【２０１５年８月５日にデイリースポーツに掲載された記事を引用する】
小よく大を制す―という言葉通りに、杉原は１６０センチ、５０キロという小さな身体で、１８０センチもの大男のプロたちを次々と倒していった。ドライバーでの飛距離は完全に負けているのに、ホールアウトしてみると、杉原のストロークの方が少ないのである。
特に地方関西では強かった。毎回、宝塚ＧＣに拠点を置く島田幸作と争いながら、関西オープン９度、関西プロも９度制している。戦前戦後の天才とうたわれた戸田藤一郎が最後の公式戦勝利となった１９７１年の関西プロ（箕面ＧＣ）では、新進の杉原が一歩も譲らぬプレーオフを演じた。１０、１１、１８番の３ホール合計で争うもので、２人のプレーをたくさんのギャラリーが見守った。
１０、１１番はお互いにパー。勝負は１８番にもつれ込んだ。途中からやや上りのホールで、５６歳の戸田はすっかり疲れ果てていた。３３歳の杉原は「おとっつあん、しっかりしってよ」と戸田のお尻を押しながら歩いた。結果はパット勝負となり、杉原は敗れたが、戸田との互角の勝負を繰り広げたことで、杉原の名声はますます上がった。
関西のファンをさらに引き付けたのは尾崎将司ら関東勢を撃破する杉原の闘志だった。１９７９年のよみうりオープン（よみうりＣＣ）は、杉原とジャンボのプレーオフとなり、勝負の行方はグリーン上の工房に持ち込まれた。杉原はピン上７メートルにつけて下りの難しいパットが残った。一方、ジャンボはピン下３メートルに寄せた。だれしも勝負あったと思った。ところが、杉原の上からの長いパットがスルリとカップに入ってしまった。さあ、こうなるとジャンボのパットは難しくなる。やはり外してしまった。
試合後、杉原はそっとつぶやいた。「あの僕のパット、１００回やっても失敗しただろうな。本当によく入ってくれた」と。ここ一番でみせる勝負強さは見事というほかなかった。（つづく）
ＷＨＯ‘Ｓ ＷＨＯ
杉原輝雄（すぎはら・てるお）１９３７年６月１４日、大阪府茨木市出身。１９５７年にプロ入りし、通算６３勝（海外１勝。シニア８勝を含む）を挙げる。２０１１年１２月２８日に前立腺がんのため死去。
