日本独特の預託金制度を勇気と決断を持って
アクティブに改革すれば、日本のゴルフ場は必ず再生に向かう
今こそ、預託金制度改革の時 JGJA会員 田野辺 薫
出るは出るは、会社更生法や民事再生法の適用を申し出るゴルフ場が。それによって今の日本のゴルフ場業界は全く信用を失った状態で元気がない。しかし、企業の論理、経済の論理のみで処理されようとするいわば倒産ゴルフ場を、ゴルファーの論理を全面に立てて戦い、メンバーが勝利するケースが2、3見られるようになっている。こうした現状のゴルフ業界をJGJA会員の田野辺薫氏は「今こそ新しいシステムに正々堂々と転換を図る時」と主張する。そこには明日の日本のゴルフ場の姿が明確に見える。
■CLUBの原点
私は最近、楽観論者になっている。
ゴルフ場の経営者は相変わらず怯懦そのもので、預託金問題が面倒になると戦ってみることもせず、恥も外聞もなく民事再生法に駆け込んでいて、それがまるで普通の景色になりかかっている。
賢いゴルファーたちにはもっと闘志がある。成田ハイツリーの会員たちは、約25億円を拠出して、和議倒産したホームコースを、匿名組合方式という新手の戦術を編み出して、自分たちのゴルフ場にしてしまった。
神奈川県の清川カントリークラブの会員たちも、30億円を集めて、外資の雄ローン・スターと張り合っていたが、会員たちの集まり清川クラブが、禿鷹を撃退してしまったようだ。
これら二つのクラブの拠出メンバーたちは、ホームコースとは、会員自身の負担、はたらきで守り運営するものだ、という志を失っていなかったのである。
CLUB(倶楽部)の語源は、CLEAVEという語から出ていると、これは前創価大学学長小室金之助氏の説である。CLEAVEの第一義は「裂く、割る」、第二義は「団結する、固執する、忠実である」の意味がある。倶楽部の費用はメンバーが平等に割り勘で負担し、メンバーは同じ価値観で団結するというメンバーシップクラブの本来の在り方と通底していると、小室博士は解釈している。倶楽部とは、このような志によって支えられた集まりである。
成田ハイツリーや清川クラブの拠出メンバーたちは、ホームコースの危機に直面したとき、この志、この覚悟を忘れていなかったのである。それを知って私は楽観的になっている。
しかし経営者たちには覇気がない。
現在の混乱は、預託金システムが破綻したことから始まっている。預託金の殆どの金額をコース、ハウスなどの施設費に投下していて10年経って償還できる筈がないのに、入会契約(会則)に、10年据置後退会時に償還すると約束したことが、今日の経営危機の根元の原因である。
だから経営者が何よりも先に手をつけなければならない経営改善策は、会則から預託金の償還條項を廃止することだった筈である。その機会は、何回かあった。少なくとも証券を分割したとき、あるいは据置期限の延長を求めたとき
同時に償還條項の撤廃を提案すべきだったのだ。しかし一人の経営者もそうしなかった。私がそう助言すると、経営者たちは口を尖がらして「とんでもない。証券の分割、据置期限の延長を納得させるだけでも大変なのに」と首をすくめた。彼らには経営者に必要な勇気、果断さが欠けていた。
百歩妥協しても、市場で安い会員権を買って入会してくる新しい会員に対しては、償還條項の廃止を求めることができた筈だ。経営者たちはそれもしなかった。
あるいは、償還條項のない新しい会則を交付できた筈だ。しかし彼らはそれさえもしなかった。
さらに二百歩譲って、償還するにしても、それは額面金額(フェースバリュウ)ではなく市場で取引されている時価で返還する、といった償還条件の改善チャンスはあった。彼らは、私の助言にもかかわらずそうしなかった。経営者たちは怯懦の洞穴に逃げ込んで震えていたのだ。
■償還條項が廃止されるまで
昨年になって、ようやく小さな変化が現れた。新潟県下の下田城カントリー倶楽部が、第三者譲渡を受けて入会申請する人に対して、購入時の領収証を提出させ、それに見合う額面の会員権を交付することにしている。不当に高い領収証の場合は、入会を拒否する厳しさだ。これなら、入会者にも異存がないだろうし、経営側にとっても将来のリスクが少なくなる。
