JGJAセミナー「変わりゆくゴルフ練習場 ~現状と未来」実施

日本ゴルフジャーナリスト協会で(JGJA)は3月10日、「ジャパンゴルフフェア2023」会場のパシフィコ横浜アネックスホールで「変わりゆくゴルフ練習場 ~現状と未来」をテーマにJGJAセミナーを実施した。

昨今、神宮外苑ゴルフ練習場、昭和の森ゴルフ練習場など屋外の大型練習場が閉場するなど、コロナ禍でゴルフ人口が増加傾向にある中で練習場を取り巻く環境は厳しくなってきている。一方で、都市部を中心にインドアゴルフ練習場が増加。こうした現状をパネリストが自身の経験などを踏まえて解説。来場、WEB参加を含めて約70人が参加し、質疑応答なども行った

登壇したパネリストは馬込ゴルフガーデン代表取締役社長の大竹章裕氏、元昭和の森カジュアルゴルフスクール・マネージャー兼レッスンコーチで現honobo Golfレッスンコーチの折田幸久氏、多田ハイグリーンゴルフ代表取締役社長の野原和憲氏、スポーツ庁審議官の星野芳隆氏(順不同)。司会はJGJA会長の小川朗が務めた。

大竹氏は実家が東京・大田区で1973年からゴルフ練習場を経営。大竹氏は3代目に当たる。練習場は28打席、50ヤードほどの屋外練習場だったが、今年1月に閉場した。

「祖父が『地域のお庭代わりに』と、畑を練習場にした。私は1993年に入社した当時は常連さんらがいて雰囲気になじめませんでした。バブルがはじけて廃業も考えたのですが、私は『(これからの)ターゲットは33歳の女性だ』といいました。誰も賛成してくれなかった(笑い)」と、女性ゴルファーの目をつけたという。建物のインテリアも古材を使うなどカフェのような雰囲気にした。2003年には「目がちかちかする」と常連には不評だったが、室内の装飾もカラフルに塗り替え、スクール生400人を抱えるなど、見事に立て直した。その後もスーパーマーケットとの連携や幼児教育施設、家庭菜園などを造り、ゴルフ以外のものを盛り込んで「ゴルフビジネスの効率が上がるようにしました。練習場はほおっておくとお年寄りの園になって、若い人や女性が来づらくなる。若い人が出入りすると、お年寄りも元気になる。エネルギーの循環のルートをつくりました」という。

しかし「2年前に相続が発生し、閉場やむなしという結論になりました」と50年の歴史に幕を閉じた。屋外練習場の場合、練習場継続に向けて固定資産税や相続税が重くのしかかっているとされる。その結果。これまで地域のコミュニティーを担っていた「お庭」が姿を消していくのは、日本全国で起こっていると言えるだろう。

折田氏は東京・昭島市の昭和の森ゴルフレンジに勤務していた。元々はキヤノンで営業の仕事をしていたが、ゴルフ界に転身し、ゴルフ場の運営や支配人業務の経験がある。「岐阜のゴルフ場ではセルフデーを設けて、レストランを閉めて屋台のラーメンにしたりして、県34位から2位の集客数になったこともありました」という。2017年から昭和の森でレッスンを始めた。

同ゴルフレンジは1970年オープンで、第一練習場が2階建て180打席と第二練習場が2階建て60打席の計240打席という大きな練習場だった。「オープンして20~30分で打席が埋まる」という人気があったが、1月10日に第一練習場が閉鎖となり、今後は隣接する昭和の森ゴルフコースと第二練習場も閉場し、物流を中心とした施設に生まれ変わる予定になっている。都内で交通の便がいい広い土地は少ないため、こうした土地利用の転換が起こりうる。

野原氏は兵庫・川西市にあるスポーツ&カルチャー複合施設「多田ハイグリーン」を経営している。「敷地は甲子園3個分ぐらい」と、ゴルフ練習場のほか、野球の打撃場、フットサル、テニスに加え、スーパー銭湯、バーベキュー場なども併設している。「うちはゴルフ練習場にしがみついていきたい」と笑う。野原氏の曽祖父が鳴尾GCを誘致した一員でもあってゴルフへの思い入れも強い。創業51年、300ヤード121打席と大きな屋外練習場になる。

経営に当たって、目指すべき指針として「アライアンス(連携)の強化」を挙げた。「地域に暮らすあらゆる世代の方に健康寿命の増進と生活の充実を図るべく、事業者・行政・地域・世代間のアライアンスを強化する」ためには、4つの課題(経営、運営・管理、サービス、営業マーケ)の解決に力を入れることだという。

