未来系という言葉には何か希望的なことや新しく、そして少し期待の持てる意味が含まれている。では未来系の反対語としての過去系という言葉はどうだろうか。古き良き時代や過去の忌まわしい、すでに過ぎ去った何かがあったニュアンスがある。そして未来系という言葉には過去をリセットするニュアンスも含まれている。
なぜ、このようなことをいうかといえば現在のゴルフショップを取り囲む環境を一度リセットしたいからである。ゴルフ市場は1993年をピークに右肩下がりに転じ、市場規模はピークのおよそ半分まで縮小し、その流れがもう20年以上も続いているからである。この間にはゴルフショップはチェーン化された大型量販店があらゆる地域に存在し、圧倒的な物量と低価格で街のショップを駆逐してきた。そして、メーカーもそのパワーと規模に追い込まれ、今では積極的に販売サポートをするようになっていった。 小さな街のショップはこの大波に飲み込まれて市場からはじき出されてしまった。そして、もう一方ではインターネットによる通販が急速な進展を見せ自宅にいながら欲しい商品が手に入れられる、しかもより安い価格で。新製品は1年でモデルチェンジを繰り返し、過剰なメーカー在庫と流通在庫はマークダウンという大幅値引きで価格競争に拍車をかける。ゴルフを楽しむための道具であるゴルフクラブは日用雑貨品のごとく商材の一つとして販売されている。このような熾烈な環境の中に今、生き残ったゴルフショップは存在している。果たしてゴルフショップに未来はあるのだろうか…
大いにある。このような環境だからこそ、むしろチャンスと見るべきだと思う。数億年前の地球上には大型の恐竜が繁栄し恐竜時代を謳歌していた。それがある日、小さな小惑星が地球に衝突した瞬間から環境が変わり、恐竜は絶滅し、それまで小さく恐竜の陰で密かに生活していた哺乳類が台頭して新しい時代を作った。
地球という限定された大きさを持つ星は、経済活動もその大きさに比例した限界値がありグローバル化、効率化を目指してきた<規模の経済>は市場の限界まで拡大すれば当然伸びは止まり頭打ちとなる。グローバル化という名前の効率主義はどうしてもメーカー視線、売り手視点のビジネスとなる。実際製品を購入する一人一人の顧客のことよりかは規模と数がどうしても優先される。それが市場に行き渡った時に、物は溢れ、その結果価格競争がいたるところで起こり、グローバル化と効率のビジネスの終焉を迎えようとしているからだ。しかし、効率化の中でないがしろにされてきた製品の購入者である顧客はこの違和感に敏感に反応し始めているのである。顧客としての個を大切に見守ってくれるところを探し始めている。時代の転換期は小さな動きから始まり、気がついてみるとかなりの速度で新しい時代を形成していく。今が正にその転換期なのである。
<未来系のゴルフショップ>は規模の経済から範囲の経済、一人一人の顧客に向き合う、顧客目線のビジネスのことであり、小売業全体にも転換が迫られているのである。これを裏付けるように今からなんと20年も前に発行されたOne to One Marketing(著者DペパーズとMロジャース)では「新しいビジネスは大企業よりか小企業、零細企業の方が有利と考える。それは規模の経済を重視し、一つの製品をできるだけ多くの顧客に売りつけるやり方でなく、一人の顧客を知り尽くしている小売店の方が顧客満足度が高く、一人の顧客により多くの商品を販売することができるだけでなく、限界がないからである。
そうするには、一人一人の顧客のニーズに応える必要があり、顧客の協力も不可欠だ。個々の顧客の様々な要望に取り組むためには、まずどのような要求があるのかを理解しなければならない。そのためには顧客の一人一人と対話し、彼らの個人的要求を十分に満たすような製品やサービスを創り出したり選んだり、デザインする必要がある」と力説している。
正にその通りであり、これを実践することが新しい時代を生き延びる<未来系ゴルフショップ>の基本モデルなのである。DペパーズとMロジャースは20年以上前からこの兆候を見抜きOne to One Marketingを書き上げた。
(つづく)
ユニバーサルゴルフ
PCM17号掲載(September, 2015)記事より