちろんシニア料金も設定する。夫婦のコミュニケーションを取るには1日を一緒に過ごすゴルフが一番。数百万のリタイア組を手をこまねいて失うのはまさに〝愚策〟ゴルフ界全体で日本のために働いてきた「団塊世代」を暖かく迎える必要がある。それが業界の発展につながる。