「日本の男子選手は何故メジャーに勝てないのか!?」。これまであちらこちらで論議されてきたことであるが、その多くはプロゴルファー批判の色が濃いものであった。もちろん、当事者である選手の努力不足、研究不足は指摘されて当然ではあるが、いくら批判が繰り返されても、1900年代に日本人男子選手のメジャーチャンピオンは生まれなかった。おりしも、このところ若手選手を中心にアメリカツアーに挑戦したり、全英、全米オープンにトライするなど海外を目指すプレーヤーが増えている。そこでJGJA流に「何故日本の男子選手はメジャーに勝てないのか」││メジャーに勝つためにはどうすれば良いのかという建設的な意見をそれぞれの分野の論客にご執筆願った。
アジアの選手が日本ツアーに来るごとく日本人もどんどん外に出る必要がある
ジェフ山口氏
これだけゴルフが世界的なスポーツになってきているのにどうして日本人は世界で勝てないのだろう? 私は16年間米国に住み、ゴルフ界の中に身を置いてきましたが、日本選手が勝てないわけはないと思っている1人です。日本のトッププレーヤーがアメリカに行けばドライバーは飛ぶ部類に入る。ショットの技術もそう大きく見劣りするわけではない。それなのに米ツアーで勝ったのは、いまだにハワイアンオープンでの青木功プロ1人というのは信じ難い現実です。
たしかに日本人にとって世界の壁は厚いのですが、では、何故?となるといくつかの問題点を挙げることはできます。私の立場からいわしてもらえば、まず日本はプロテストというものに標準を合わせ過ぎます。そのために球数を打って自分のスイングを作り、センスのあるものがプロテストの壁を突破します。1度テストに受かるともう生涯″プロゴルファー″という肩書きは消えない。自分の技術に関しての工夫をこらさなくなる。日本にも新ツアー(日本ゴルフツアー機構)が誕生してようやくシステムが変わろうとしていますが、まだまだツアーテストに受かったら推薦で何試合かは出られてぬるま湯につかってしまう。1年1年が勝負の欧米に比べて、競争する人がいなくなるのが上達を妨げていました。
ゴルフほど自分が持っている感覚と実際に起きていることに違いがあるスポーツはありません。自分でこうやって、と思ってもそうなっていない。またそれを球筋だけで判断するのは非常に危険です。日本のインストラクターが悪いとはいいたくありませんが、米国などに比べると個人に合わせてしまう指導者が多い。傷口にバンソウコウを張るだけで根本から直していない。自分の感覚だけをそのまま伝えるだけなら誰にだってできます。ビデオを使って悪いところの徹底究明を行い、必要なら時間がかかってもメスを入れるような指導をするべきでしょう。指導者がもっと勉強し、プロを教えるためにもいいコーチが生まれなくてはなりません。
いま、世界のゴルフは″チーム戦″になってきています。つまり、プレーヤー、スイングコーチ、キャディー、メンタル面などのカウンセラーとこの4人1組のチームで戦う時代です。プレーヤー以外の3つのことはすべて委託できる。スイングは自分のクセや悪いところを知り尽くしているスイングコーチに見てもらう。コースのことや距離、グリーンなどは信頼しているキャディーに任せる。精神的に悩んだときは女房なりカウンセラーに打ち明けて相談する。そうすれば自分はプレーに集中するだけでいい。それをすべて自分だけでやろうとする多くの日本選手は無理があります。欧米では少なくともいいツアープレーヤーはみんなこのチームを持っています。女房をツアーに同行させるのもこれの一環です。
技術面からいえば、日本選手は米ツアーに行っても、もう少しアンダーパーが出てもいいと思います。予選カットラインばかりを計算しないでもっと思い切ったことをしてほしい。アメリカの選手はみんなそんな気持ちで初日からやっています。もっともゴルフになじむときの環境の違いがそうさせるのでしょうか。日本のゴルファーはとりあえず練習場の正方形のマットの上でひたすらフルスイングすることからゴルフを始めます。飛ばすことばかりです。向こうのジュニアたちは近くのゴルフ場へ行ってパターや寄せの″遊び″から入っていく。あの木の左から回して、あのマウンドへ落とすショットを賭けようとか、あの小屋の屋根越しにグリーンを乗せっこしようとか、それがゴルフの始まりです。大きな体をして彼らは早くから小技や曲打ちを習得している。技術のいい悪いではなく、とにかく身についているのです。
ゴルフはこうでなくてはならないと考えますが、日本のジュニアたちも最近は変わってきました。将来は楽しみです。それともう1つは、海外で日本選手がダメなのは順応性が乏しいことです。せっかくメジャーの貴重な枠をもらっても、ほんの僅か前に出掛けていってせいぜい2、3試合やってメジャーに臨むというのはどだい無理だと思う。これでは失礼だとも思いますね。もう少し長居をしてメジャーに挑戦してもらいたい。必ず違ったものが出てきます。また、いまアジアの選手が日本ツアーに押しかけているような感じで日本人が米ツアーにどんどん乗り込んでいって欲しい。米ツアーは日本の上位の選手には、Qスクールで1番難しい1次、2次を免除して3次からでいいといってくれているのです。トライしなくてはもったいないと思いますね。
〈プロフィール〉
ジェフ山口(ジェフ・やまぐち)
ゴルフインストラクター。高校時代に渡米、ミニツアーを転戦中にデビッド・レッドベター氏と出会い5年間師事。日本人でただ1人の公認インストラクターとなる。在米16年。現在は独立して群馬県安中市のプレスCCで「ジェフ山口ゴルフアカデミー」を設立、ビギナーからプロまで指導にあたっている。東京都出身、36歳。