16,17番をボギーにして追うタイガーと1打差になったトーナメントリーダー、カブレラ。吹っ切れたように18番では、フェアウェイど真ん中に、豪快なマン振りドライバーショット。去年のミケルソンの最終ホールとは大違い。最終組でないのが幸いしたのか、とにかく飛んで曲がらない。
今年の全米オープン最終日、1番のセカンドショット地点で、各選手のスタートをみていたとき、飛ばし屋のBワトソンやタイガーの遙か先まで飛んでいたのが、アルゼンチン生まれ、ちょっと太めのアンヘル・カブレラ37歳。500ヤードくらいのパー4でもセカンドショットをウエッジで打てそうなくらい、見事に飛ばす。
2日目など最終ホールで完璧なセカンドショットでベタピン。予選通過を期待していた11オーバーの選手たち19人の首を飛ばしてしまった男なのだ。3日目は最終組で5オーバーだったが、最終日は後ろから4組目でのびのびとプレー。14番では再度のベタピンショットで3アンダーまで伸ばしていた。タイガーが4日で8オーバーも覚悟したというモンスター、オークモントをねじ伏せるかのようなカブレラの快進撃が最後まで続くのか。
18番ティでカブレラのドライバーショットを撮影した新米カメラマンのボクは、そのまま彼の顔をカメラで追い続けた。とその時、フェアウェイに向かい足早に歩く彼が、ボクのニコンに顔を向けたのだ。もちろん夢中でシャッターを切るボク。
カメラマンとしては、現時点トップのカブレラを追うべきか、それとも1打差のタイガーを追うべきか。ちょうど隣はタイガーの15番2打目。これを写して、すぐカブレラのホールアウトまで追うことに。さっきの目は勝利を確信している目だもの。行かなくては。プロのカメラマンは月でも撮るような超望遠レンズ付きのカメラを何台も担いで獲物を追いかける。まねごとをしているボクは、カメラ1台でも汗びっしょり。ギャラリーが入れないロープの中でこんな肉体労働をしていれば、ダイエットなんか不必要さ。
60歳還暦の誕生日をオークモントのインサイド・ザ・ロープで迎え、カブレラやタイガーを間近で目撃し撮影まで出来たボクは、USGAとゴルフの神様からすばらしいプレゼントをもらったというわけだ。最終組18番、タイガーの祈るようなバーディパットはホールの右にはずれ、全ては終った。夕日が赤く染まる頃、アルゼンチンの英雄カブレラはグリーン上で仲間たちに囲まれていた。おめでとう、飛ばし屋カブちゃん
『袖ケ浦』(第129号):袖ケ浦カンツリークラブ 平成23年5月吉日 発行