日本の男子ツアーは技術だけでなく「人間」も問われている ~菅野 徳雄~

ツアー選手権に象徴される男子ツアーの現状

JGTO(日本ゴルフツアー機構)が日本プロと日本オープンに次ぐ「メジャー」に育てようとしているのが日本ゴルフツアー選手権・宍戸ヒルズカップだ。今年は細川和彦、今野康晴、デービッド・スメイルの3人によるプレーオフにもつれ込み、細川が4年ぶりに涙の復活優勝を遂げた。JGTOが総力を挙げ、なおかつNHKテレビが13時からプレーオフが終わるまで時間を延長して生中継するという力の入れよう。だけども最終日の入場者数は雨が降ったわけでもないのにわずかに5098人。メジャーというにはあまりにも淋しいギャラリー数だ。

宮里藍と横峯さくらの活躍で昨年から今年にかけて女子ツアーは普通の試合でも最終日は1万人近いギャラリーが入っている。二人に刺激されて若手も伸びてきている。諸見里しのぶ、宮里美香といった有望なアマチュアも後に控えている。

若手の台頭によって人気急上昇中の女子ツアーとは対照的に男子ツアーの方は落ちるところまで落ちたという感じだ。

過去の賞金王が軒並み調子を崩していく

2001年にマスターズで4位タイとなって世界的にも注目され、国内では5勝をマークし、このままジャンボ尾崎の後継者になるのは間違いなしと思われた伊沢利光。ところが何と翌年はスイング改造が裏目に出て未勝利に終わり、賞金ランクも10位止まり。

02年の開幕戦・東建カップで伊沢のスイングを見て、あまりの変わりようにびっくりしたのを今でもよく覚えている。滑らかな、流れるようなスイングでフェードボールを打っていたのが、叩きつけるような荒々しいスイングに変わり、右に押し出すミスが多くなっていた。もっと飛距離を伸ばそうとしてオフの間、ドローボールをマスターしようとしたらしいのだが、右に出たボールは左には戻らず、右のラフに入るミスが多くなっていた。

不調の1年が終わり、その後、江連忠をコーチに迎えて03年は2勝し、賞金王に返り咲いたものの、04年は原因不明の体調不良が続き、秋口までよく戦列を離れたりした。結局1勝も出来ずに終わり、賞金ランクは26位まで落ち込んだ。今年も体調はまだ完全ではないようで、ショットも安定せずに、JCBクラシック仙台(表蔵王国際GC)では17番ホールのセカンドを左にOBして、S・K・ホ(韓国)に敗れている。

02年の賞金王・谷口徹も原因不明の病魔に襲われて03年は勝ち星がなく、ランク34位まで落ちてしまった。昨年は日本オープン、ブリヂストンオープンと2週連続優勝し、片山晋呉と賞金王を争って2位。しかしその谷口も、昨年の賞金王・片山も今年はまだ勝てないでいる。

男子ツアーの選手にいま足りないものとは

そんなわけで今の男子ツアーは「ヒーロー不在」の一言に尽きる。横綱どころか大関、いや関脇さえいないといわれても仕方がなく、三役のいない相撲を見せられているようなものだ。

今回、日本ゴルフツアー選手権の会場(宍戸ヒルズCC)で「選手会」が開かれ、「みんなもっと危機意識を持つように」という話が出たというけれど、タバコを吸いながらプレーしている選手は一向に後を絶たない。

優勝を争っている選手が大詰めでセカンドショットを二人も続けて池に入れたり、コースセッティングを少しでも難しくすればアンダーパーがわずかに7人というレベルの低さもさることながら、平気でタバコを吸ったり、髪を赤く染めて、紳士のスポーツといわれるゴルフにはあまりにも不似合いな、品位のない格好をしてプレーしているのを見ていると、危機意識など微塵も感じられない。危機という言葉の意味が分かっていないのでは? と疑いたくなる。

「タバコを吸っているところは撮らないでほしい」とテレビに文句を言っている選手が多いというからあきれてものも言えない。テレビに映らなければ、遠くからわざわざ足を運んでくれているギャラリーには吸っているところを見せても構わないというのか。

丸山茂樹は米ツアーに行っても試合中いまだにタバコを吸っているけれど、公共の場で禁煙出来ないような人間はまともに扱われないアメリカで、見ているほうが恥ずかしくなる。

日本も喫煙に対する風当たりが強くなり、駅のホームや街の道路までが禁煙になりつつある時代だ。昔と違って今はゴルフもアスリートの時代といわれているのに、いまだに試合中にタバコを吸いながらプレーするプロスポーツなんてどこにあるかと言いたい。

喫煙が今どういうふうに見られているのか、選手一人一人がもっと社会的な認識を強く持つべきだ。口頭で注意しても守られないのならJGTOはプレー中の喫煙にはペナルティーを課すなどの強い態度でのぞまなかったら男子ツアーは決してよくならない。

プレーヤーである前に良識ある人間であるべき

今年のサロンパスワールドレディス(東京よみうりCC)でこんなことがあった。4番、パー5のセカンド地点。不動裕理がフェアウエイ右端から打とうとすると、右側のギャラリーの上を狙わなければならない。

不動は自分で「すみません」と言ってギャラリーに避けてもらうと、「有難うございます」と言ってから打っていた。

何かを頼んで、有難うございますというのは、人間として当たり前のことかもしれない。だけども試合をしていてプレーに全神経を集中しているときに、「有難うございます」という言葉がごく自然に出る不動という選手を間近に見ながら、何故かすがすがしい思いがした。

不動は師匠の清元登子(日本女子プロゴルフ協会副会長)の家に住み込んで修業したという。清元はアマチュア時代にプロの試合(オープン競技)で勝った最初の女子選手である。師匠と同じ屋根の下で、不動は技術的なことだけでなく、それ以上にプロゴルファーはどうあるべきか、人としての生き方を教わったのではないかと思う。

女子ツアーでは古閑美保や大山志保も清元の指導を受けた選手で、不動と同じように技術以上に、恐らく人間教育に重点が置かれたに違いない。

男子ツアーで、プレー中にギャラリーを手でどかすような仕草をしたり、プレーの邪魔になったりするとジロリとにらみつけたりする光景を私は何度も見てきた。

「日本の選手は顔を見ればスコアを聞かなくても分かる」といわれているくらい、ミスをするとすぐ表情や態度に出る選手が男子ツアーには多い。

成績がよくても悪くても必死になって毅然たる態度で、一打一打を真剣にプレーすれば、見る人たちは好感を持って、「頑張れよ」と応援したくなるものだ。ミスをしたとき、不機嫌な顔をされたら見ているほうだって嫌になる。