「ゴルフ場は僕らの戦場だった」
西村國彦
不条理で納得できない状況をどう突破するか。法理論に欠陥があって「被害」を受ける人たちはどう対応すればいいのか。法的少数説に拠る弁護士はどう闘うべきか。
日本人のメンタリティは昔も今も変わっていないのではないかと私は思う。一旦バブルが起こると流れに乗っていち早く購入し、バブルが崩壊すると投げ売りし、それがさらに値段を下げる。不動産でも株式でもゴルフ会員権でも同じだ。
《泣き寝入りを強いられたゴルフ場会員》
20弱のコースを保有する名門ゴルフクラブがあった。大手金融機関A社が後ろ盾だとされていたが、会員にも内緒で多額の会員預託金付きのまま売られていた。それを購入した大手企業B社はリーマンショック後、外資系安売りゴルフ場経営会社C社に転売するべく法的な民事再生をかけた。しかしそれが2万人会員の怒りを買う。されどゴルフ場には担保付債権が付いており、会社側がそれも有している以上、会員側が勝てると考える法律家はいなかった。従業員も会員の多くも諦めるしかないと思い込まされていた。
ところが、大方の予想を見事に裏切り、数年後会員は勝利を勝ち取る。法的にはあり得ないとされていたことが起こった。そのクラブは当初、中小企業との取引の多い中堅銀行系のゴルフ場だったが、大が小を飲む金融機関の合併で大手金融機関のゴルフ場というイメージが付いた。さらに極秘購入したB社も有名企業で、所有者は2大ブランドの提携を装い続けた。最後の転売先候補はハゲタカファンドの安売りゴルフ場グループC社。会員軽視、年会費増額、会員権価格下落に無関心なそのC社を嫌悪していた会員たちは実は多かった。
《どっこい、天は自ら助くるものを助く》
陰に陽にブランドをかざしたゴルフ場経営会社が会員たちをミスリードし続けた本件では、会員がまとまって割れず最後まで諦めず闘えば勝てると私は会員に訴え続けた。その訴えは有志に響き、彼らは次々と素晴らしいボランテイア活動を始め、いつかサイレントマジョリティに届き、遂にはダブルスコアでの奇跡の勝利に至った。
勝因は何だったのか。まずは鋭い問題意識を共有できる人を3人探す。3人の周りには共感し行動を共にする仲間が各自最低10人はいる。その30人の周りにはシンパが各自さらに10人いる。計300人が行動すれば世論が形成される。マーケット理論でも、流行は敏感な3%が動くとその周辺の関心ある層が動き出し、20%に達すると大ヒットになるという。ズボンの太さやスカートの長さの流行を思い浮かべて欲しい。世の流行と社会的な運動には共通性があり、20%の支持を集めれば、過半数を取れる可能性が出てくるのだ。社会的影響力の大きな企業ほど、過半数の支持を集め得る世論や流行には逆らえない。
そのような流れを止めるのは、唯一仲間同士の諍いである。それは同調し過半数を目指し得る20%が、増大するどころか維持できなく、転がり落ちることとなるからだ。多くのゴルフ会員の運動がそうして挫折してきた。会員は「分断」されて、「統治」されてきたのだ。天は自ら助くる者を助く。その顛末は今春刊行された拙著『ゴルフ場 そこは僕らの戦場だった』に詳しい。
緑輝く季節のゴルフは格別だ。さあ、週末はゴルフに行くぞ。
(2015年夏 東京商工連盟ニュース NO.9より)