座談会「今の日本のプレー料金は果たして適正か!?」

いくら安くなっても「値引き」のうちは適性料金とは言えない

ゴルフをしない人たちから「ゴルフは金持ちの贅沢な遊び」と
少しでも思われているうちは、ゴルファーの底辺拡大はあり得ない

出席者
塩田 正
田野辺 薫
三品 智加良
司会・土井 新吉
(敬称略・順不同)

「ゴルフをみんなのスポーツへ」という共通のスローガンのもと、ゴルフ関連15団体が足並みを揃え活動を開始している。当協会も日本のゴルフの発展を睨み、関連15団体の一員としてゴルフ場利用税撤廃のための署名運動などの活動を行っている。もちろん当協会の性格上、会員一人ひとりがマスメディアを通じた執筆活動などの中で、日本のゴルフの発展を阻害する要因や、今ゴルフ界のすべての関係者が真っ先に取り組むべきことなどを、広く世間にアピールする地道な行為が、主たる活動になるだろう。
そこで今回のJGJAジャーナルの特集では「ゴルフをみんなのスポーツへ」を実現するための具体的方策として、ゴルファーの底辺の拡大が是非とも必要ーーという見地から、特にゴルフ場をより身近な存在にするための具体策を対談形式で追求してみた。(構成・日本ゴルフジャーナリスト協会事務局)

doi土井 バブル崩壊でゴルフ場のプレー料金が随分下がっていますが、今の料金についてどう思いますか。塩田 確かに単純に比較すれば安くなってはいますが、それは以前が高過ぎた! というのが原因です。諸外国と比べればまだまだ高いと思います。平日にプレーして、食事して1万5000円とか2万円では、誰もが気軽にプレーするという訳にはいかないと思いますよ。
三品 地方では1万円で食事が付かなくてはお客が入らないという噂もあります。関東近郊、関西近郊のゴルフ場といわゆる地方のゴルフ場では、状況が違いますね。
田野辺 そこが問題だと思います。つまりゴルフ場サイドで言えば、今のディスカウント料金は、プレーヤーが来てくれる金額がいくらかという見地で決めているんです。だからバブル時代に作られたゴルフ場、つまりランニングコストが高いコースは、赤字を出してもプレーヤーを入れるかという問題に悩まされているのです。
三品 アメリカ人の友人がいるのですが、彼が日本のゴルフ場でプレーする前は、日本のプレー料金について非常に疑問に思っていたのです。しかし日本に来てプレーした後「あれだけのサービスをしてくれるなら単純に日本のゴルフ場のプレー料金は高いと言えない」と考えを一変したのです。

塩田 アメリカのパブリックコースではプレー料金の総額が20ドルから50ドルというのが珍しくありません。もちろん皆さんご存じだと思いますが、その代わり日本のゴルフコースのように、立派なクラブハウスやお風呂場などはありませんよね。つまりゴルフはスポーツであって、それなりに手入れされたコースさえあれば、後はできるだけシンプルに、お金がかからないような仕組みになっているんですよね。
土井 だからゴルフが市民に根付いている。つまりみんなのスポーツになっているんじゃないですか。もっと気楽にゴルフが楽しめる環境がないと、日本のゴルフはみんなのものにならないと思います。
田野辺 同感です。特にバブル時代に豪華なクラブハウスを持ち、至れり尽くせりのサービスがあるゴルフ場が良いコースという評価の基準が日本に出来上がってしまった。そして一般のゴルファーもその評価基準に慣らされてしまったのです。そしてそれをゴルファー以外の人達が見ていると「ゴルフは贅沢な金持ちの遊び」と思うわけですよ。これではみんなのスポーツにはなれませんよね。ゴルフはもっと健康的で気軽なスポーツだということを広くアピールできるようなコースが増えて欲しいと思います。
土井 ゴルフというのは本来自分のポケットマネーで楽しむものじゃなくちゃいけない。つまりその範囲の料金がゴルフの発展、市民レベルでの定着には必要だと思います。なのに日本では会社の経費として楽しむ人たちのゴルフ場が多すぎる。これでは絶対にいけないと思います。
塩田 だから御上に税金を取られるんですよ。あのゴルフ場利用税というのは、ゴルフくらいの贅沢な遊びをできるのだから税金を取ってもいいだろう というものだと思います。ゴルフ場利用税が撤廃されないうちは、本来の意味で日本のゴルフは適性料金にはならないと思います。だから15団体が行っているゴルフ場利用税撤廃運動は大いに意味があることと思いますが、同時に日本のゴルフ場の多くが、ポケットマネーで何度もプレーできるシステムに変わらない限りゴルフ場利用税の撤廃は難しいとも思います。つまり鶏と卵のように、どちらが先になるか、とても難しい問題ですね。それにしてもゴルフ場利用税は撤廃してもらわなくてはいけませんけどね。
三品 今もなお、日本のゴルフ場の多くが、潜在的に運営経費がかかるシステムになっています。いやそれがゴルフ場の常識だと多くの経営者が考えていることが問題だと思います。とにかくゴルフ場スタッフの人数にしても、諸外国と比べ日本は異様に多いですからね。
塩田 今年の全英オープンの開催コース、カヌスティーにかつて行ったことがありますが、その時クラブハウスには5名のスタッフしかいませんでした。あのチャンピオンシップコースがスタッフ5名で運営できるんですよ。日本も少しはそれを見習って欲しいですね。そしてこれまでかかっていた人件費分を、プレー料金の値下げという面に反映してもらいたいと強く感じます。

