JGJA座談会 「日本のゴルフ場は何処へ行く」 先行き不透明な日本のゴルフ場に論客4名が提言

潜在ゴルフ人口を掘り起こし、ゴルファーが楽しめる環境を目的別に整えなくてはならない
長引く不況の中、倒産を余儀なくされるゴルフコースが後を絶たない。経営難、メンバーとの確執、様々な問題を抱える中、民事再生法をはじめとする救済処置がとられ、各ゴルフコースはプレー料金の値引きを試みるも、コースに足を運ぶゴルファーの数は減少の一途をたどっている――
そこで今回のJGJAジャーナルの特集では、ゴルフ場の景気回復を実現するための具体的な方策を対談形式で追求。21世紀に在るべきゴルフコースの理想像を模索する。
(構成・日本ゴルフジャーナリスト協会事務局)

出席者
伊豆ゴルフ倶楽部 代表取締役社長 有木賢操
(株)裾野カンツリー倶楽部 代表取締役社長 大池文雄
JGJA会員ゴルフ総合出版(株) 代表取締役 田野辺薫
司会・JGJA副会長 宮崎紘一
敬称略・順不同

メンバーシップコースを顕著に階層的にし、本来のクラブライフを再構築する

田野辺 ゴルフ場は現在様々な問題を抱えていますが、これを解決するにはその場しのぎではいけないと思います。先行きをどうするかを前提に一つずつ解決していくべきですね。現在、日本のゴルフ界が低迷しているのは、みんなが同じタイプのゴルフ場を造りすぎたためではないでしょうか。再生するためにはメンバーシップコースが、もっと顕著に「階層的」になる必要があると私は思います。
まずAタイプは、「自分が所属するクラブのためになにができるかを考え、それを実行する覚悟を持った人達」で構成されるメンバーシップ。いうまでもなく一定の経済力が必要です。次にBタイプは「ある程度質の高いコースで、優先的にプレーする権利を持っていたい」というメンバーで構成されるクラブ。その下にCタイプの「コースの善し悪しは問わない。とにかく安ければいい」というメンバーが続きます。
最低限この三つに分類しなくてはいけないでしょう。現在の会員の中には、Cタイプであるにもかかわらず、あたかも「自分はAタイプのメンバーだ」という錯覚をおこしている人も少なくありません。ゴルフ場が変わっていくには、メンバーの意識改革が必要ですね。それぞれの目的に合わせた環境を整えることで、ゴルフ場に足を運ぶ人も増加していくはずです。経営者の経営責任と、会員募集時にいいことばかりをアピールしたコース側の責任は小さくありませんが、やはりメンバーの意識改革が原点にあると思います。皆さんはどうお考えですか。
大池 同感です。ゴルフクラブの価値が、会員権の価格によって決めらる時代が続きましたからね。コースの内容は無視されつつあります。当コースは創立当初のメンバーが、すでに半分以上入れ替わりました。つまり、コースの内容を見ずに「会員権が高いから良いゴルフ場だろう」、「将来はもっと高くなるだろう」という意識を持った会員が多かったのです。
逆に、今残っているメンバーは本当に当クラブ、あるいはゴルフが好きな人達ばかりですからね。こういうメンバーを中心としてクラブを築きあげていくといいのではないでしょうか。これからは、メンバーが「自分達が遊びやすい、プレーしやすいゴルフ場にしていくんだ」という意識を高めていかなくてはいけないと思います。当然、ゴルフ場側もメンバーが望むようなゴルフクラブを築き、経営する努力をしなくてはいけませんけど。