経営課題の解消には事業者連携。「サイボウズの活用が技能の標準化やナレッジ(知識)共有に寄与している」。運営・管理課題の解消には行政連携。「補助金や助成事業の活用で、老朽設備の原状回復や光熱費を軽減できる」。サービス課題の解消には地域連携。「中高校のゴルフ部の開設やイベントの開催で地域貢献と若年ユーザーを発掘する」と、ジュニアには月3000円(1日50球)で練習できるようにしている。営業マーケ(ット)課題の解消は世代間連携。「広報戦略、多角化戦略で、潜在ユーザーの認知向上や集客向上を目指す」とし、プレスリリースの発行など費用をなるべくかけずにゴルフをしていない人にもアプローチをしている。

星野氏はスポーツ庁としてのゴルフを含めたスポーツへの施策などを紹介した。現在、週1回でもスポーツをする人は「ウォーキングや階段昇降などスポーツを広く定義しても、国民の56.4%」とまだまだの水準。第3期スポーツ基本計画では「70%にしたいというのが目標」という。同計画では「多様な主体におけるスポーツの機会創出」「スポーツによる健康増進」「スポーツによる地方創生・まちづくり」など12の施策に取り組むとしている。

「ゴルフは生涯スポーツ。若い人がもっとしやすい環境整備をしていきたい」と話した。また、ゴルフの健康への影響について、R&Aの調査結果を引用し「心臓疾患などのリスクを下げるなどの効果があり、(トーナメントの)ギャラリーの80%は1万1500歩を歩く。ゴルフは理想の身体活動になっている」と、効用は認めている。「ゴルフそのものを使った地方創生事業はないが、可能性はある」とし「スポーツ庁の予算は350億円とけっして多くはないですが、地方自治体とのかけ合わせていきたい」と、ゴルフを活用した地域の活性化を目指していくという。

質疑応答ではゴルフ場利用税廃止問題や、利害関係者とのゴルフ禁止となっている公務員倫理規程改定についての質問が出た。星野氏は「室伏長官は、オリンピック競技の中でゴルフだけ課税はどう考えるか、としていますが、地方の大きな税収になっている。利用税だけ(変える)というわけにはいかないので税制改正の際にどうするか」と、利用税廃止についてはまだハードルが高い。倫理規定改正も室伏長官が「変えないといけない」という主旨の発言をしているが「スポーツ庁を含めて公務員として言う立場にないので」とした。

最後にゴルフ練習場を含めてゴルフ界へのアドバイスとして、大竹氏は「ビジネスとして成立するゴルフが必要だと思います。ゴルフはアダルト、ビジネス、ステータスの3つで発展してきましたが、今の若者はそんなゴルフ文化を求めていません。私はこれからのコンセプト、キーワードはファッション、レジャー、エコロジーがいいかなと思います。ビジネスとして販売のコンセプトが重要です」と話した。

折田氏は「底辺を広くしないといけないが、若い人にとってゴルフはとっつきにくい、高い、教わりづらいなどがあると思いますが、料金も道具代も安くなってきて、くだけた指導者もいますし、楽しんでくださいと言っています。指導も、偏差値60の人を70に上げるよりは、25~30の人を50、60に上げるようにする指導ができたらと思っています。グッドゴルファーを創出したい」と話した。

野原氏は「全世代ターゲット、健康と福祉、アライアンスの3つを挙げたい。(倫理規定も)なぜゴルフがだめでマラソンはいいのかはイメージの問題。ゴルフ練習場が娯楽場になるようにできれば。公務員の方もフットサルには行くのに、ゴルフにはコソッと来る」と笑った。

星野氏は「健康長寿の話だけではなく、ビジネスですね。スポーツの市場規模は9兆円あるんですが15兆円にしたいという事を掲げています。裾野を広げるのはいいことだと思います」と話した。

練習場というテーマでそれぞれの立場での話は、経験談の中に今回のテーマ「変わりゆくゴルフ練習場 ~現状と未来」への示唆がちりばめられた話になった。約1時間30分と短いながら、濃厚な時間になった。

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ABOUTこの記事をかいた人

1959年北海道札幌市生まれ。札幌南高―北海道大学工学部卒。82年日刊スポーツ新聞社入社。同年から計7シーズン、ゴルフを取材した。プロ野球巨人、冬季・夏季五輪、大相撲なども担当。2012年、日刊スポーツ新聞社を退職、フリーに。
著書に「ゴルフが消える日」(中公新書ラクレ)、「ビジネス教養としてのゴルフ」(共同執筆、KADOKAWA)
日本プロゴルフ殿堂、国際ジュニアゴルフ育成協会のオフィシャルライターでHPなどに執筆。東洋経済オンラインでコラム「ゴルフとおカネの切っても切れない関係」を担当。趣味で「行ってみました世界遺産」(https://世界遺産行こう.com/ )を公開中。
【東洋経済ONLINEより】
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