土井 アメリカなどでは家族で経営しているコースがたくさんありますよね。それで経営、運営できる。それがゴルフ場だと私は思っています。
三品 確かにその通りです。しかしバブル時代にまさに豪華絢爛を極めてしまったコースは、黙っていてもお金がかかる。コースを開けただけでクラブハウス内のスタッフだけに限定しても数十名のマンパワーが必要になるわけですよ。これまで話してきたことに私も全く同感ですが、すでにタップリと贅肉をかかえてしまっているコースは、それなりの工夫が必要だと思います。
田野辺 その通りですね。例えば経営主体の違う北海道の二つのゴルフ場では、たまたま隣接しているということで、ひとつのクラブハウスを共同で使っているケースが実際にあります。
また埼玉県のあるコースでは、ゴルフだけでなく、黄金週間に毎年クラブハウスでジャズフェスティバルを開催。利益金を地元学校の音楽教室の助成に当てている例もあるんです。
shioda塩田 そうですか。それなら夜景がきれいなコースなどは、レストランとして夜間営業するなど、いろいろそのコースの状況に応じた工夫があれば、ゴルファーだけにその維持費を負担させることはありませんね。もちろん今は不況の真っ只中ですから、そう言ったバブルコースもプレー料金を下げているでしょうが、何の工夫もなければ経済が上向き、再びバブルが来て、高いプレー料金を徴収することになる。いやそれを夢見ている、と言わざるを得ない。もちろんもうバブルは訪れないと思いますが、これではいつまでたっても「ゴルフがみんなのスポーツ」になることは不可能ですからね。
三品 そうですね。それに関連して言うと、日本のゴルフというのはキャディーがついて当たり前じゃないですか。もちろん最近ではセルフプレーを行うコースが増え
ていますが、その表現にしてもキャディー付きでいくら、キャディーなしでいくらというように、あくまでもキャディー付きが基本なわけですよ。しかしこれは世界的に見たら常識ではありません。ゴルフをもっと気軽に楽しむためには、キャディーという存在を考え直さなくてはいけないと私は思っています。バブル期のコースではキャディーがまさにホステスのような役割を果たしていたわけです。ゴルフというのはプレーヤーとゴルフコースさえあればできるスポーツであることを、いろいろな所でアピールしていくべきでしょうね。
土井 その意味では最近セルフプレーでゴルフを覚えた若者が増えていることは決して悪いことではないですね。でもその若者たちが本当はキャディー付きでプレーしたいのだが、お金の問題で仕方なくセルフプレーを選んでいるというのでは少し将来が暗くなる。ご指摘のように我々の会はゴルフジャーナリストの集まりですから、機会あるごとにセルフプレーがゴルフの本質であることを、執筆活動などでアピールすることも大切なことだと思います。

