松山選手のマスターズ優勝に学ぶ成功のポイント

今年4月11日(日本時間12日)、日本のゴルフ界にとって歴史的な出来事が起こりました。そうです、松山英樹選手のマスターズゴルフ優勝です。日本人初、いやアジア人初の快挙です。各メディアもこぞって報じていたので、興奮で月曜日は仕事にならなかった人も多かったのではないでしょうか。

松山選手の優勝の要因は、欧米人にも引けを取らないフィジカルの強さ、飛距離、メンタル力の向上、そして結束力の強いチーム力…など、さまざまなメディアで報じられました。これらはすべて的を射ていますし、私もその通りだと思います。しかし、それを「松山選手は凄いね」「オレ達には到底無理」で終わらせてしまっては勿体ないです。

私はゴルフスクールを経営しながら、私自身、一般の方々を対象にゴルフ指導を行っています。私が主管するゴルフスクールは「ゴルフウェルネス=ゴルフで心身ともに健康を」をモットーに、健康増進やメンタル力向上に主眼を置いたゴルフ指導を行っています。この経験を活かし、松山選手のマスターズ優勝を振り返りながら、アマチュアゴルファーの上達のヒントをお伝えしたいと思います。

笑う門には福きたる

私がマスターズでの松山選手のプレーを見ていて感じたことは、松山選手は表情が明るくなったなということです。今までの印象では、喜びの感情を表に出さない一方で、ミスしたときのイライラや怒りの表情は露骨に表すのが松山選手でした。しかし今回は真逆で、ミスをしてもイラついたり、周りに当たったりの行為は見られませんでした。そして逆にプレー中随所で笑顔が見られました。このことを、松山選手本人は帰国会見で次のように述べています。

「前の週のバレロ・テキサス・オープンで初日は良かったのに、その後の3日間良くなかった。そのときに、なんでこんなに怒っているんだろうと自分にあきれたところがありました。マスターズの週は日に日にスイングも良くなっていましたし、フィーリングが良くなったので、今週は怒らず、やってきたことを信じてプレーしようと思いました。(中略)他の人に当たってしまったり、チームのみんなに迷惑をかけて、そのときに『何をやっているんだろう』とハッと気づいた。マスターズの前に気づけたのは良かったです」

また、「表情のやわらかさは意識したのですか?」という記者の質問に対して、「心がけてやっていたというのもありますし、状態が上がってきてミスを許せるという気持ちになったんじゃないかなと思います」と答えています。

感情のままに怒っても何も良いことはないと気づき、「ミスを許せる気持ちになった」というのは、彼の人間的成長を表しています。「ゴルフは人間力が試されるスポーツ」といわれますが、正にその通り。徳のある人間は皆、穏やかでニコニコしています。松山選手の優勝に大きく貢献したのが「笑顔でいたこと」ではないでしょうか。

笑顔は、人のパフォ-マンスを向上させます。笑顔によって表情筋が刺激を受け、脳にフィードバックされてポジティブな感情が生まれ、前向きな気持ちをつくりやすくなるからです。何をやってもうまくいかないという経験は誰もが持っていると思いますが、そうした時ほど焦りや不安といった感情が表情や態度に出ているはずです。上手くいくから笑顔になるのではありません。笑顔で取り組むから物事は上手くいくのです。これはビジネスもゴルフも、マスターズも社内コンペも全く同じなのです。皆さんも是非、「笑顔のプレー」「ミスしても笑顔」を心掛けてください。

「感謝」を表すことが物事を成功に導く

今回のマスターズでは、松山選手の優勝を支えたキャディーの行動が話題になりました。松山選手がウィニングパットを沈めた後、キャディーの早藤将太氏がピンをカップに戻すときにコースに一礼した、あの行動です。早藤氏は、四国高知の明徳義塾高校ゴルフ部で松山選手の2年後輩です。そしてピンを戻すときの一礼は、明徳ゴルフ部の高橋監督の教えといいます。このことから、同ゴルフ部では「感謝」や「礼儀」が行き届いていることが想像できます。この「感謝」も、笑顔と同じく人のパフォーマンスを向上させる行いの1つです。

あの一礼が世界で賞賛されたのは、日本だけでなく世界中の多くの国がコロナ禍で先が見えず、穏やかな気持ちではいられない今の世相が反映しているようにも思います。気持ちに「不平」や「不満」が溜まると、つい愚痴や文句が多くなります。近年ではSNSがそれに拍車をかけるようになりました。だからこそ、あの一礼に価値を感じる人が多かったのではないでしょうか。

人が感謝を表せば、それを受ける人も穏やかな気持ちになれるでしょう。感謝をしてイライラしたり、不安になったりする人はいません。ですから、あらゆるものに感謝の気持ちを持てば、ずっと穏やかな気持ちでいられるようになります。逆に、愚痴や文句が多くなると、間違いなくパフォーマンスは下がります。ゴルフではミスショットを連発するようになり、ビジネスでもミスが多くなります。何より相手の印象が悪くなり、良いことは1つもありません。

