タイガー・ウッズの基礎を作った男  ジョン・アンセルモにインタビュー

タイガー・ウッズを10歳から18歳まで指導し、「タイガー・ウッズの基礎を作った男」といわれるジョン・アンセルモ(米)が来日した。ウッズを全米ジュニア3回、世界ジュニア6回優勝、そして全米アマ3連覇などに導き、79歳の今なお現役のティーチングプロとしてジュニアゴルファーを専門に育てている。都内で行われた講演に先立ち、タイガー・ウッズのこと、ジュニア育成について聞いてみた。(聞き手・菅野徳雄)
「タイガー・ウッズが10歳のとき、将来のことを考えてアップライトなスイングに修正した」

││10歳のときからタイガー・ウッズを指導してきたそうだけど、最初に教えたことは?
ジョン・アンセルモ(以下アンセルモ) スイングがフラットだったので、少しアップライトに修正した。子どものうちはフラットでも問題はないのだが、どんどん体が大きくなってパワーもついていくので、それに合わせてスイングプレーンをアップライトにした。
「飛ばすことを教えてはいけない。タイガーにもヒットしないでスイングすることを教えた」
││飛距離アップのために何か特別なことは?
アンセルモ 「日本人は飛距離に特別の関心を持っているようだが、大事なのはヒットしないでスイングすること。飛ばすことを考えるとスイングしないでヒットしようとする。だからタイガーにも飛ばすことは教えなかった。
││曲がりを気にしないでまず飛ばすことから始め、コントロールは後からでも遅くないと教える人もいる。
アンセルモ 飛ばそうとすると力を入れて強くヒットしようとするので、よいスイングは育たない。ゴルフはターゲット・ゲームであるから、ドライバーでもターゲット意識を強く持ってスイングすること。子どもたちには無理のないスイングで届く距離にターゲットを設定し、ターゲットに反応して体が自然に動くようにする。ラウンドするときも、あまり距離のないコースでプレーすることが大事で、そうすれば強く叩こうとしないでクラブを振ることができるようになる。ヒットしないでスイングしたほうが、ヘッドスピードは出るのだから、飛ばそうとしなくても飛ぶようになる。
「手でヒットしないで背骨を軸にして背中を捻転してスイングしたほうが正確に遠くへ飛ぶ」

││「スイング」と「ヒット」の違いは?
アンセルモ 「手でボールをバシッとやるのがヒット。これではヘッドスピードが出ないので思ったほど飛ばない。背中をねじって大きな筋肉を使ってクラブを振るのがスイング。手でヒットするより、背中でスイングするほうがヘッドはよく振れるのでボールは正確に飛んでいく。
││背中で振る? 日本では「バックスイングで肩を回せ」「ダウンスイングは腰から」といわれている。
アンセルモ 「バックボーン(背骨)がスイングのセンターであるから、背中をねじればセンターも動かず、結果的にはショルダー(肩)もヒップ(腰)もターンするけども、「ショルダーターン」とか「ヒップターン」という動作はない。ショルダーとかヒップとか体の外側をターンしようとするのではなく、体の中心に近いところ、背中を捻転すると軸を動かさずにスイングできる。

「体重移動は意識しない。両ひざでバランスをとって体のセンターを動かさずに背中を捻転する」

││タイガーはバックスイングでもフォロースルーでも確かに背中がよくねじれている。
アンセルモ タイガーのトップオブスイングを見ると、背中の左サイドがよく伸びて、シャツに斜めのシワが沢山できていることでも背中がよくねじれているのが分かる。
││タイガーは下半身をそんなに使っているようには見えない。
アンセルモ 両ひざでバランスをとって背中を捻転するのだから、下半身はあまり動かさないほうがよい。
││背中の捻転と体重移動の関係は?
アンセルモ バックスイングで右足に乗せた体重をフォワードスイング(ダウンスイングからフォロースルー)で左足に乗せていくと考えられているようだが、ゴルフスイングにそういう動作はない。タイガーのスイングを見ても分かるように、両ひざでバランスをとって背中を捻転している。バックスイングで背中を右に捻転すると右足に重心を感じ、フォワードスイングで左に背中を捻転すると左足に重心を感じるのであって、バックスイングで右、フォワードスイングで左と体重移動しているわけではない。
「両ひざの間隔をバックスイングでもダウンスイングでもあまり変えずに背中でスイングする」

││タイガーはものすごいスピードで振り切っているようでもフィニッシュがピタリと決まる。バランスが崩れることはまずない。
アンセルモ タイガーは、構えた時の両ひざの間隔がバックスイングでもダウンスイングでもほとんど変わっていない。スイングした後、体がターンすれば右足がヒールアップして右ひざは左ひざに寄っていく。しかし、バックスイングとダウンスイングでは両ひざの間隔を保っている。600ヤード近いパー5のホールを2オンさせるときでもバランスが崩れないのはこのように両ひざでバランスをとってセンターを動かさずに背中でスイングしているからだ。
││子どもたちの体力をつけるにはゴルフ以外のスポーツをやった方がよいとよくいわれるけど、アンセルモさんの考えは?
アンセルモ 野球とかテニスとか、打つ球技はやらない方がよい。何故ならそれでヒットする癖をつけるとゴルフのときもスイングしないでヒットしてしまうから。

││どうもありがとうございます。