畑岡奈紗の女子オープン優勝と、砂袋

日本女子オープン覇者の高校生。

畑岡奈紗のプロ宣言は、話題豊富な女子プロ界においても真に心躍るニュースだ。彼女の類い稀な資質が世界に通じるものである事は疑う余地がない。

身体に特段に無理を強いるところがなく効率よいスイングから放たれるショット。伸びあがるインパクトにジュニアらしさを見るが、そこがまた魅力だ。

勝負勘は持って生まれたものだろうか。

畑岡の日本女子オープンでのプレーは、並み居るプロを凌駕したが、わけても印象深かったのは、彼女が砂袋を手に、ターフ跡を(どんな緊迫した場面でも)埋めながら歩いていた事だ。

テレビ中継でも、その点を指摘するコメントが発せられていた。

削り取った芝の跡を丁寧に修復して歩き出すシーンを見て、清々しい思いを抱く視聴者は少なくなかったと思う。

彼女は、JGAナショナルチームのメンバーとして、技術だけでなくマナー等さまざまな教育を受けてきたはずだ。

プロになり、世界で活躍する用意も整っているだろう。

畑岡の活躍が注目を浴びる一方で、高校ゴルフ界では問題が巻き起こっている。

全日制高校と通信制高校の、競技平等性への疑義だ。

畑岡の場合は通信制の学校に席を置いている。

最初から通信制を選んだわけでなく一旦入学した普通校から転校したという。

プロになる目標が鮮明だった彼女の場合、目標に邁進する環境を整えるため転校は正解だっただろう。

通信制高校の創設は、登校拒否や、なんらかの事情で学校に通うのが困難になった生徒を救済する意味合いが強かった。

経済的な理由から高校に通えないまま社会人になった人にとっても、意義ある制度だ。

一方でいま、スポーツや芸術的才能に突出した人材を募り成果を上げさせることに専念する学校という面が強調されている。

『学校はプロ選手の養成機関ではない』

日本高等学校ゴルフ連盟(高ゴ連)が定めるルールがある。

同連盟やJGAが主催・後援・派遣する競技以外への参加は年間最大16日を超えてはいけないと定める規則だ。

学生は学業を第一に、ゴルフ競技への参加はクラブ活動として許容される範囲で行う。

ここには学業を疎かにし、ゴルフだけに没頭するプロ予備生の存在を必ずしもよしとしない高ゴ連の基本姿勢が見える

この規則が決まった当初、関係者・生徒父兄から異論が起きたことは記憶に新しいが、この考え方の基本は間違っていないと思う。

他流試合(!?)が年間16日を超えてはいけないと聞くと、いかにも窮屈な印象を受けるかもしれないが、夏休み等の学校休暇日の競技出場はここから除外される。

アマとして競技に参加し、一定量の経験を積む機会は確保されている。

しかし高ゴ連は、現状では全日制高校と通信制高校の生徒が同じ条件で競技を競うのは平等ではないという認識で、今後の全日本高等学校ゴルフ選手権(通称・緑の甲子園)においては、全日制と通信制を別カテゴリー競技として分離開催する可能性を示したという。

上記規則があるにもかかわらず、連盟内に異論がくすぶり、もやもやが消えないのだ。

 

通信制校は学生に通学を求める日数自体がもともと少ない。規則に適用された除外日を気にしなくても、通年、プロトーナメント等の他流試合に参加ができる。

16日間という連盟の定めた規則の本来的な意図が理解されているとは言い難い状況にある。

ゴルフは自然な芝の上からの練習が欠かせない。都市部においては練習先のゴルフ場までは移動時間が必要となり、またそこに人的、経済的な負担が伴う。

経済的理由から通信制に通うゴルフ部生徒もいるが、両校を比較し、敢えて全日制入学を回避する生徒(親子)もいる。

有利なゴルフ環境の獲得を主に置き、単位取得にそれほど注力せずともゴルフに専心できる通信制を選択する生徒達。

多くがプロ志願生だ。

学校側も優秀な技量を持つ生徒勧誘には勢い力が入る。

 

一方、こんな経験がある。

私が、高ゴ連・緑の甲子園の地区決勝の前週、競技会場を訪れた時のことだ。

全日制有力校の部員が揃って練習ラウンドをこなしていた。

その日は平日であったが練習ラウンドに精を出す彼らに聞くと、既に1週間にわたり毎日練習ラウンドをしているという。部の顧問は宿泊所からの送迎を担当しているらしい。

「学校は?」と問うと、今日も授業はあるものの学校が認めた練習合宿だから問題ないとの返事だった。

 

どんな世界でもそうだが、規則では括りきれない部分がある。

もとより、高校の全国大会に別カテゴリーが出来ることは好ましい事と思えない。

解決には参加者・関係者が学校教育、連盟が決めた規則本来が意図するところを尊重し、みなで納得のいく方向性を見いだすしかない。

毎日学校に通っていても、身につけるべき基本知識を習得しきれない子は少なくない。

平たくいえば、サボってしまいがちな彼らには注意を促す教諭や仲間、環境が必要だ。

求められる学業・単位修得のため、的確な各科目教育者の目が届かない環境で自分の責任において勉強するには相応の自覚が必要だろう。

付け加えるなら、部活においては、技能向上を図るだけでなくゴルフを通じて得られる歓び、楽しさを求めて入部する生徒がいる。

彼らの期待に応じる事も、今後のゴルフ界のために必要な配慮だ。

 

プロになることを人生最大の目標と定め通信制高校ゴルフ部に在籍する生徒は、プロのトーナメント、そしてオープン各種競技への挑戦を重ねて切磋琢磨する道もある。

固い決心がつくまでは連盟規則本来の意図に沿って学校部活動としてのゴルフを主に練習する事もできる。

周辺の会話には、入学者を獲得する策としての学校運営の側面も見え隠れする。

 

砂袋を手に日本女子オープを制した畑岡。

ゴルフというスポーツにあるべき基本姿勢。

清々しさの中身はなんだろう。

彼らを応援する私達は、ゴルフのどこに共感を覚えたのだろうか。

 

ABOUTこの記事をかいた人

1956年生まれ 兵庫県芦屋市出身
甲南大学法学部卒。
中学1年生の時、ゴルフを始め、「将来はクルマか、ゴルフか…!?」 いずれの仕事就くかを悩む学生だった。
商社勤務の後、1980年、カー雑誌編集部員に(CARトップ誌・交通タイムス社)。
以後約30年間クルマ雑誌の編集、プロデュ―スに携わる。
1991年 ㈱マガジンメーカーズ設立、代表取締役。月刊誌「オートファッション」他、自動車雑誌5誌創刊。㈱交通タイムス社取締役兼務。
1995年~ 日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員。執行役員、事務局長等に就任。
2007年~ メンズ・ストリートファッション月刊誌「411(フォー・ダブ・ワン)」プロデュ―ス。女子小学生リアルファッション雑誌「JSガール」(三栄書房)プロデュ―ス。
2016年~ ゴルフライターに転身。
「ゴルフトゥデイ」誌(ゴルフトゥデイ社)において連載開始(レッスン記事・ムダな抵抗は止めよう!)。
ジュニアゴルファー育成を図るべく、NPO法人「ザ・ファースト・ティ・ジャパン」の
www.thefirstteejapan.org/  プロモーションディレクターに就任。
また、同法人が大相模C.Cにて開催するジュニアレッスンにアシスタント・コーチとして参加。明日を夢見る子供たちと共に過ごす。
ゴルフが全世代に親しまれるスポーツであり続ける事をテーマに活動。