今年の第122回全米オープンゴルフは、マサチューセッツ州ボストンにあるザ・カントリークラブで開催されました。ボストンは、米国屈指のハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)などがある街としても有名です。
私事ですが娘婿がハーバード大学に勤めており、娘家族の住んでいるブルックラインが今回のトーナメント会場とほど近い場所です。ボストンでは地下鉄網が発達しており、自宅前の駅からゴルフ場まで4駅の至近距離にありました。
私自身、松山英樹がUSツアーにデビューした2013年より毎年全米プロゴルフの取材をしてきました。全米オープンゴルフに関しては、C・ペイビンが優勝した1995年に初めて現地に赴いた記憶があります。今回は、日本ゴルフ設計者協会の川田太三理事長のご尽力で会場入りをすることができました。川田氏は、長年にわたりUSGAの競技委員として大会運営に貢献されてきました。
会場入りして驚いたのが、トーナメントのIT化です。チケットは、全てが電子モバイル化してゲートのバーコードリーダーで読み取ります。昔ながらのチケットのモギリは一切ありません。紙ベースの組合せ表や場内地図も無く、全米オープン専用アプリをダウンロードします。組合せ表、リーダーボード、会場マップ、選手情報など、スマホからすべての情報を読み取ることができます。
会場内にはもちろん無料Wi-Fiが完備されています。トーナメント運営自体も簡素化されていました。1番スタートでは、USGA役員が選手紹介アナウンスやスコアカード配布まで一人で担当していました。1番ホールのティーインググラウンドは、練習グリーンに隣接しており、グリーンとティーの境が有りません。
会場内に設置されている簡易トイレは、男女の区別がなく全てが男女共用となっていました。また、お水1本からホットドックや大会グッズ商品の購入は全てキャッシュレス。現金の取り扱いは無く、デビットカードかクレジットカードのみ使用可能です。
かたやギャラリーには、きめ細かい色々な配慮がされていました。会場には、ギャラリー駐車場以外にも地下鉄4駅から無料シャトルバスが運行されており、ゴルフ場へのスムーズなアクセスが可能となっていました。
会場内には、真っ白な「U.S.OPEN」看板、巨大スコアボードや記念巨大額縁フォトスポットなどが彼方此方に設置されており、ギャラリーが思い思いの記念写真を撮っていました。また給水スポットが場内各地に配置されていて、いつでも水分補給が可能です。
ギャラリーには、アメリカンエクスプレス提供のラジオイヤホンが無料配布されます。トーナメントの実況ラジオ放送が会場内で聞くことができ、大会に関する情報や現在進行中の選手たちのプレーの現状が手に取るように分かるのです。
プレー後の選手たちは、ギャラリーの求めるサインにこたえていました。ジョダン・スピースのような人気選手にはサイン待ちの長蛇の列ができておりましたが、根気よくサインに応じていたのが印象的でした。
選手のプレー中のカメラ撮影は、どこでもいつでも自由にできます。肖像権に関しては日本よりも厳しい米国ですが、SNSなどを通じての効果の絶大さを認知しているのでしょう。日本ではスマホでの写真撮影時、盗撮予防で音が鳴るように設定されています。驚いたことに米国に持ち込んだスマホは、写真や動画撮影時に無音設定に自動的に変換されているのです。シャッター音を気にすることなく、多くのギャラリーがスマホをかざして人気選手の撮影に興じていました。
巨大スクリーンの有るギャラリー広場には多くのテーブルセットが設置されていて、まるで野外映画館のようでもあります。また各ホールには巨大スタンドが設置されており、定点観測をするギャラリーにはうってつけの場所となります。そしてスタンドのギャラリー歓声がコース内に轟き、大会自体を盛り上げます。ギャラリーが選手たちを盛り上げることで、感動的で奇跡的なプレーを引き出しているかのようです。
最終日最終組で、15番のティーショットを大きく右に曲げてギャラリーの中に打ち込んだフィッツパトリック。ギャリーが取り囲む残り220ヤードの2打目を、5.5メートルにつける起死回生のスーパーショットを放ちました。そしてそのバーディーパットを決めた瞬快のギャラリーの歓声は15番グリーン周りのスタンドだけでなく、遥か離れた18番グリーンサイドのスタンドまで地響きのように轟き響いたのです。まさに歓喜のどよめきが大会会場内に轟いた瞬間でもありました。
2013年、本コースで開催された全米アマで優勝したフィッツパトリックが、全米オープンで優勝するという感動の物語をギャラリーと選手が共に作り上げていったかのようです。今までジャック・ニクラウスしかできなかった、同コースでの全米アマと全米オープンの優勝が成し遂げられました。
優勝が決まり、むせび泣くキャディーのビリー・フォスターにフィッツパトリックが歩み寄り抱きしめます。ギャラリーからの惜しみない拍手。中には、もらい泣きをしている観客も。最終日の壮絶な18ホールにわたる戦いは、筋書きのないドラマとして選手のみならずギャラリーと共に作り上げたられた舞台のようでした。
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