預託金制を修正する方法としては、最も手をつけやすいヒントとなる提案である。
確かに最終的には、償還條項を廃止することなしには、ゴルフ場の構造的な安定は期待できない。しかし現実論として、いま直ぐに預託金の全額を社団法人クラブ並みに償還義務ナシの入会金に振り替えることは不可能である。
しかし、ゴルフ場会社からの預託金償還は廃止するが、会員権市場で自由に売買し、入会時の投下資金を回収できるというシステムに転換することは、そんなに現実離れした案ではない。いまジャーナリズムで論じられている預託金の株式化、永久債化などは、そのような提案の一例である。さらにいえば、今すでに行なわれている我孫子、鷹之台、小金井など株式会員制のシステムに倣えば済むことである。但しその際、「預託金」という字句は「入会金」または「拠出金」などと書き改めることを忘れてはならない。
会員制ゴルフクラブは、その財務、運営を会員の負担で支えられている組織である。従って、多くの社団法人クラブのように、入会金は拠出金として”取り切り“になるのが理想である。しかしそれではゴルフは一部エスタブリッシュメントの遊びに止まって、今日のような大衆化はなかったであろう。
昭和30年代になって、ゴルフ場がひと握りの人たちの拠出金ではつくり得なくなったとき、その打開策として、ゴルフ大衆化に大いに働いたのが預託金制システムである。
預託金制には二つのメリットがある。10年据置後預り金の償還、そして会員権市場での値上がり益期待である。二つのバブル期待がゴルフ大普及の大きな原動力だったことは否定できない。そしていま、その二つともが危機の原因になっている。
ゴルフクラブの構造的再生を図るために私は、預託金償還條項の廃止を提案してきた。同時に会員権市場での自由な流通を主張してきた。現在、会員権市場は衰退し流通が枯渇しつつある。このまま二つの柱がともに朽ちては危機、破滅はすぐそこである。
嘗って、ゴルフ会員権は税務上、株式と同じに扱われていた。昭和40年代初頭までゴルフ会員権の売買益には税金がかからなかった。有価証券扱いだったのである。
ところが昭和51年名古屋高裁で、ゴルフ会員権の「非有価証券」判決が出た。判決理由は、「高度に流通していない」であった。
預託金償還の廃止という大手術によって、ゴルフ場を再生するには、一方で、会員権市場を昭和40年初頭のレベル、つまり有価証券扱いを受ける市場までに再生することが必要であろう。
そのためには、入会審査を廃止するなど、「高度な流通」を阻んでいるいろいろなハードルを取り除いて、会員権市場を準有価証券市場に近い水準まで充実させる必要がある。相場値に比べて不釣り合いに高い書換料もまた、高度な流通を阻むハードルである。次の章で書くが、書換料収入をあてにしないプライマリーバランス経営を実行すれば、この問題は次第に解決するはずである。
現在のゴルフ場経営破綻は、会員権相場値が暴落、額面を下回ったことから始まっている。だから経営は相場値を維持し反騰させる努力をしよう。難しくはない。魅力あるクラブをつくってメンバーの定着率を上げる。退会者が少くなる。少なければ売りモノも出ない。当然相場値が上がる。昭和30年代には、名門度はメンバーの定着率の高さで評価されていた。いまゴルフ場経営者は、書換料収入の多いことを自慢している。経営の墜落である。
■経営は経常(基本)収支中心に改める
日常の経営システムにも早急に改善を必要とすることが、沢山ある。その中から、特に緊喫な二つのことを指摘しておきたい。
経営の基本となる経常収支のシステムを改める必要がある。ゴルフ場経営のプライマリーバランス〈基本収支〉とは何か、そこから考え直してみよう。私は、会員制クラブの基本収支は、プレー収入、食堂収入などのフロント収入と年会費だけだと思う。それだけで、経常収支のバランスをとるべきだ。現在は、名義書換料収入(多いときは1億円を超える)も基本収入に入れている。だからフロント収入が少ないときは書換料を値上げしたり入会預託金を取るなど経営姿勢が安易になりやすい。書換料は本来雑収入に入れるものだ。書換料への依存が大きすぎ、しかもそれを安易に値上げするので会員権相場が圧迫され、会員の資産価値を損なっている例が少くない。反省しなければならない。