有木 一方で、メンバーに意識改革を要求するなら、ある程度メンバーに主導権を委ねるべきですよね。オーナーをはじめとする経営陣は、クラブ創立当時からいるメンバーにしっかりと情報公開をしながら、裸にならなければいけない。そこから主張しなければこの問題は解決しないのではないでしょうか。自分達が権利を握っておいて叫んでも、メンバーの耳には届かないでしょう。
田野辺 そうですね。経営する立場の人間は、要求するからにはそれなりの覚悟を決めなくてはいけません。しかし、全てのゴルフ場を画一的に考えるのもどうでしょうか。個々のクラブが自分達の個性に合わせた経営をしていかないと。
有木 イギリスのように一つのコースを複数のゴルフクラブが共有するというのも方法です。セント・アンドリュースもカーヌスティーも複数のゴルフクラブで使用していますから。
大池 共有とまではいきませんが、当ゴルフクラブでは、「クラブの中にクラブ」が生まれています。それは、裾野カンツリー倶楽部という舞台、雰囲気を利用して自分達のクラブライフを楽しむという趣向でなりたっているグループのことです。例えば、毎週月曜日にコンペをやろうと呼びかけて集まるグループや、同世代の女性達で結成されているものもあります。この「クラブ内クラブ」は増加傾向にありますね。私共としましては、こういうクラブライフをぜひともバックアップしていきたいです。
田野辺 そうですね。メンバーシップのコースにおいて「クラブライフ」は非常に重要なことです。ですから、クラブライフを充実させるために、メンバーのためのイベントをもっと数多くこなすべきだと思います。例えば、年に一回でもいいからメンバーのためのパーティーを催す。昭和30年代のゴルフ場はみんな楽しさを追求しながらそういうことをやってきました。しかし、今はそれをやるゴルフ場が非常に減少しています。
宮崎 ゴルフ場のクラブハウスをもっと幅広く利用してみてはどうでしょうか。
有木 お風呂やレストラン等を活用するケースは耳にします。
田野辺 簡単そうでいて、それはなかなか難しいですね。やはりゴルフ場ですから、レストランを開放するにしても大衆食堂みたいになるのは当然避けなければいけません。何をやるかという選別が必要です。
有木 当クラブでも、困ったことにレストランが大衆化しつつあります。メンバーが連れてくるゲストの中には、大声でおしゃべりをする人もいるため、ゴルフ場の雰囲気がこわれてしまいます。限度を越えて一般の方に開放してしまうのもどうでしょうか。この点もメンバーとの兼ね合いが大切な要素になりますね。
大池 来場者がプレー終了後に楽しめるような施設があればいいなとは思います。例えば、「今日は一杯飲んでいこう」といったときのためのスナックですとか。
有木 私もそう思います。プレー後にゆっくりしたいというお客様も多いですよね。私の所には宿泊施設がありますので、「遅くなったから一泊して翌朝帰ろう」という人もいます。実際に他の来場者からもそのような設備をもっと充実させて欲しいと言う声があがっています。
田野辺 そういうもの一つひとつがクラブライフを作り上げる要素なのでしょうね。メンバーの結束はそういう所から始まるのだと思います。

メンバーの結束と集客システムの構築が来場者の増加に結びつく

有木 設備や環境を整えていくことで、メンバーの満足度はぐっと上がってくる。そして、メンバーズクラブの中に新しいメンバーズクラブが誕生する。
今はゴルフ場に自分の仲間を連れてこよう、家族を連れてこようという時代です。そこから仲間同志、家族同志のつきあいが始まり、新しい人間関係やクラブライフが生まれていきます。
大池 米国・ワシントン州の方にある「バーニングツリー・クラブ」。あそこは閉鎖的なクラブなのですが、日曜日の朝に「ブレックファースト・フォアサム」というのを実施しています。到着順に一つの組になって朝食を一緒にとり、そのままコースに出ていくのだそうです。そうやってメンバー同志の関係を深めていくのも良い考えですよね。
宮崎 ゴルフ場業界を活性化させるには今話し合ってきたように、メンバーの来場を増やすことが不可欠です。しかし、ゴルファーを増やし、ゴルフ界の輪を広げるということは、メンバーだけではなくて、メンバーがビジターを連れてきやすいようなシステムの構築が必要なのではないでしょうか。外国では一般ビジターとは別に「ゲストフィー」というのが設定されていますよね。
有木 当クラブではその政策を採用させて頂いています。ただしゲストフィーを設定するためには、「メンバーの紹介者以外は、入れない」ということを強くうたう必要があります。無論、ゲストフィーはビジターフィーよりも安いので、ゲストと一般ビジターを明確に区別するためにも、線引きはしっかりとしなくてはいけません。
大池 私どもでは、登録家族制度というものをとらせて頂いてます。メンバー1人につき、親子、兄弟、子供の中から2人まで選べるのですが、これはビジターフィーの半額で設定しています。現在は各コースともビジターが集客の基盤となりつつあるので、様々な工夫を凝らしているようですね。

