TEE IT FORWARDって何???  ~西村 國彦~

私のホームコースに今般レディスティ(以下赤ティと言います)が新たに設置されることについて、世界のゴルフ場も視野に入れて書いてもらえないか、との話があり、世界の赤ティ事情について勉強させていただきました。

 

調べ始めてみると、この問題、なかなか奥が深いのです。でも結論は、決まりです。オーガスタでもオールドコースでも、そしてあの閉鎖的で女性を入れなかったミュアフィールドまでが女性に門を開く時代、しかもゴルファー半減とも言われるゴルフ場の将来を見据える限り、女性プレーヤーへの配慮がないゴルフ場は衰退することが明らかだからです。

リーマンショック以降欧米のゴルフ場は、どんどん世界に開かれる方向にあります。女性ゴルファーの適性にあった赤ティの導入は、当然のことでしょう。

 

女性会員がいないとか、女性プレーヤーが全く来ないのであれば、赤ティは不要でしょう。確かに日曜日午後しか女性のプレーが認められないパインバレー(米国ニュージャージー州の世界一の評価をされる超名門コース)とか、女性をプレーさせないゴルフ場なら、仕方がないとも思います。

また短めの古いコースで二つくらいしかティがない新軽井沢などであれば、やむを得ないでしょう。表面上赤ティがないかのように見えるゴルフ場でも、呼び名をフロント・シニア・グリーン・ジュニアなど赤とは別のものにして、実質的に赤ティを導入しているゴルフ場も少なくないようです。

美観や造成費用に加え、谷越えが多いコースであることが赤ティ導入のネックになっていたようです。

 

私は今年、スコットランド、ポルトガル、スペインほか欧州で16コース以上をラウンドしてきました。そこでは、リゾートコースばかりでなく、オールドコースやバルデラマなど世界的名門も含め、すべてのコースに赤ティが設置されていました。

これらのコースの赤ティ全体平均距離とパー3,パー4,パー5の平均距離は、下記の通りです。

 

スコットランド(4コース)全長平均5539Y, パ-3 142Y,パー4 308Y,パー5 428Y

ポルトガル  (8コース)全長平均5240Y, パ-3 127Y,パー4 317Y,パー5 435Y

スペイン    (4コース)全長平均5341Y, パ-3 122Y,パー4 308Y,パー5 444Y

 

これらのコースでは、赤ティばかりでなく、シニアティやジュニアティまで、さまざまな名称で新しいティが出来ていました。

 

欧州からアメリカに目を向けるとどうでしょうか。アメリカでは、すごい飛距離のプロたちと同じようなところから、アマチュアたちもグリーンを狙うゴルフが提唱されています。

TEE IT FORWARDという運動が展開されているのです。

 

これはゴルフ好きのフェイスブック仲間からの情報で知ったことですが、なんとUSGAとUSPGAが一緒になって、ゴルフ離れ対策の一つとして、みんなでゴルフをもっと楽しもうという趣旨で提唱しているものです。ゴルファーそれぞれの能力(飛距離だけではありません)に最も適したティからゴルフをやりましょうということ。確かにフルバックからでも、今の飛ぶプロたちは、パー4セカンドでショートアイアンしか持たないゴルフをしているのに、私たちアマチュアがセカンドをウッドで狙い続けているのは、本当におかしいことですね。ドライバーを打ったらすぐウェイウェイウッドを手に取るというのは、本当のゴルフの醍醐味とは違うはずです。

 

一説では、女性のドライバー平均飛距離は165ヤード、男性は220ヤードで、日本のゴルフコース18ホールの平均飛距離は6703ヤードとも言われます。

 

ちなみにJGAでは2014年からUSGAハンディキャップシステム(1985年以降米国コース設計はスロープシステムを前提にされているとのこと)を導入しました。スロープシステムというのは、コースの難易度をプレーヤーのハンディキャップに反映させるシステムです。

そこでは、ハンディキャップインデックス24の女性ゴルファーは、ドライバーの平均飛距離が150ヤードで、280ヤードまでの パー4を2オン可能とされているようです。スロープレートと各ティとの関係については別の機会に書いてみましょう。

 

他方で、女性のゴルフに詳しい時田由美子さんが最近書かれた記事(ゴルフ場セミナー2015年11月号 ゴルフダイジェスト社)によると、女性のドライバーの飛距離は、飛ばし屋さんが180ヤード前後、ごく標準的な女性たちが150ヤード前後だそうです。100ヤードは7番アイアンが多く140ヤードのパー3ホールで女性たちが一番多く使用するクラブは、なんとドライバーと5番ウッドだそうです。

 

その意味で、パー4,パー5では、男子(白)ティと50ヤード以上の差があってもおかしくはない気がします。セカンドショット以降も、女性は同じ番手では打てないわけでしょうから。もちろんゴルフは飛ばしっこではなく、アプローチやパットのような繊細な小技でスコアメイクするものですから、飛距離だけで比較するのは片手落ちです。「飛ぶけれど曲がる」悩みを持つ男性はたくさんいます。

 

ゴルフコーチ大矢隆司さんの意見では、「女性ゴルファーはプロや男子ゴルファーより遙かに高い難易度でプレーしている」、男子並みに難易度を調整すると「PAR3 で100-120ヤード、PAR4 で230-250ヤード、PAR5 で350-420ヤード程度で総距離4500ヤード程度が理想的」とのこと。現状、彼女たちは男性たちが「約6900ヤード以上の難コースに挑戦している感覚でゴルフをしている」そうです。