感謝の気持ちを言葉にすると「ありがとう」です。キャディーの早藤氏は、のちに当時の心境についてこう語っています。「特別な感情はありません。“ありがとうございました”ただそれだけでした」と。「ありがとう」は漢字に書くと「有り難う」です。これは、「有るのが難しいこと」、つまり「特別なこと」です。ゴルフが楽しめるのは、「当たり前」ではなく特別なこと、感謝するに値する素晴らしいことだと気付けば、愚痴や文句は出なくなります。

このように考えると、早藤氏がコースに一礼した気持ちが理解できると思います。松山選手も優勝スピーチで「Thank you!」の後に、「オーガスタ・ナショナルのメンバーの皆さん、ありがとうございました」と続けました。

感謝すること、そしてそれを表現すること、これが大切です。笑顔とともに「ありがとう」を発するクセをつけましょう。そうすれば、ゴルフでもビジネスでも、成功の確率は格段に向上します。ぜひ、実践なさってください。

自分のことだけでなく、全体最適を考える

最後に、松山選手の優勝の要因に挙げたい点が、彼の帰国会見における次の言葉です。

「これまでメジャーで勝てなかった僕が勝ったことで、これから先、日本人が変わっていくんじゃないかと…(中略)…日本人でもグリーンジャケットを着られるんだと証明できたと思う。子どもたちが僕みたいになりたいと思ってくれたら嬉しいなと思っています」

この言葉から、松山選手は自分が勝てたことで完結しているのではなく、先々の日本のゴルフ界全体を考えていることがうかがえました。

ゴルフは個人競技ではありますが、自分のプレーのことだけではなく、同伴プレーヤーや後続組のこと、そしてコース全体の環境保護にまで配慮するという側面があります。同伴プレーヤーのボールを探し、良いプレーには「ナイスショット」と称え、後続組のプレーに配慮してバンカーを均(なら)したり、ターフを戻したり、目土をしたりと他者への配慮を心がけます。

このような他者や周囲を気遣うマインドは、己の心をフロー化し、己のパフォーマンスを高める結果につながります。「フロー」とは、応用スポーツ心理学の言葉で、物事のパフォーマンスが向上するココロの状態です。

バンカーを均したり、ディボット跡に目土したりする行為も、自分より先に回っているプレーヤーがそれを行ってくれているからこそ、自分も良いコンディションでプレーできているわけです。つまり、自分のことだけを考えた行為だけでなく、全体のことを考えた行動は、巡り巡って自分のためになるのです。

仮に自分が打った跡のバンカーを均さず、そのままプレーを続けたとしたら、きっとそのプレーヤーは心がノンフローに陥り、その後のプレーの質は低下するでしょう。正に、「情けは人のためならず。巡り巡って己のため」だと思います。

このように、松山選手は日本のゴルフ界全体のことを考えることで己を鼓舞し、最高のパフォーマンスを発揮することで「マスターズ優勝」という快挙を達成できたのではと私は見ています。

コロナ禍において、私たちは「当たり前の日常」は“当たり前”ではなく、人々の努力によるかけがえのないものだと学んでいるはずです。松山選手にならい、「他者への気遣い」を忘れず、「笑顔」と「感謝」を表すことで、世間を覆っている閉塞感も晴れていくに違いありません。このことで、世界中のすべての人々が、純粋にスポーツを楽しめる世の中になれると信じています。

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【略歴】
1993年 サラリーマンからゴルフインストラクターに転身。
2004年 ハル常住さんが主管するハルスポーツビレッジ認定インストラクターとして“ゴルフと
    健康との融合”をテーマに活動を始める。
2005年 「有限会社ゴルフハウス湘南」の代表取締役社長に就任。
2008年 総合コンサルティング会社「株式会社船井総合研究所」と共同で、ゴルフ練習場活性化
    プロジェクトを立ち上げる
2011年 朝日新聞グループが選定する「マイベストプロ神奈川」に認定される
2018年 神奈川県未病産業研究会に参加
2020年 「一般社団法人日本健康ゴルフ推進機構」を設立し、会長に就任する

【メディア実績】
■ゴルフクラシック誌(2008年12月号~2010年12月号)
 連載「ゴルフが変わる!ボディ・チューンナップ」全24回を執筆
■週刊ゴルフダイジェスト(2014年1月28日号)
 「ボールを打たずに上達する!凄い練習法」掲載
■ビジネス情報サイト「Biz Clip」(2015年10月~)
 連載コラム「ゴルフエッセー~耳と耳の間~」現在も執筆中
https://www.bizclip.jp/

【著書】
「仕事がデキる人はなぜ、ゴルフがうまいのか?」(出版社:星雲社)
 https://www.publabo.co.jp/golf/