ジュニアに焦点が絞られている眼を、シニアに向ける努力をしてもらいたい

田野辺 最近はジュニアに焦点が絞られていますが、逆にシニアを集客の基盤にするのも一つの術だと思います。ジュニアの問題にしても、その背後にはどこかジュニアをビジターの一人として考え、「お金を儲けよう」という意図が見え隠れしています。将来のゴルフ人口増加を望むなら、ジュニアは根本的に無料にすべきだと思いますよ。1ラウンドとまではいかなくても、3ホールだけでもいいので無料で開放すべきです。一方、シニアのプレーフィーだって3000円くらいに設定してもいいのではないでしょうか。シニアがジュニアを連れてくる。そこでゴルフのマナーやルール、そして楽しさを教える。こうなると理想的ですよね。そうしないと、ゴルフ人口はなかなか増加しないと思います。
アメリカのプレーフィーがなぜ安いのかというと、ゴルフ以外のレジャースポーツとの兼ね合いで料金を抑えているからだと思います。他のレジャースポーツが安いからアメリカのゴルフも安い。日本だってこうした考え方は必要ですね。安くする努力を怠ってはいけないと思います。
しかし、日本のゴルフ場の全部を低料金にしなさいということではありません。ですから前述のようにゴルフ場を階層的にすべきだと思うのです。
有木 私も同感です。将来のゴルフ人口を増加させるための土壌を作らなくてはいけない。シニアに対しても同じです。
田野辺 ゴルフ場は、シニアゴルファーの健康まで考慮した新しいシステムを構築すべきではないでしょうか。シニアが気軽に足を運べるような環境をゴルフ場が整えなくてはいけないと思います。
宮崎 私の知っているシニアゴルファーからは、シニアサービスを導入しているゴルフ場の話をよく聞きます。やはり話題にもなりますし、実際にシニアの方も多く足を運んでいますよ。そこのゴルフ場は今までその手のサービスを実施していなかったのですが、不況対策ということで始めました。それが今度は口コミで広まり、仲間が徐々に集まってきているそうです。
有木 この問題に関しては、一ゴルフ場単位で考えていても始まりません。やるからには各地方の事業者協会が働きかけて、全体で実行すべきだと思います。ジュニアの問題に関してもそうです。今までのゴルフ場は支配人まかせで、オーナーが表にでてこないでふんぞりかえっていた。オーナーの中には、「ゴルフ場は金儲けの手段だ」くらいにしか考えていない人も少なくないはずです。意識が非常に低いですね。そのためにはやっぱり事業者協会が取り上げないとだめだと思います。
宮崎 大きな組織が動けば、それに同意して各ゴルフ場も動きやすくなるでしょうに。

証券市場と同様に、ゴルフ会員権市場も整理すれば安定する

有木 国の方針も顔をだしてきてますよね。しかし、政府はもっと明確にゴルフ場に対する会員問題、経営者問題などを打ち出すべきではないでしょうか。
田野辺 国の方針はゴルフ場のことを考えて行っているわけではありませんからね。ゴルフ場に多額のお金を貸している金融機関のことを考慮して政策を打ち出しています。
有木 金融機関にばかり目を配り救済をしていったら、今度はゴルフ場が危なくなった。それで慌てて民事再生法をつくったんですよ。中小企業の倒産を助けようとして助け船を出したのはわかりますけど、それではゴルフ場はどうすればいいのかという問題になりますね。「売れないゴルフ場は原野に戻す」という方針は納得できません。
宮崎 川崎国際生田緑地ゴルフ場の例はその全く反対です。あそこは当初、公園にしようという案があったのですが、ゴルフ場にした方が実際お金が入るということで、パブリックのコースをつくったそうです。
田野辺 利用税にしてもそうですが、「廃止」を要求する以前にゴルフ界がやらなくてはいけないことはたくさんあると思います。例えばゴルフ用品。アメリカではルール違反に抵触し使用できないドライバーも、日本の店頭には平気で並んでいます。スポーツは万国共通のルールがありはじめて成り立つものですよね。極論を言うと、日本のゴルフはその時点で「スポーツではない」という見方ができます。その事実がありながら、利用税廃止の理由の第一に挙げられるのが「日本のスポーツの中でゴルフだけ税金をとるのはおかしい」というものです。少し矛盾していますよね。
有木 結局のところ私は、預託金制度が破壊されなくてはいけないと考えます。本来ゴルフ場は終身会員制であるべきです。生涯会員としてやって下さいということをもっと唱えなくてはならないのではないでしょうか。
もう一つは、会員権市場をきちんとテコ入れしないといけませんね。ゴルフ場が会員権市場を自分達のために育てていかなくてはいけないでしょう。証券市場のように整理することでゴルフ場も安定し、会員も余分な戦いをしなくて済みます。現在ゴルフ場とメンバーの間で起こるもめごとは、いわば親子ゲンカみたいなものですからね。

