温厚なボン・ヘイギー氏が第1回TPCの1番グリーンを見て激怒した訳 ~三品智加良~

日本ツアーが観るプロスポーツとして魅力を持つ日は来るのか日本のトーナメントを変えたい!
 日本でもアメリカツアーに本気で挑戦する選手が現れてきた。また衛星放送の普及で、一般のゴルフファンでも容易に欧米のゴルフトーナメントをテレビ観戦することができる環境が整った。そこで囁かれだしたのは「日本のトーナメントは何故か面白くない」ということである。海外の試合を経験した選手からも、そして欧米ツアーをテレビ観戦するファンからも同じような声が発せられる。そこで日本のツアーが何故面白くないのか。そしてどうすれば魅力あるトーナメントになるのか。主に戦いの舞台となるコースにターゲットを当て、5名の論客に健筆を振るってもらった。


 

去る2年前、2000年6月末に日本で最初のツアープレーヤーズ選手権が開催されることになり、栃木県の話題のコース、ホウライカントリー倶楽部が開催コースに選ばれた。このコースは、米国の人気設計者ロバート・ボン・ヘイギー氏の設計である。この年、世界の全ツアーで、彼の設計したコースがトーナメント開催コースになっている。
記念すべき第1回のツアープレーヤーズ選手権ということもあり、プロゴルファー自ら運営するトーナメントという意識が強かったのか、コースに対する様々な意見が出されたという。しかも選手自身、話題のコースということもあり、他のトーナメントコース以上に、コースセッティングに神経質になっていたと聞く。
その結果、多くの改造案まで飛び出し、コース側もうれしいやら、困惑やらで、開場以来、初めてのトーナメント開催に興奮気味の様相だった。
そこでコース側としては、当然のことであるが、やはり設計者に相談すべきだろうということで、ボン・ヘイギー氏を招聘、今回のコースセッティングについて意見を聞くに及んだ。
開催前年に、ボン・ヘイギー氏の設計パートナーであるマイク・スメルク氏、主催者、運営のJGTOのスタッフ、及び担当プロとのミーティングを行い、コースセッティング、改造のポイントを決め、準備に入った。
 こうしてツアープレーヤーズ選手権のコースセッティングは順調に行われ、大会当日の朝を迎えた。この日ボン・ヘイギー氏もコースに姿を見せた。彼としては大会前年に、自分の意を汲むスメルク氏を送り込み、十分に関係者と話し合った経緯があるため、設計意図を、そしてこのコースの魅力を存分に引き出すコースセッティングがなされていると確信したコース訪問であった。そこで選手のスタート前にその出来栄えを自分の目で確認しようと、コースを歩くことになった。たまたま筆者もそれに同行させていただいた。
ところが最初のホール、1番ホールのグリーンを見た時のこと。突然ボン・ヘイギー氏が怒りだしたのだ。

いつも温厚なヘイギー氏。長年の付き合いの筆者も、怒った顔を見たことがなかった。
理由は、グリーンがなぜか狭くなっていたのだ。通常のゴルフコースではよくある話だが、トーナメント開催となると話は違ってくる。どこでわかったかというと、グリーン脇のスプリンクラーヘッドの位置が、グリーンエッジから約1メートルぐらい外側になってしまっていたのだ。ということは、グリーン自体が必然的にバンカーからも離れることになり、バンカーのすぐ上にピンポジションをセッティングした場合、通常より1メートル以上バンカーから離れることになる。我々アマチュアなら、それほど影響はないが、プロにとって、バンカーのすぐ上の厳しいピンポジションが、厳しくなくなってしまうのだ。この1メートルは大きい。

特にボン・ヘイギー氏のコース設計の特徴は、バンカーを大きく見せ、プレッシャーをかけるというもの。同氏は、「大胆に視覚的主張を表現するものでなければならない。そのために、細心の注意を怠らない。例えば太陽光線の差し込む角度を最初から十分に計算し、コース造形に奥行きと神秘性を与える光のドラマを的確に捕らえ、一日中その視覚的効果を保つことに注意を払う」という。
つまりプレーの基本は、視覚的に訴えるコースとの闘い、ということである。それゆえボン・ヘイギー氏の造るバンカーは、砂の面がよく見える。フェアウエイバンカーでも、ガードバンカーでも、砂面を何%か斜めに立ち上がらせて、形も大胆に、視覚に訴える造形がなされている。だから「さあ、どこからでもかかってこい」と設計者がプレーヤーに対し、胸を差し出しているような印象を与える。
さらにボン・ヘイギー氏は、コースセッティングに大事なポイントを紹介している。彼によれば21のポイントがあるという。そのポイントをご紹介するが、彼の言っている英文そのものでご紹介したい。
右記表のように、 本すべての機能をすべて試す。さらにダウンヒル、アップヒル、つま先あがり、つま先下がり、そして当日吹く風のことも考慮に入れる、というように、選手に対し、予想されるすべてのショットを試させるコースセッティングが必要だ、というのである。
しかも、それらのセッティングを視覚的にもチャレンジしやすくなるよう、また選手のチャレンジ意欲が増すようなコースセッティングが望ましい、という。だから選手もコースに堂々と戦いを挑みチャレンジする、という前向きの姿勢となり、ギャラリーが大喜びするようなショットが生まれる、ということになる、という。
以前、コングレッショナルカントリークラブでの全米オープン(1997年)の、設計者リース・ジョーンズ氏によるセッティングを拝見したことがあるが、やはりセンチ単位のフェアウエイのカットや、フェアウエイサイドの木の枝のカットなどが細かく指示してあった。
やはりトーナメント時のコースセッティングというのは、1本1本のクラブの能力を最大限引き出して戦わせるコースセッティングが必要だ、ということがポイントだということなのだろう。
グリーンを小さくすることが難しくすること。そんな短絡的なコースセッティングは、欧米には存在しないのである。

ボン・ヘイギー氏によるコースセッティング21のポイント

1)1,2,3,and 4Iron- Right to Left Angle of Turn – High Trajectory
2)1,2,3,and 4 Iron – Right to Left – Flat Trajectory
3)Driver ? Right to Left ? Flat Trajectory
4)Driver ? Right to Left ? High Trajectory
5)2,3,4,and 5 Wood ? Right to Left ?Flat Trajectory
6)2,3,4,and 5 Wood ? Right to Left ? High Trajectory
7)5,6,7,and 8 Iron ? Right to Left ? Flat Trajectory
8)5,6,7,and 8 Iron ? Left to Right ? Flat Trajectory
9)5,6,7,and 8 Iron ? Right to Left ? High trajectory
10)1,2,3,and 4 Iron ? Left to Right ? High Trajectory
11)Driver ? Left to Right ? Flat Trajectory
12)2,3,4,and 5 Wood ? Left to Right ? Flat Trajectory
13)5,6,7,and 8 Iron ? Left to Right ? High Trajectory
14)1,2,3,and 4 Iron ? Left to Right ? Flat Trajectory
15)2,3,4,and 5 Wood ? Left to Right ? High Trajectory
16)Driver ? Left to Right ? High Trajectory
17)8,9,and P.W.Shots ? Flat Trajectory ? No Angle of Turn ? Wind Prevailing and Light Involvement from all quadrants
18)8,9,and P.W.Shots ? High Trajectory ? No Angle of Turn ? Prevailing Wind and Light Involvement from all quadrants
19)Chipping and Pitching ? Just Trajectory ,Distance and Light Involved
20)Sand Examination
21)Putting ? Distance and Surface Contour Examination