二つは、もし預託金償還條項をこれからも残すならば、バランスシートの中に、償還引当金を積んで、償還の準備、態勢があることをはっきり示す必要がある。現在のところ、良心的といわれる経営のコースでも、償還引当金を積んでいる例は一例もない。一般的には、年間に会員数の4%~5%前後の名変がある。この程度の償還請求はあるものと想定して引当金を積立てるべきである。
■メンバー新人類と年会費
ゴルフ場が基本構造から立ち直るには、経営者の哲学、経営技術が変わる必要があるのと同時に一つ同じくらいの量で、メンバー側の意識改革も求められる。
メンバーは、ゴルフクラブが何をしてくれるかを求めるのではなく、ゴルフクラブはメンバー自身が支えるものだという意識にめざめる必要がある。CLEAVEの精神だ。その兆候はある。
会員制クラブの財政を支える第一の収入は、会員たちの年会費である。
最近、関東地区には、8万円以上の年会費をとるコースが増えている。裾野CCは、2002年に5万円の年会費を6万円に上げた。さらに2005年から8万4000円に値上げすると予告している。大池文雄社長によると「殆ど反対はなかった」という。
大池氏が、裾野CC会報の別冊として年4回発行している『もぐらもち通信』の年会費をめぐる記事の中で「府中CCが年会費を8万円に引き上げた。先を越された」と書いていておもしろかった。同じ頃、鷹之台CCも8万円に値上げしている。
どうやら8万円の年会費は、水準以上のゴルフクラブと評価されるための標準金額らしい。霞ヶ関CC12万円、東京GC24万円、広野GC9万円である。
高級ゴルフクラブだけではない。民事再生法の後、外資・ローンスターの経営下に入った美浦GCでは、6月から新タイプの会員”メンバーシップ“第1次100口を募集している。入会金90万円、委託金110万円とごく普通の大衆クラブだが、年会費は12万円と異例の高額。通常の4倍である。
このように高い年会費が抵抗もなく受け入れられるようになった背景には、会員制クラブの財政は会員が支えるものだという会員意識CLEAVEの精神がよみがえりつつあると解釈できないだろうか。
会員権が安くなったことで、来場頻度の高いアクティブなメンバーが多くなっている。毎週1回、月4回来場するメンバーには月割1万円の年会費は高くない。そう考えるメンバーが多くなることで、ゴルフクラブの現実も雰囲気も変わりつつあるのではないか。
ゴルフクラブは、平均して年間4~5%の名義変更がある。2000人のクラブなら、100人が入れ替わっているわけだ。10年経てば50%、1000人のメンバー交代、新陳代謝が行われる。最近は、会員権相場が大幅に下がっているので、新陳代謝のスピードはさらに加速されている。
平成2年2月26日のバブル崩壊以来、13年経った。数字上は65%のメンバーが入れ替わったことになる。新しくメンバーとなった人たちには、①安い会員権を買って入会している、②会員権の値上がり益など考えず、プレー本位の人が100%である、③コースへの来場率が高い、などの共通の特徴がある。
言葉を換えれば、バブル期待のない、現在変わろうとしている新しいゴルフクラブへの理解が得られやすい新人類たちである。あと5年も経てば、新人類が80%にもなろう。
この傾向が年毎に進めば、償還條項の廃止など預委託金制の改革も進めやすくなる。
経営側が、合理的な経営モデルを提案し、説得する勇気を出せば、理解は得られる筈だ。
私が、「最近楽観論者になっている」というのも、それを予感するからである。
田野辺 薫(たのべかおる)
昭和36年~57年「週刊ゴルフ」「週刊アサヒゴルフ」編集長。58年ゴルフ綜合出版(株)設立。「ゴルフ会員権投資新聞」「ゴルフィスタ」創刊。著書に「小説ゴルフ名勝負物語」「ゴルフゼミルール」「松本清張の世界」など。日本文芸家協会会員。