「ボールを変えよう」 帝王ニクラウス警鐘の意味

日経電子版2016年4月19日配信

2016年の男子ゴルフのマスターズ・トーナメントは、ジョーダン・スピース(米国)のショッキングなドラマで幕を閉じた。

マスターズでは例年、大会前に有名選手、有力選手の記者会見が行われる。今年はもちろん、史上4人目の連覇を狙うスピースも呼ばれた。最多の6勝を挙げているジャック・ニクラウス(米国)にも毎年お声がかかる。そのインタビューの中で今回、コース改造、特に13番(パー5)のことに話が及んだ。

クラブとボールの進化の功罪

「アーメンコーナー」と呼ばれる11番(パー4)、12番(パー3)、13番(パー5)の中でも、オーガスタ・ナショナルGCを代表する花「アゼリア」(ツツジ)と名付けられた13番は、コースの顔ともいえる。

左にドッグレッグしたホールで、フェアウエー左に流れるクリークがグリーン手前を右に横切り、そのまま右奥まで続いている。

かつて、ニクラウス全盛時代には、ここで2オンを狙うかクリークの手前に刻むかが、ギャラリーのいちばんの楽しみであった。選手がキャディーバッグからウッドクラブを抜き出し、ヘッドカバーに手をかけると、大歓声を送った。

そのボールがみごとにグリーンをとらえるとさらに大きな拍手と歓声を上げて喜び、手前のクリークにつかまってしまうと、「オー・ノー」と言って顔を覆う。ゴルフトーナメントを見ているのではなく、ゴルフドラマの中に自分を置いて興奮できる場所なのだ。

ところが近年、その楽しみがなくなってしまった。クラブとボールの進化で、ティーショットをミスしない限り、ほとんどの選手が2オンを狙う。しかもミドルアイアンやショートアイアンで。ホールの平均スコアも毎年「5」を切っている。

数年前、アーメンコーナーの南に背中合わせである「オーガスタ・カントリークラブ」から土地を買い上げて13番ティーグラウンドを後ろに下げたが、それも焼け石に水。ここ1、2年、再び「13番をどうするか」が話題になっている。

オーガスタ・カントリークラブからさらに土地を買ってティーグラウンドを下げる、グリーンを下げる大改造をするなど、いくつかの改善策が挙がっているが、ニクラウスはこう言い切った。

「とんでもなく飛ぶボールを変えればいい」

ニクラウスがゴルフボールの進化に警鐘を鳴らすのは今回が初めてではない。今から30年ほど前に、水に浮くほど軽いボールを開発して、カリブ海のケイマン諸島に自らが設計した専用のコースをオープンさせている。

狭い土地でも気軽にゴルフができるようにというコンセプトで開発された「ケイマンボール」だったが、飛距離は通常のボールの半分ぐらい。打った感触が通常のボールよりも頼りなく感じるので大きく広がることはなかったが、今でも岐阜県や群馬県など、日本の数カ所に専用コースがあり、初心者や子供たちがケイマンゴルフを楽しんでいる。

その後もニクラウスのゴルフボールに対する思いは変わらず、以来、たびたび「ボールがこのまま進化していったら、ゴルフゲームはただ飛ばすだけの見せ物になってしまう」と言い続けている。

飛距離をセーブするには、クラブヘッドの素材や形状、シャフトの規制などいくつかの方法があるだろうが、ニクラウスが言うように、ボールでの規制がやりやすいかもしれない。

レベルによってボール使い分けも

現在、ボールは直径4.267センチ以上、重さ45.93グラム以下と定められている。例えば、大きさはそのままにして最大重量を小さくすれば、軽くなる分、飛距離は落ちる。

一般アマチュアが使うボールは今まで通りにし、トップアマやプロが競技で使用するボールだけに規制をかけることによって、アマはアマなりの楽しい、プロはプロなりのスリリングなゴルフが満喫できるのではないだろうか。

米国ゴルフ協会(USGA)、全英オープン選手権を主催するR&A、あるいは米PGAツアーも、本気で考なくてはいけないときが来ている。