財団法人日本ゴルフ協会が主催するナショナルオープン。そのコース選定、コースセッテングを中心的立場の1人として務めているのが、大橋一元競技委員長である。そこで現状のナショナルオープンの舞台(コース)造りについて、さらに問題点や将来の展望について語ってもらった。
││ナショナルオープンのコース選びの基準はどんなものですか。
大橋 オープン実行委員会でコース選定が行われるのですが、いわゆる一般に名門と呼ばれるゴルフ場で、普段トーナメントが開催されないコースをというのが、基準のひとつにあります。これは普段そのコースのメンバー以外のゴルファーが、なかなか目にすることができないコースを日本中のゴルファーに見ていただこうという趣旨が働いているためです。もちろん、日本一のプレーヤーを決めるわけですから、それに相応しいホールを持っていなければなりませんが。
││ラフが長く、フェアウエイが狭い。そしてグリーンが硬い。これがナショナルオープンのコースセッティングの特徴ですが、あまりにもコースを難しくし過ぎないかという声が聞かれますが。
大橋 全米オープン、全英オープンに近い環境でトーナメントが開催されるように意識はしていますが、難しくし過ぎるというのは誤解です。すべては参加する選手全員にフェアなコース造りをし、最も強いプレーヤーが勝つ試合を目指した結果、見方によっては他のトーナメントよりコースセッティングが極めてハードに映るのかもしれません。しかし今年の東京ゴルフ倶楽部(日本オープン開催)の場合などは、普段メンバーがプレーしている時より、フェアウエイの幅を広げてセッティングしているのです。
││それは何故ですか。
大橋 東京GCのメンバーの方より出場選手の方が曲がるということです(笑)。それは冗談ですが、日本のトッププレーヤーの飛距離を考えた場合、フェアウエイを狭くし過ぎるとほとんどの選手がパー4、パー5のティショットでアイアンを使うことになります。これではロングヒッターにその有利さが出なくなります。もちろんフェアウエイを広げ過ぎるとロングヒッター断然有利なコースになってしまう。つまり飛ぶという有利さ。飛ばないけど曲がらないという有利さのどちらか一方だけが突出しないようなセッティングを考えてフェアウエイの幅、ラフの長さ、グリーンの硬さなどを決めているのです。
しかし悩みはあります。日本には現在のトッププレーヤーの力や技を最大に引き出すコースレイアウト
を持ったゴルフ場が少ないといことです。道具、体力がこれだけアップするとそれはなおさらです。だからむしろ欧米よりコースセッティングは重要な要素だと私は認識しています。また全米オープンでは限りなくコースを難しくして、その年のプレーヤーの技量をテストするという要素がコースセッティングの一要素として存在しているそうです。広大な土地を要する名門コースが多いからこそできることで、日本ではそれをするとアンフェアなセッティングになってしまうと思います。
でもまだ我々は恵まれてると思います。5年前から開催コースが決まるので、長い時間をかけて準備ができる。またプロの世界のように出場選手といわば同じ立場の人間がコースセッティングを担当すると、いろいろ雑音が上がると聞きます。その意味では選手とは一線を画した中立の立場である我々の方がやりやすいのかもしれません。
これは私の感想なのですが、日本のプロトーナメントのいくつかは、あまりコースセッティングに時間が費やされないためか、使用するティグラウンド以外は一般の営業時とそれほど変わらないと思われるコースがあります。これだとどうしても日本の多くのコースの場合、ロングヒッターに有利なコースになってしまう。そんなトーナメントがいくつかあるような気がしますし、見ていてもあまり興味を引きません。もちろん選手の技術向上にもマイナスです。実際複数のプロに「日本オープンのようなコースセッティングのトーナメントが年間数試合あれば、練習の仕方からして変えなくてはならない。そうなると自然に力がつく」と言われたことがあります。
││今、力を入れてることはありますか。
大橋 コースセッティングの技術向上のため研究や学習、研修を、若手を含めたチームを編成し積極的に取り入れようにしています。つまり自分自身の日々の勉強もさることながら、高い能力を持った後継者の育成も、我々の大きな仕事なのです。まだ具体的にはなっていませんが、特に日本オープンには海外の一流選手が参加するような方策も考えるべきだと思っています。国内だけでなく、誰もが知る海外一流選手の出場は、すべての面でナショナルオープンの活性化につながると思うからです。もちろんコースセッティング技術の向上にも役立つでしょう。何よりナショナルオープンはグローバルな大会であるべきだと思います。
││この他に今後取り組んでいくことはありますか。
大橋 コースセッティングを担当する立場でいえば、日本の名門コースを、セッティングによってできるだけフェアな状態にする。もちろんどんなに努力しても、天候などの影響もあり100点満点ということはありませんが、少しでもそれに近づきたいですね。そのためにも開催コースの方々と十分コミュニケーションをとって、より強固な協力体制を作り上げなくてはなりません。コースセッティングの技術向上とともに、それが我々の大きな仕事だと自認しています。
││今日はどうもありがとうございました。
(聞き手 荒井 聡)