ゴルフ史に残る数々のドラマを生み出してきた「太平洋クラブ御殿場コース」が生まれ変わりました。2001年以来17年ぶりの大改造。米国を代表するコース設計家、リース・ジョーンズ氏の手により全面改修されたコースは、日本が世界に誇る松山英樹プロが監修を担当。
パー72から国際レベルの18ホール・パー70に姿を変えました。難易度を上げただけでなく、背後にそびえる富士山の眺望が開けたホールが増え、大自然に抱かれたダイナミックな御殿場へと変貌しました。そのお披露目となった「三井住友VISA太平洋マスターズ」(11月8~11日)。今季日本ツアー初参戦した松山英樹が、意外や意外の大苦戦。通算4オーバーで46位に低迷したのはご愛嬌でしょうか。
新生・御殿場コースを制したのは、飛ばし屋・額賀辰徳(34)。首位を走った秋吉翔太(26)を最終日、最終18番で逆転。54ホール(2日目荒天で短縮)通算9アンダーで、悲願のプロ初優勝をプロ13年目にして達成しました。
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屈指のゴルフ場設計家、リース・ジョーンズ氏は、父に有名なゴルフコース設計家、ロバート・トレント・ジョーンズSr.を持つゴルフ場設計家。成人して独立したあとは多くのコース改造を手掛け、全米オープン、全米プロなどメジャー大会コースの改造を数多く手がけてきたことで「オープン・ドクター」と称されました。
今回の御殿場コース改造にあたっては、日本を代表する松山英樹プロから「御殿場もパー72から70でプレーする改修をしてほしい。そうすれば、このコースはまた一段とすばらしくなる」との要望をもらっていました。米国でもいま、PGAツアーの開催コースは、特にメジャートーナメントのほとんどが、パー72でなく70でプレーされているのが現状です。
御殿場コースの原設計者は、今夏亡くなった加藤俊輔氏。今回の改修にあたっては「原設計を活かし、美しい富士山の景観がさらに映えるレイアウトにすること。太平洋マスターズの舞台にふさわしい国際水準の戦略性。
そして女性も含め幅広い層のアマチュアが楽しめるレイアウトにする、3つの大方針」(韓俊太平洋クラブ社長)があったという。その意を受けたリース・ジョーンズ氏らと、″世界の英樹〝を加えた改修チームが、手を尽したリモデルです。
リース氏は「私の行った改修を一言でいうなら、戦略性、特にティーショットでプロに考えさせること。また18ホールすべてのバンカーで形、深さ、フレームなど特徴をつけた。18ホールで同じバンカーはない。そして最終18番はまた新たなドラマが生まれるようなホールにしたい。新しい太平洋御殿場は、新しいコンセプトで生まれ変わったのです」と語っています。
そして今年の太平洋マスターズ。最終日最終2ホールではリース氏が望んだ大きなドラマが起きました。 初日「64」を出してトップに立った今季2勝の秋吉翔太が、3日目(2日目荒天サスペンデッドで54ホールに短縮)終盤まで突っ走りました。16番を終わって9アンダートップ。迫ってくる額賀とは1打差に縮まっていました。残るは上がり2ホール。富士が美しい17番パー3(230ヤード)。秋吉はグリーン手前ラフからのチップが3㍍弱オーバー。
大事なこのパーパットを外して8アンダー。先を行く額賀に並ばれました。さあ、大変です。この大詰め。前を行く額賀は池のある18番(パー5)を確実にバーディーで仕留め、秋吉を逆に1打リードした通算9アンダーでホールアウトしました。最終組、秋吉は最終18番、イーグルなら再逆転でV。バーディーでプレーオフという大ピンチに追い込まれます。
ここでドラマがさらに広がります。渾身の力を込めて打った秋吉のドライバーは、拡大されたフェアウェイ左バンカーを避けるように右方向へ飛び、OBのある林の中へと転がります。ボールは1㍍弱OBラインを越え、秋吉には最悪の結果でした。結局は5オン2パットのダブルボギーの「7」。
先に上がってファンのサインに応じていた額賀の大逆転優勝というフィナーレでした。このホール2つ落とした秋吉は、通算6アンダーで3位タイにまで滑り落ち「勝てる試合だった。自滅で負けたのが悔しい」と、秋の夕暮れ、涙にくれるゲームセットでした。優勝賞金3000万円(54ホール短縮で75%)、3位タイ(4人)賞金720万円。非情な勝負の世界の結末でした。
この18番。左にあるフェアウェイバンカーをフェアウェイ側とグリー方向へ拡張して再造成。グリーン手前の池も、グリーン右サイドへ池が8ヤード入り込むデザインになりました。秋吉の心の隅に、広がった左フェアウェイバンカーを避けたい気持ちがあったのかもしれません。リース・ジョンソン氏の巧みな造成が、ドラマを生んだといえるかもしれません。
今回の大会で注視を浴びたホールに、御殿場コース名物のひとつ、6番パー5をパー4に改造したことも挙げられます。改造前は540ヤードのパー5。緩い右曲りのホールでグリーン右手前には池が待ち受けています。「パー5ならグリーン右手前の池は気にならないが、パー4にすると、2オンさせないとバーディーがとれないので池が効いてくる。楽しみなホールになる」と、これを推奨したのは松山英樹。
ランディングゾーン左側にFWバンカーを新設。グリーン左のガードバンカーを一つ増やして3つにするなど(距離は510ヤード)で、パー5、パー4どちらにも設定できるレイアウトになりました。
大会ではパー4の設定で2オンを狙ってくる各選手のショットが見ものでした。初日の松山は、ティーショットを右のラフに入れたため、右サイドの林を気にしながら狙ったセカンドショットがやや短く、いったんは越えた池の淵からボールが手前に落ちて池ポチャでダブルボギー。この試合、大きくスコアを伸ばせなかった原因となりました。
505ヤードの11番も、パー5をパー4に改修したホール。ここでも松山は左の林に第1打を突っ込んでボギーにするなど、自分でリクエストした改修ホールで苦しむ皮肉な結果を呼びました。このほかにも大小さまざまな改修ポイントがあって、楽しませる(苦しむ?)ホールが増えました。
グリーン周りの難度が増し、またスコアメイクに大きく影響を及ぼすバンカーが数多く目立つのは、アメリカンタイプのコースを彷彿とさせます。ゴルフは絵に描いたようにはいかない難しさがありますが、御殿場コースが新しい顔を随所に見せて、いままで以上に楽しめるコースになったのは確かなようです。一度お試しを!!
【この記事は2018-11-13 ゴルフ会員権売買の老舗(株)桜ゴルフ『児島宏のグリーン見聞記』に掲載したものを転載しております】
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