 ゴルフ場にもいろいろな種類のコースが存在する。そのことをもう少しアピールすることも大切じゃないですか。もちろん伝統あるいわゆる名門と呼ばれるコースには、倶楽部としても厳格なルールのもと運営されて当然でしょうし、こうしたリーダー的コースも必要です。また誰もが低料金で気軽にゴルフを楽しめるコースも絶対に必要だと思います。このようにゴルフ場と一言で言っても、多種多様なコースが存在し、そのカテゴリーの中でそれぞれ名門が存在すべきですよね。つまり「あのコースはカジュアルプレーコースとしては名門だよ」というような評価があってもいいと思います。
塩田 そうですね。名門と言えば伝統と格式。高級コースと言えば豪華絢爛のクラブハウスと相場は決まっていますからね。例えば座れば5万円という寿司屋はうまいのは当たり前。しかし同じ5万円でも味やサービスに差はある。一方、一皿100円の回転寿司でも、値段のわりにはうまいという店とそうでない店がありますよね。5万円を選ぶのか100円を選ぶのかは我々客の選択ですが、どちらのカテゴリーを選ぶにしてもその中で客として得な店を選びたいというのが人情だと思うのです。ならば諸外国のホテルのランク付けを真似て、日本のゴルフコースを星の数でランキングするシステムを作ったらどうでしょう。その方がゴルフ場サイドとしても料金設定がしやすいのではないでしょうか。
土井 それはいいですね。例えば四つ星のコースはプレー料金は高いが、至れり尽くせりのサービスがある。星一つのコースはセルフプレーでチェックイン時にプレーフィーを前払いし、昼食もカウンタースタンドでホットドッグやおにぎりなど軽食で簡単に済ます。もちろんプレー料金は1万円を大きく切る低料金という具合にですね。さらにその星の数の他に、例えば中立の機関が、一つ星のシステムを取っているコースの中でも特に優れているコースだとか、普通だとかの評価があったら、ゴルファーは嬉しいでしょうね。
田野辺 そうですね。そして日本には一つ星の優良なコースがたくさん増えて欲しいですね。そうしないとゴルファーの底辺の拡大なんて絵に描いた餅ですよ。少し前のことですが、北関東のある県でメンバー3000名でできるだけ安い募集金額を設定し、かつ運営システムもシンプルにしたコースの計画があったのですが、やはりこれまでの日本のコースの既成概念を打ち破れなくて、結局のところ駄目になってしまいました。とても残念なことですよ。
三品 預託金制度というのも日本特有のシステムですよね。もちろんこのシステムにより日本のゴルフが発展したという一面も否定できませんが、問題点も少なくないというのが現状だと思います。ゴルフの底辺を拡大するためには新しいシステムを作る必要があると思います。
塩田 最近既存の預託金システムを採用したメンバーシップコースでも見られるようになりましたが、年間メンバー制などゴルファーの負担が少なく、気軽にプレーできるシステムなどは、どんどん進めて欲しいですね。さらにメンバーの家族に対しての割引制度やジュニアに対する積極的な優遇措置なども絶対に必要だと思いますよ。

田野辺 預託金制度の歪みは大きいですよ。つまり預託金を集めてコースを造る。コースを造ってしまえば言わば預託金としてお金を借りているゴルファー(メンバー)からは高いプレーフィーを取れな
い。ならば預託金を預かっていないゴルファー(ビジター)から運営経費と利益を取ってしまおうというのが、預託金制度を採用しているゴルフ場が利益を上げるための最善の策になることは誰も否定できないと思います。もちろん預託金の返還問題で今はメンバーに気を使わなくてはならないコースも多いのですが、メンバーを大切にし過ぎると日銭という面でゴルフ場の経営が圧迫される。こう見ると、冒頭の論議に戻ってしまいますが、やはり日本のコースはランニングコストがかかり過ぎているということに行き着いてしまいますね。
三品 欧米の名門コースのようにメンバーシップを貫くコースは、メンバーがゲストとしてビジターを招待する。ゆえに支払いはすべてメンバーの口座からの引き落とし以外は認めない。またこのようなコースは運営で出た赤字分や、コースやクラブハウスの改造・改修が必要な時はメンバーがかかる費用を折半で負担するといったメンバーシップの神髄とでも言うべき運営方法を採用しています。そしてメンバーが存在せず、誰でもプレーできるパブリックコースとの中間に、先程塩田さんがおっしゃった年間メンバー制度などを持つコースが存在するというのが理想かもしれませんね。
土井 やはり様々なシステムのコースが日本に増えることが必要だということですね。特にプレーヤーが安いプレーフィーを支払ってプレーできるコースが増えること。そしてそのコースは今のように不況でプレーヤーが少ないから集客のために仕方なく値引きというスタンスで安いプレーフィーを採用しているのではなく、コース建設の前から安いプレーフィーでプレーできる工夫がされていなくてはならないということですね。そう、定価が安いコースですよ。
塩田 そうですね。こうしていろいろ論議してみると、確かに今のゴルフ場のプレー料金はバブル時代と比べれば安い。しかしそれは、安くしなければプレーヤーがこないから仕方なく値引きしているというのが現状。これでは本当の意味で日本のゴルフ場のプレーフィーが安くなったとは言えませんよね。
田野辺 とにかく預託金制度も含めて、これまでの日本のゴルフ場やゴルフの既成概念を取り去り、誰もが分かりやすい道理の通るシステムを早く採用することですね。ここでの論議でも随分出てきましたからね。
三品 そうですね。諸外国の真似をしようというのではなく、もっと欧米のいろいろなランクのゴルフ場のことを調べ、それを日本流にアレンジすれば、それぞれのゴルフ場の事情によって、ゴルファーにとってもゴルフ場にとっても歓迎されるシステムを作り上げることができると思います。
土井 とにかく景気が回復したらまた料金が値上げされるという今のシステムでは、ゴルファーの底辺の拡大どころか、ゴルフは金持ちのお遊びという評価を拭いさることはないということです。もちろんこれ自体長い目で見ればゴルフ場にとっても間違いなくマイナスだと思います。これからもJGJAとしては、先進的に新たな模索を行っているゴルフ場などを取材し、この紙面でも取り上げて行きたいと思います。もちろん会員の皆様にもそのへんの情報をいただければと思います。本日はどうもありがとうございました。