菅野徳雄の「日本のゴルフを斬る」
(日刊ゲンダイ 平成28年6 月9日)低い球で飛ばす技術がなければ世界で通用しない
「今年の宍戸を制したものは、どこに行っても通用する。そういうセッティングに私はしたつもりだ」
今年の日本ツアー選手権(宍戸ヒルズ・西コース)について「世界基準のコースセッティング」だとJGTOの青木功新会長は言っている。昨年より距離を伸ばして7384ヤードのパー71。ラフは13ミリまで伸ばし、フェアウエーをはずすとグリーンを狙えないホールがいくつかあったのは確かだ。しかし、今年で17回目の大会で優勝スコアは一番悪い2アンダー。このコースでこんなスコアでは世界では通用するはずがない。
かつて青木がジャック・ニクラスと最終ホールまで烈しく優勝を争い、惜しくも2位になった全米オープンのバルタスロールのむずかしさは今でも私の目に焼きついている。バルタスロールは特にパー4が長いので、練習ラウンドで青木はセカンドで何度も4番ウッドを使っていた。
「ラフに入れたらどんなに飛ばしてもグリーンを狙えないのでドライバーはフェアウエーをとらえることだけを考えてコントロールした」と言っている。飛ばすことよりもフェアウエーをはずさないようにし、グリーンをはずしても寄せワンのパーを取れるゴルフに徹したと言うのだ。
青木は4日間通算6アンダーで、優勝のニクラスに2打及ばなかったが、それでも全米オープンの大会新記録だった。
国内の試合を見ていると、特に若い選手のドライバーショットは100パーセント近いフルショットで全力投球という感じがする。ドライバーでどうしてもっとフェアウエーの一点に向かって狙い打ちが出来ないんだろう。
そのことについて、04年にJGTOゴルフトーナメント功労賞を受賞した台湾出身の陳静波は大会会場で行われた表彰式でこう語っている。
「試合を見ていると、みんなドライバーで高い球を打ってる。弾道が高すぎるためにショットが少し曲がっても風の影響を受けてフェアウエーをはずれてしまう。今のクラブは高く上がるように出来ているのだから、もっと低い球で距離を落とさないショットが打てればフェアウエーが狭くてもスコアはもっとよくなる」
陳さんは台湾海峡に近い風の強いコース(淡水)で育ったので低いドローボールで、アッパーブローに高い球を打ったときと変わらない飛距離を出すことで定評があった。
取材に行くと、ドライバーのフェースを上、中、下と分けて、高さの違うショットをよく打って見せてくれた。ただし、低いショットでも高い球と同じ飛距離を出せなければ試合では使えないと言った。そしてフェアウエーをタテに三つに分けて、左右、真ん中と打ち分けなければと言った。
鬼才と言われた戸田藤一郎は「空にもOBがある」と言ってドライバーもパンチショットを駆使して勝ち続けた。