ゴルフ用品業界に団塊対策はあるのか?  ~片山 哲郎~

いよいよ来年、団塊の世代が大量リタイアを迎える「2007年問題」が始まる。レジャー白書はこの問題について悲観論と楽観論を展開するが、新たに「折衷論」も示されるなど、座標軸は固まっていない。果たしてゴルフ用品業界に対策はあるのか?

「団塊の世代」は1947年~49年に生まれた世代の総称で、命名は堺屋太一氏である。厚生労働省はこの世代の人口を800万人としており、統計方式によっては680万人説もあるのだが、前者を採用するケースが多い。

第二次世界大戦の終結で多くの兵士が帰還し、直後に空前のベビーブームが訪れた。

現在、日本の出生数は年間110万人程度とされているが、1947年以降の3年間は毎年270万人ほどが誕生した。この人口の塊が労働者として経済成長を担う一方、消費者としても多くの大衆ブランドを生み出した。雑誌の「平凡パンチ」、ジーンズの「リーバイス」、オーディオでは「パイオニア」など、団塊ブランドはあまたある。

団塊の世代が「60歳定年」を迎えるのが来年からで、一気にリタイア人口が膨張する。2012年を境に年金受給世代が激増するため、支える側にしてみれば「食い逃げ世代」とも映るのだが、一方で退職金総額は50兆円規模と予測され、各産業が「エルダーマーケティング」を展開中。この世代の消費マインドを分析することで、少子高齢化時代を生き抜こうと必死なのだ。

レジャー白書によれば、団塊世代の消費予測には二つの方向性があるという。

■ 悲観論 パイの縮小と高齢化による活力低下で、余暇活動が低迷する。
■ 楽観論 かつての高齢者イメージと異なる「元気なシニア」の登場が、社会を活性化させていく。

このように、シニアの「活力」について異なる方向を示しているが、実際にはどちらかの論にすんなり立てるほど単純ではなく、両者の折衷論や別の視点からの分析があるなど座標軸は定まらない。団塊世代の多様性に直面するゴルフ業界も、早急に対策を練る必要があるだろう。

悲観論の根拠は「将来不安」に集約される。要点は健康と収入で、団塊女性の77・7%が「体力と健康」、団塊男性の74・8%が「収入」を不安視、余暇を楽しめなくなる可能性があると懸念する。

ゴルフが健康に寄与することは改めて触れるまでもなく、それがこの産業の強みにもなっているが、反面、高額スポーツの代名詞だけに収入面の不安を払拭することが求められる。その際、ひとつの視点が「下流リタイア」と「上流リタイア」の存在で、特に下流層に焦点を当てた分析が不可欠だ。ゴルフ人口の拡大という命題を2007年問題に当てはめれば、下流リタイアへの門戸開放が要諦となる。総務省の家計調査によれば、団塊世代の平均値は、

■ 世帯人数3,5人
■ 月額収入62万6352円
■ 月額支出49万6902円
■ 貯蓄高1659万円
■ 負債残高526万円

平均的な月額小遣いは5万円弱、昼食代は700円程度というデータもあるのだが、これらはあくまでも平均値に過ぎない。列記した数字より遥かに高い層がいる一方、格段に低い層もいる。JSMI主任研究員の山岸勝信氏は、

「下流リタイアと上流リタイアは団塊ジュニアの生活レベルにも影響を及ぼし、下流層の固定化が顕著です。2007年問題の最大のポイントがここにあり、それをゴルフ業界に当てはめると悲観的にならざるをえない」と指摘する。

具体的にはこういったことだ。同氏はゴルフ人口を約800万人と推計し、その4割弱に相当する300万人が会員権を持つ「メンバーシップゴルファー」と見る。さらに、300万人の大半は団塊世代、つまり上流リタイアに属すると考えている。その結果、何が起きるのか…。

「現在は明らかになっていませんが、このままの状態が続けば2015年頃を境に市場は激減するでしょう。団塊世代はこの時期に70代へ突入し、活動が急速に衰えるからです」

つまり、2007年問題は「2015年問題」への入り口に過ぎないという見方なのだ。この文脈に照らせば、解決策は下流リタイアへのアプローチとなる。2015年を待つまでもなく、業界緊急の課題といえる。ゴルフ用品業界に活路はあるのだろうか?

結論めいたことを言ってしまえば、用品業界単独では手に余る。ゴルフ産業1兆7290億円の65%をゴルフ場が占めていることから、「フィールドを持たない我々には、どうしても限界がある。施設業との連動が急がれる所以です」(テーラーメイドゴルフ加瀬友之氏)

それだけではなく練習場やインストラクターとの協調も喫緊の課題だ。

ただ、用品業界においてはすでに大衆化への動きが始まっている。一例にSPA(製造小売)で急成長を遂げたアメリカン倶楽部の存在がある。同社は客単価1万円、平均単価5000円のビジネスモデルを確立、版図を広げている。

「要するに、1人で2本買っていくのです。それが当社の強みであり、SPAによる数の徹底追求が良品安価を実現した。その意味で、ゴルフの大衆スポーツ化は当社にとっても重要課題」(阿部良典営業本部長)

同社は参入5年目の新興企業で、ユニクロ型のSPAにより地歩を築き、顧客名簿10万人の6割を50~60代で構成している。若年層の開拓が進まない不満はあるのだが、ローエンドを支える役割は担っている。

中古市場も同様だ。ゴルフ業界にリサイクル思想を持ち込んだゴルフパートナーは現在230店舗で、常時在庫55万本を揃えながら「買取↓換金↓新品購入」のサイクルを確立した。準大手のゴルフ・ドゥは80店舗体制で、2008年末を目処に150店舗を目論んでいる。系列最大の川越店は売り場面積230坪に試打室(5打席)とフィッティング施設を備えるなど、中古ショップの概念を覆した。いずれもローエンドに注目した成功例なのである。

一方、ゴルフ用品メーカーの大半はハイエンド戦略で2007年問題に対応する。代表的なのがマルマンだ。同社の『マジェスティ』は最高級品の『プレステジオ』とその下の『ロイヤル』に大別されるが、来春、後者を団塊世代の専用ブランドに特化して旗幟鮮明にする予定。

「『ロイヤル』の対象者は60歳を切る程度で『プレステジオ』より8~9歳若いのですが、これを団塊世代の専用ブランドに育てたい。オーナーズコンペに参加すれば友人の輪が広がり、退職後の社交も可能です。商品に対する厳しい選択眼を持っている世代だが、様々な企画で付加価値を高めます」(都文男氏)

これ以外ではテーラーメイドゴルフが自動車メーカーとのタイアップで団塊向けの企画を充実するなど、各所で様々な動きが始まった。

ただ、メーカーは全体的にハイエンド志向が強いため、ボリューム層への意識が希薄でもある。高額品で利益を得なければローエンドに着手できないという事情もあるだろう。先述した新興勢力の台頭は、その間隙を縫ったものと言えそうだ。