ゴルフジャーナリストからの『提言』- 2006年ゴルフ界へ –
提言!苦言!証言!「2006年日本のゴルフ界を点検する」ゴルフ界の進歩と飛躍に必要なものは何か?
日本のゴルフ界も一時の「すべてがドン底」という状態から抜け出し、明るい話題や、その予兆を感じさせるようなニュースが時々報じられるようになった。そこで、当協会の会員が、この流れをさらに加速させるための提言!逆流させないための苦言!そしてこれまであまり報道されてこなかった証言!を、各自テーマを絞って執筆した。
ブラインドゴルファー 運動不足を解消する最適なスポーツ ~ 文屋 源也~
目の不自由な人のゴルフが広がりを見せている。白い杖をクラブに持ち替えてナイスショット。メタルドライバーの快音とすがすがしい開放感のとりこになってしまうようだ。パートナーと二人三脚でラウンドするブラインドゴルフ。外出が苦手だった視覚障害者にとって、癒しの効果とストレス解消。運動不足をカバーする最適のスポーツと人気上昇中だ。
ホールカップを叩いた音だけで方向と距離感を瞬時に判断
8年前になる。視覚障害者の全英ゴルフ選手権に優勝した中西由夫さん(京都市在住=当時60)を取材した。1997年度の「BRITISH OPEN CHAMPIONSHIP FOR BLIND GOLFERS」は6月26、27日の両日、英国スコットランドのロイヤルトゥルーンGCで米英はじめ7カ国52選手が参加して開催された。全盲の部に初出場した中西さんは日本人として初めての優勝を飾ったのだった。目の不自由なブラインドゴルファーとのお付き合いはこのときから始まった。
全国組織としては「日本盲人ゴルフ振興協会」と1994年に創立した「日本視覚障害ゴルファーズ協会」の二つの組織がある。京都視覚障害ゴルファーズ協会(KBG=中西由夫会長)やNPO法人大阪視覚障害ゴルファーズ協会(OBG=水嶋勝会長)などは下部組織にあたる。
広島でブラインドゴルファーの指導と育成に力を注ぐ女子プロの枝広美子高陽ゴルフセンター支配人によると「各地で開催される競技会に出場する人たちは延べ100人足らずですが、練習に励んでいるブラインドゴルファーは500人を超えるのではないでしょうか」KBG、OBG両協会併せると35人が登録。宮里藍や横峯さくらに代表される女子ゴルフブームに後押しされ、女子のブラインドゴルファーはじめ、希望者は確実に増えている。
目の不自由な人が、どうやってゴルフをするのかとよく質問される。ブラインドゴルファーはパートナーの助けを借りて二人一組でプレーする。ボールの位置、打つ方向、目的までの距離を決めるのはパートナーの役割り。ブラインドのプレーヤーはパートナーの指示に従ってスイングする。
9ホールを50前後でラウンドするプレーヤーを例にとると、集中力に優れミスショットは少なく距離感の正確さは驚くばかり。音感、触感の鋭さは晴眼者と比較にならないほど。グリーンに上がっただけでアップ、ダウンを感じ取ってしまう。カップまでの長さは歩測で測るが、カップをたたいた音で方向をキャッチし打ち損じは余りない。池越え、谷越えのプレッシャーはなく、ブラインドならではのプラス面もある。
ブラインドゴルファーに対する理解度が今後の課題
用具は一般のクラブ、ボールを使い、ルールもほとんど変わらない。違うのはハザード内(特にバンカー内)でクラブのソールを接地できるのと、自打球が自己または自分の所有物に当たっても無罰の2点くらいだ。競技では進行を早めるためのギブアップルールがある。パーの3倍まで打ったときは球をピックアップ。そのホールのパーの3倍に2打を足しスコアとするというもの。
目の不自由なプレーヤーにとって周りの景観は見えないかもしれないが、四季折々の草花の香りに触れ、風を感じ、小鳥や虫の声を聞く機会は決して多くはない。自ら進んで外出する意欲的な人は少なく、「芝生の上をスパイクで踏みしめ、体を動かすスポーツとしては最高。ストレスの解消にもなる」と、みんな楽しそうに生き生きとした表情を浮かべてクラブを振っているのが印象的だ。
ブラインドゴルフがもっとも盛んな米国ではベトナム戦争後、失明した復員軍人のリハビリの一つとして取り入れ人気を博した。野球、バレーボールと違い静止した球をプレーするゴルフは視覚障害者に適していると言われ、しかも晴眼者とほぼ同じルールで競技ができる唯一のスポーツとして急速に普及した。
パートナーにはプレーヤーとは別の楽しみと喜びがある。プレーヤーが頭に描いたイメージ通りのショットを放ち、ラインの読みが的中してロングパットが1発で決まったときなど、キャディとプレーヤーとの関係とはまた違った満足感を感じるものだ。少なくともパートナーはブラインドゴルファーの〝目〟の代わりだけではない。実戦の知識と技術がはっきりとスコアに現れる。日ごろの練習の成果をいかに引き出すかはパートナーの手腕にかかっている。
ブラインドゴルファーの普及にはパートナーの養成が切り離せない。一般的にパートナーを務めるのは夫婦、親子、兄弟が多いが、スコアメークを重視する場合、ハンデ上位の上級者が望ましい。OBGには京滋オープンゴルフ選手権ベストアマ(92年)の川口文雄氏が2年前からボランティア会員に加わった。川口氏がスイングを指導するようになって、全員レベルアップしたのはいうまでもない。
パートナーはボランティア活動である。定期的に会員募集しているがまだ不足がちだ。足りないのはパートナーばかりではなく、ブラインドゴルファーに対するゴルフ関係者の理解不足も同じ。ブラインドゴルフを知らない人は多く、個人でプレーできるゴルフ場や練習場は限られている。事故が起こっては困るという理由からだ。こうしたごく初歩的な問題をクリアにしていくことが、これからの大きな課題であろう。