「グリーンはパットだけでなくショットをテストするための場所」が米ツアーの常識  ~菅野徳雄~

日本ツアーが観るプロスポーツとして魅力を持つ日は来るのか日本のトーナメントを変えたい!
 日本でもアメリカツアーに本気で挑戦する選手が現れてきた。また衛星放送の普及で、一般のゴルフファンでも容易に欧米のゴルフトーナメントをテレビ観戦することができる環境が整った。そこで囁かれだしたのは「日本のトーナメントは何故か面白くない」ということである。海外の試合を経験した選手からも、そして欧米ツアーをテレビ観戦するファンからも同じような声が発せられる。そこで日本のツアーが何故面白くないのか。そしてどうすれば魅力あるトーナメントになるのか。主に戦いの舞台となるコースにターゲットを当て、5名の論客に健筆を振るってもらった。


 

「アベレージゴルファーには攻めやすく、エキスパートにとっては試練に満ちたコース」。
マスターズトーナメントの創始者ボビー・ジョーンズは開催コースであるオーガスタナショナルゴルフクラブについてこう語っている。
フェアウエイの幅は平均40から50ヤード近くもあり、長い間、ラフもほとんどなかった。だからアベレージゴルファーでもさほどプレッシャーを覚えることなく回ることができた。
アベレージゴルファーの翌日プレーした感想を言うと、試合と同じティーから打ってもボギープレーならさほど難しくない。狭い土地に無理矢理18ホールを押し込んだ日本のトリッキーな山岳コースよりもはるかにのびのびとプレーできて、スコアもまとまる。
だけど、いざトーナメントが始まると、世界の名手たち(マスターズ)には「試練に満ちたゴルフ」が待ち受けている。見た目は広くてもバーディを取るには点と点をつないでいかなければならないので、フェアウエイが40ヤード以上あっても実際に使える幅は半分以下になる。攻略ルートをはずれるとフェアウエイからでもグリーンをとらえるのは難しくなり、グリーンをはずすと、どんなことをしても寄らないところがある。見た目は広くても、ティショットから一点を狙っていかなければならないから高度な技術が見られ、ドラマが生まれ、試合も盛り上がるのである。
米ツアーの開催コースはフェアウエイ自体は結構広い。全米オープンだって、日本でいわれているほど極端にフェアウエイを絞っているわけではない。だけどもバーディチャンスにつけるにはフェアウエイの左右どちらかに打ち分けなければならないように初めからコースが作られている。

近年、道具(クラブ)が急速に進化したことで飛距離が大幅に伸び、オーガスタナショナルGCの 番とか 番のパー5はアイアンで楽々2オン出来るようになり、パー4もショートアイアンを使えるホールが多くなった。そのためマスターズも全米オープン並みにグリーンを固くするようになり、ついにはラフも伸ばした。全米オープンと違ってボールが半分ぐらい見えるラフだが、それでもグリーンが固いのでボールは止まらず、グリーンを出てしまう。
最近、米ツアーでは全般的にグリーンを固くする傾向にある。昔のように、ピンの奥に落としたボールがバックスピンで3、4メートルも戻るといった光景はあまり見られない。
グリーンが柔らかければラフから打ったボールでも止まる。そうなるとフェアウエイの好位置から打ったボールと結果はたいして変わらないというのでグリーンを固くし、フェアウエイから打ったボールだけが止まるようにした。グリーンを固くすることによってショットに差をつけようというわけだ。
ラフから打ったボールは止まらないと分かればみんな何とかフェアウエイをキープしようとする。飛ばしてラフに入れるより飛距離を多少犠牲にしてもいいからフェアウエイに打っておかないとグリーンをとらえることはできないということになれば、みんな必死になってショットの精度を高めようとする。
グリーンはパットだけでなくショットをテストするための場所でもあるということ。だけども日本の試合はラフが浅く、グリーンも柔らかいコースが多い。だからラフに入れてもいいから飛ばしておいて短いクラブを使った方が有利だというコースが多い。これではショットを厳正にテストすることはできない。
フェアウエイからでもラフからでも結果がたいして変わらないというのでは、飛ばし屋が有利ということになり、ショットの正確さはあまり関係なくなってしまう。パットだけで勝負が決まるということになったら、見ていてもつまらない試合になってしまう。
ただしグリーンが固すぎると今度はフェアウエイからナイスショットしても止まらないのでラフからのショットと大差がなくなる。フェアウエイからでも手前から攻めなければならないのでピンを狙う攻撃的なゴルフは見られなくなり、これまたつまらない試合になる。