ゴルファーと直に触れあえる支配人の存在がゴルフ場の要

田野辺 現在はビジターのプレー料金が安くなる一方ですね。どんどんメンバーフィーに近づいてきています。結局、現在のメンバーコースには「メンバーになったらビジターとこんなに違うよ」といったメリットが少ないのだと思います。売り物が不足しているとでもいいましょうか。漠然とゴルフコースを営んでいるという雰囲気ですね。
宮崎 先ほど挙がった「クラブライフ」以外に、メンバーとしての魅力はどのようなものがあるでしょう。皆さんはどうお考えですか?
田野辺 要するに「ゴルフをやるだけじゃない」というのがメンバーの魅力です。日本にはクラブ社会が根付いていないので、このクラブ社会を実感できるようなゴルフクラブをもっとつくらなくてはいけないと思います。
宮崎 クラブ社会とは具体的にはどのようなものですか。
田野辺 言葉でいくら説明しても理解できないものだと思います。実際に入ってみないとわからないでしょう。「ひとつ屋根の下」で過ごすメンバー同志のつながりは、肌で感じ合わなければわからないことだと思います。「形」は言えるけど、その「中身」までは説明できない。それがクラブ社会です。
宮崎 現在よく耳にするメンバーの声で「年会費が高い」という言葉には、「メンバーとしての魅力がない。何もしてくれないのに年会費だけは取るのか」というニュアンスが含まれているのだと思います。
有木 そうかもしれません。当然ゴルフ場側も努力しなくてはいけないのですが、一方で会員一人ひとりが自分達の手でクラブ社会を築く努力をしなくてはなにも始まらないと思います。具体的に言うと、「裾野カンツリー倶楽部が大好きだ」というグループがいて、その人達がクラブ社会を築いていくんですよ。
宮崎 そうなると「全面的にゴルフ場に頼ろう」とするメンバーの意識改革も必要ですね。
田野辺 現在は、会社の社長が事実上そのコースの支配人を兼任していますよね。昔の日本には、各所に「名物支配人」というのがいたんですよ。オーナーがでてこないで、その「名物支配人」がゴルフ場を取り仕切る。経営者と来場者の中間にたち、物事をすすめていく。そういう環境をつくらないといけないと思います。メンバーの前になかなか姿を見せないオーナーよりも、直にメンバーと触れあえる支配人の存在が大切だと思います。
大池 支配人に限りませんが、やはりゴルフ場で努力する中心人物がいなくてはいけませんね。
有木 極論を言ってしまうと、その中心人物は支配人格では勤められないかもしれませんね。なぜなら、預託金問題を含めた会員の意見のレベルが年々高くなってきています。昔はサービスやコースメンテナンスの善し悪しが会員の意見の多くを占めていましたが、今は預託金を含めた質の高い意見が提出されます。しかし、現在の支配人はゴルフを知らなすぎます。その問題に的確に対応し、打破するだけの知識、手腕を備えた支配人は非常に少なくなってきていると思います。

各地域の潜在ゴルフ人口を掘り起こすには、誰かがアクションを起こさなくてはならない

宮崎 ゴルフ場の来場者、ゴルフ人口を増やすには何をすべきだとみなさんはお考えですか。経営者という立場ではなく、客観的な立場で意見をお聞かせ下さい。
有木 今はプレー料金を安くするしかないと思います。値引き合戦を承知の上でやっていく運営に切り換えざるを得ない。苦しい時代ですね。仮にコースをリニューアルするといっても、まずその費用が生まれません。
大池 今の時代、ゴルフ場の経営者の意見は「値段が商品」というところに落ち着いています。プレー料金の安さだけを追求する今のゴルファーの状況は異常といっても過言ではないと思います。
宮崎 すなわち経営努力、思想などは重要なファクターではないということですか?
有木 無論、プレー料金の値引きもその経営努力があって初めてできることです。最低限リストラを敢行できる合理性がなければできないことでしょう。むやみやたらに値段を下げればいいというものではないですから。料金を下げながらも運営できる体制を作っていくことが必要です。人員を削減したり、給料を下げたりと多くの犠牲をはらわなければなりません。それともう一つ。我々ゴルフ場側の人間が、メンバーシップの誇りを忘れてはいけないということですね。現実はなかなかうまくいきませんが、精神を忘れてはいけません。
田野辺 ゴルフ場ばかりが増えていますけど、各地域の潜在ゴルフ人口を掘り起こさなければいけない。それに伴い、各地域の指導者ももっと増やさなくてはなりませんね。沖縄からなぜあれだけ有能なジュニアゴルファーがでてくるかというと、地元で指導者が先頭にたち、一生懸命やっているからに他なりません。
いつの時代も、新しいことを始めるには、多大なリスクがあるようなことにも積極的に挑戦しなくてはなりません。ゴルフ場の景気を回復させる「革命」を起こすにも、誰か先駆者が出現しなくてはなりません。
宮崎 様子をうかがっている部分もありますよね。誰かが実行するのを待ち、それで無事を確認してから橋を渡り始めるというか。各ゴルフ場が経営スタンス、コンセプトを明確にし、何ができるかを考えて、できる範囲のことを今すぐにでもやりはじめなくてはいけないと思います。
田野辺 私達がやらなくてはいけないのは、1930年の大恐慌のときのアメリカがとった政策です。国が積極的にパブリックコースを多くつくりピンチを乗り越えたと聞きます。その数字を具体的に調べ、参考にすることで不況解決の糸口が見つかると思います。すでに悠長なことはいってられない段階に差しかかっていますので、関係各位協力し合っていきましょう。
宮崎 今日はどうもありがとうございました。