先ほどの時田さんも、「女性が5000ヤードのコースをプレーすることは、男性が7000~7500ヤードをプレーするのと同じ難易度」と指摘されています。

USAの2大ゴルフ団体が共同して短いコースでゴルフを楽しもうという運動を展開していることは注目に値します。

 

確かに海外ゴルフ場は、女性用ティを短くする傾向があり、また日本国内でも、一般女性ゴルファーの飛距離に見合う赤ティを望む女性たちの悲痛な声があることは事実でしょう。ただわが国にはまだ2200コース以上のゴルフコースが残っています。それぞれのゴルフ場がその歴史やポリシーにしたがってティの設置をすることにより、その特徴をアピールすることは許されるはずです。

ゴルフに特有のハンディキャップも、ゴルファーの上達目標であるのと同じく、赤ティであっても女性ゴルファーの飛距離アップのインセンティブになるように、少し長目に設定するゴルフ場があっても、いいと思います。

 

バブル期に計画された池がたくさんあるゴルフ場などでは、赤ティが池の前や横に設置され、全体距離も短いコースが多いようです。でも、少しばかりゴルフの楽しさを知った女性ゴルファーたちは、シニアティとか白ティから150ヤード前後の池越えにチャレンジすることも、ゴルフの醍醐味と感じているようです。

TEE IT FORWARDでゴルフを楽しもう。でもチャレンジ精神も忘れずに!

 

最後に、私が調べた海外のコースの赤ティ(もしくはレディースティ,フロントティ等そのコースで一番距離の短いティ)の総距離を列挙しておきます。参考になれば幸いです。

 

(2015年冬 袖ケ浦CC会報に書いた原稿を大巾に改訂したものです  2015.12.14再改訂)

 

【英国】

  1. ①The Royal Burgess (Scotland) 黄(PAR73が女子用と思われる)5704Y
  2. ②THE DUKES (Scotland) 赤5216Y
  3. ③OLD COURSE (Scotland) 赤6032Y
  4. ④BALCOMIE LINKS (Scotland) 赤5207Y

 

【ポルトガル】(メートル表示なので、距離数字は1.1倍少数点以下切り捨てでヤード換算ずみ)

  1. ⑤GOLF DO ESTORIL 赤4804Y
  2. ⑥PENHA LONNGA 赤5601Y
  3. ⑦OITAVOS DUNES 赤4936Y
  4. ⑧VALEDOLOBO ROYAL 赤5399Y
  5. ⑨SAN LORENZO GOLF CLUB 赤5688Y
  6. ⑩ONYRIA PALMARES  赤5480Y
  7. ⑪QUINTA DO LAGO 赤5684Y
  8. ⑫MONTE REI 赤5329Y

 

【スペイン】(メートル表示なので、距離数字は1.1倍少数点以下切り捨てでヤード換算ずみ)

  1. ⑬VALDERRAMA 赤5361Y
  2. ⑭LA RESERVA DE SOTOGRANDE 赤5614Y
  3. ⑮The San Roque Club 金5052Y
  4. ⑯FINCA CORTESIN 赤5337Y

ABOUTこの記事をかいた人

1947年生まれ。東大法学部卒。1976年弁護士登録(東京弁護士会)。
現在さくら共同法律事務所シニアパートナー。
1997年通産省会員権問題研究委員会委員。
ゴルフ場据置期間延長問題や東相模ゴルフクラブ(現上野原カントリークラブ)をはじめ南総カントリークラブ、太平洋クラブの再建など会員とゴルフ場を守るための活動を実践している。
また実際に自分の目で見てきたメジャートーナメントでの経験や、実際に自分が世界(米国・英国・アイルランド・豪州・アジア)の素晴らしいコースをプレーした経験をさまざまな形で発信しているゴルフジャーナリストでもある。掲載誌は月刊ゴルフダイジェストアルバトロス・ビューゴルフ場セミナーゴルフマネジメントゴルフィスタなど多数。
主な活動・著書
「ゴルフ学大系」のうちゴルフの法律」(1991年・ぎょうせい)
「ゴルフ場預託金問題の新理論」(共同執筆)(1998年・日本ゴルフ関連団体協議会)
「ゴルフ会員権再生の新制度」(共同執筆)(1998年・日本ゴルフ関連団体協議会)
「ゴルフ場再生への提言」(1999年・八潮出版社)
経済産業省サービス産業課「ゴルフ場事業再生に関する検討会」レクチャー(2002年)
「賢いゴルフ場 賢いゴルファーのための法戦略」(2003年・現代人文社)
「平成ゴルファーの事件簿」(2003年・現代人文社)
「ゴルフ場の法律に強くなる!」(2007年・ゴルフダイジェスト社)
「ゴルフオデッセイはにかみ弁護士の英米ゴルフ紀行」(2011年・武田ランダムハウスジャパン)
ほか、近著に太平洋クラブを舞台に会員の全面勝利を描いた
「ゴルフ場 そこは僕らの戦場だった」(2015年・ほんの木)
月刊「GEW(ゴルフ用品界)」に連載された
「ゴルフ文化産業論」(2021年・河出書房新社)がある。